71. MODE SURREAL 奇想のモード 【展覧会】
東京庭園美術館で4月10日まで開催されている展覧会、「MODE SURREAL 奇想のモード」に行ってきました。
庭園美術館は建築も美しく、“その空間で見る”ことに付加価値のある美術館。今回の展示では正直これ! というほど心惹かれるものはほんの少ししかありませんでしたが、空間の雰囲気も相まって満足度の高い鑑賞となりました。
庭園美術館は旧朝香宮邸と言い、鳩彦王が1906年にアール・デコ様式で建てた宮家です。技術の粋を集めた邸宅は重要文化財に指定されており、今は美術館として、様々な美術品と豪華な内装の相乗効果を楽しめる豪華な空間を解放しています。
この建築で最も好きなのは入ってすぐのルネ・ラリック作のガラスレリーフ。
翼を広げた女性が並んでいて、空へ浮かび上がっていくような姿が印象的です。最初にこの女性たちに迎えられると、それだけで心が洗われた気がするような見事な一品です。
元々はここが玄関扉として使われていたそうですが、現在では保護のため閉ざされたままです。
今回の展示内容は、20世紀に一世を風靡した芸術運動シュルレアリスムとモードの関わりに焦点を当てるもの。
一階には当時のファッションアイテムと服飾の歴史を辿るファッションプレート、二階はシュルレアリスムの絵画作品、別館は現代の奇想のファッションを主に展示していました。
平日でしたがけっこう人が入っていて、場所によっては列が停滞することも。
コロナの関係で完全予約制、庭園は入場不可(実はいつも展示でいっぱいいっぱいでお庭を見たことがないのだけれど……)でした。また、撮影は別館のみ可能でした。
ゆっくりご覧になりたい方は早めの時間帯や遅めに行ったりと工夫された方が良いかもしれません。
さて、この展示でわたしの心に残ったのはこれらのものたちです。
・モーニングジュエリー
mornigではなく、mourning(喪、喪服などの意)のジュエリーで、喪に服す時に身に付けることのできるジュエリーです。
そして、このジュエリーの中には故人の髪を編み込んだりロケットに入れたりする類のものもあるのだとか。微かに昔聞いたことがあるような気がしなくもないような……でも「他人の髪の毛を身に着ける」行為に改めて衝撃を受けました。
髪の毛は呪いに使われる一面がある一方で、こうして祈りにも使われる。人間にとって何かしら特別な印象を抱かせる魔的なもの。わたしは誰かの髪を持ち歩くのは怖いと感じるけれど、それを本当に大切にしている人も大勢いるのだと知りました。このことで一本作品が書けそうです。
髪の毛つながりでもう一つ、現代のデザイナー永澤陽一さんという方のボディ・アクセサリーには目を見張りました。
髪を編んで作った“髪の毛の服”なのです。首から腰まで編み込まれた髪が、一番下のところで一つに結われて垂れ下がっています。髪の始まりは革紐に縫い付けられていて、後ろ側はリボンで留めるようになっていました。
本当に着られるのかは謎ですし自分で着たいとは思いませんが、ファンタジー作品に出てきそうな見た目で現実とは思えない繊細さでした。
・玉虫の甲冑
メインビジュアルにも使われている、玉虫の羽だけでできた甲冑です。
「昆虫記」が有名なファーブルの曾孫、ヤン・ファーブルさんの作品。
玉虫というとやっぱり玉虫の厨子のイメージなので、現代でも使われているんだと驚きました。
そして表面より、裏面の輝くばかりの色彩にもハッとさせられました。
玉虫の厨子も昔はこんな色だったのかと思うと複雑な気持ち……。ヤン・ファーブルの作品も、全面に玉虫の羽を使ったドレスなどもあるようですが、これくらいの大きさの方がまだしも控えめで美しいと感じます。
・オラース・ヴェルネ(Horace Vernet)の「アンクロワヤブルとメルベユーズ」
この本の一ページとして展示されていた、白いドレスにピンクのリボンを結んだファッションプレートがとても可愛らしかったので、名のあるファッション画家なのかと思ったのですが、違いました。ヴェルネがよく描いていたのは戦争画などで、ファッションプレートは寧ろ数少ない仕事だったようです。
でもこの「ジョルジュジャックガティーヌが刻印したインクロヤブルエメルベイユのファッションプレート」なるイラストは、色合いや仕草が本当に気に入りました。ポストカードがあったら欲しいくらい。
・串野真也の靴
レディー・ガガの靴を手掛ける串野さんの靴がずらっと展示されていました。話には聞いていましたが、実物を見るのは初めて。
履ける……のか? 歩ける……のか?
という到底靴には見えないデザインばかりで圧巻でした。現実世界の人間が履いているとは思えないし、もっと超越的で非人間的な存在にこそ履いていてほしい靴。
三次元なのに三次元に思えないような、頭が混乱する思いでした。
右端は、足の下に別の足があると思うと更に奇妙な感じがする鳥の靴。
踵のない靴はずっと爪先立ちで歩くことになるのだろうか? 騎士とかが履いていたら格好いいだろうなあ。
上の階のシュルレアリスム絵画には、特に気になるものはありませんでした。ただ、当時名だたるファッション雑誌の挿画を大勢のシュルレアリスムの画家が手掛けていたと知り、贅沢な時代だなあとしみじみ感心しました。全然ファッション誌に見えないものも多々あり、本当にこれ売れてたのかしら? とか心配になりました(笑)
庭園美術館好きなので、年内にもう一度くらいは足を運べたらいいなと思います。
ではまた。
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