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山尾悠子が好きすぎて山尾悠子になりたい人生だった

 山尾悠子をご存知だろうか。幻想文学の大家で、澁澤龍彦や赤江瀑の系譜を継ぎ、美麗で重厚な作品を書いている作家である。短編が多く、人魚や侏儒や天使など非現実的な登場人物が活躍し、ぎゅっと要素の詰められた耽美な作品は、多くの場合崩壊へと進む。
 基本的に近年の本は国書刊行会や人形写真集などを出すようなステュディオ・パラボリカから出ることが多く、本は函に入っていたり箔が押されていたり、とにかく豪華である。私は近年の本は全て持っているが、どれもかなり高価で、それでも買う人がおり、作る人もいるというのがこの作家のすごさだろう。
 山尾悠子の作品の中では珍しい歌集の『角砂糖の日』(Librairie6より発行)はとても美麗だ。角砂糖の名に合った真っ白な函、中の本は真紅だ。山尾悠子の本の装幀ではこれが一番好きかもしれない。

 作品は溜めてゆっくりと読んでいるが、どれも惹き込まれる強さがある。伝説の作家の集大成である『山尾悠子作品集成』(国書刊行会より)は「破壊王」シリーズとなるはずだった作品三つがどれも迫力があり、物凄い。定番の「夢の棲む街」「遠近法」を除けば、このシリーズがかなり好きだ。古代中国のような世界や中世日本のような世界。そこで繰り広げられる驚異の幻想譚。
 惜しむらくはシリーズがある事情で中断されてしまってラストの作品が書かれなかったことだが、一篇一篇が完結しているので満足いく読後感だった。

 伝説の復活として出版された『ラピスラズリ』(国書刊行会より)だが、私は青い旧版の本を持っている。本当は白い新しいほうもほしかったが、躊躇している間になくなってしまった。まあちくま文庫から出ているし、電子書籍もあるのだが、函入りの本はほしくなってしまう。
 冬眠する高貴な一族の一人である少女ラウダーテとゴーストのストーリーが特に好きで、『歪み真珠』(国書刊行会より)収録の同シリーズ作「ドロテアの首と銀の皿」も印象に強く残る。

 近年の作では軽やかな作風の『小鳥たち』(ステュディオ・パラボリカより)が特に好きで、老大公妃に仕える侍女たちが少女と侍女の姿を行ったり来たりするというアイディアがとても好きだ。幻想的世界かと思いきや、SF要素もあって、ハッとこちら側との近さを思わせる部分がある。そんなときこの作品の小鳥の羽ばたきのような軽やかさと明るさを好ましく思う。

 今はエッセイ集である『迷宮遊覧飛行』を読んでいる。
 笙野頼子が好き、倉橋由美子が好き、短歌が好き、スティーヴン・ミルハウザーが好き、宮沢賢治はあまり合わないようだ……と語る山尾悠子のいつにない気楽さが親しみが持て、何より好きなものの趣味がこちらと合いすぎて共感に至ってしまう。
 好きなものでいっぱいの作家を見ていると、気持ちがいい。小説ももっとたくさん書きたいようで、もっとたくさん書いてください、買いますから、という気分だ。

 こんなに本を買い、崇拝してしまうのは、彼女と同化したいからなのかもしれない。彼女のようなすごい作品を書きたい、素敵な装幀で本を出したい。
 でも、私などと同化するはずがないのが彼女なのである。今後の活躍にも期待したい。

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