167. リュイユ フィンランドのテキスタイル 【展覧会】
先日、京都国立近代美術館で開催中のコレクション展およびフィンランドの織物”リュイユ”の展示を観てきました。
時間があれば企画展の方も観ようと思っていたのですが、起きた時間が遅すぎて断念……。でもコレクション展だけでも充分見応えがあり、有意義な時間を過ごせました。
○リュイユ
リュイユとは、フィンランドの毛脚の長い織物のことを指すそうです。
元々は生活に根ざした工芸品として、色柄もあまり派手でないものが作られていたのが、1900年のパリ万博を機に、画家やデザイナーのデザインによって国家のアイデンティティを体現しロシアからの独立を目指す、芸術運動の一端へと変質します。
その後も時代とともに生活に合わせて形を変えていき、形や大きさも既存の概念に囚われない、アーティスティックな現代のリュイユが誕生したとのこと。
今回の展示は、今ではフィンランドを代表するデザインのひとつと評価されるリュイユの中から、1950年代以降に製作された特に見た目の派手なものを中心に選りすぐった約40点が並んでいました。
半分以上は、織物という言葉から連想される平らな布状の作品たち。
とはいえデザインはモダンだしタイトルの付け方も独特(赤い塔、フィンランドのフォルムなど)だったり。色も、微妙に色合いの異なる何本もの色を組み合わせているので、デザインを実際に織ることによって生まれるニュアンスがあります。
デザイン段階では二次元だったものが、織物という三次元になっている=絵柄は平面的だけれど、毛脚が長く分厚いこともあってタピスリーなどと比べると立体的、という特徴は、それが平面なのか立体なのか曖昧にしていて面白かったです。
そしてやっぱり目を引くのは、完全に立体の造形物です。
・イルマ・クッカスヤルヴィ「ファサード」
段差をつけて配置された3つの長方形は、右のものほど前に飛び出ていて、白から黒へのグラデーションが美しいです。わたしには夜の城壁に見えました。こちらを拒絶するでなく、ただ夜を体現して立っている城壁。
この作品に限らず冷たい印象のリュイユがないのは、表現されているものよりまず、毛脚が長くてもこもこと暖かそうという物理的な面が大きいのかもしれません。
・アイノ・カヤニエミ「悲しみ」
色も形も石のような大小のクッションを、まるで石庭のように配した作品。日本人はこれを見て禅の庭のような、瞑想する場を連想する人も多いかと思うのです。(実際には禅の思想を伴わない枯山水もあるようですが、それは置いておいて)
でもフィンランドに石庭はないでしょうし、果たして“異国の石庭なるもの”にインスピレーションを得て作ったのか、全く別のところに発想源があるのか気になります。
あとクッションとしても座り心地が良さそうだったので、触りたい欲求を抑えるのが大変でした。
○コレクション展
古今東西、平面作品も立体作品も取り混ぜて、7つのテーマで見せる展示でした。屋外の常設作品は時間の都合で見られませんでしたが、特に心惹かれた作品をご紹介します。
<前衛書>
西洋の“美術”が入ってきたことにより、絵画と引き離され「絵画に比べると少し劣っている芸術」と位置付けられた書を、芸術として復権させた前衛書。これまで注目して観ることはありませんでしたが、今回展示されていた井上有一さんの作品はどれも、書であって画であることを体現していて圧倒されました。これを機に、書の展示も楽しんで観られるような気がします。
・不思議
離れて見ると「不思議」でしかないのですが、最初近くから見たときは、画面を力強く埋める黒い線が何を表しているのか全く分からず、ただただ線の力を感じることしかできませんでした。シンプルだからこそ、漢字の形を改めて認識できる作品。
・風1/花
何と書いてあるかぱっと言い当てることは難しいですが、勢いよく吹き抜ける風を、生命力に溢れたくましく美しく咲く花を、的確に描写しているように思います。文字の形でそのものを表せるって面白い。
<いとへんの仕事>
糸や布を使った作品群の展示。今回は主にリュイユを観に来たこともあって、手芸作品に触れたい心持ちの日でした。精緻な刺繍作品から世相を写したアイロニカルな作品まで、その表現は様々ありました。特に私の趣味にあったのは、イギリスのミリー・スティーヴンスさんによる刺繍作品でした。
・ガードナーズ・チョコレートの箱
ガードナーズ社の箱入りチョコレートの、外箱の絵柄と箱に収まっているチョコレートの様子再現した作品。緑のアイシングが掛かっているチョコレートたちは、質感も相俟ってチョコというより寧ろ苔むした小石のようで、それが寧ろわたしを惹きつけたのかもしれません。やっぱり手芸作品は手を伸ばして触って愛でたくなります。
・押し紙の上の風景
何にそんなに惹かれたのかよく分からないのですが、なんとなく好きで何度も繰り返し観てしまった作品。手漉きの紙に草むらの風景が刺繍されています。落ち着いた色の組み合わせや微妙な立体感が良かったのだろうか。羊皮紙やピタパンを思わせるような紙も味があり、どことなく郷愁を誘います。
京都国立近代美術館は岡崎公園の中にあり、この辺りは休日穏やかな午後を過ごすのにぴったりだなあと思います。今住んでいる家からは微妙な距離なのでそう気軽には行けませんが、また折に触れて訪れたいところ。
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