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自分の感性を解放した結果、無謀な方向に歩き出した

「生きながら死んでいるみたいだ」そう自覚したと同時に日本を出ようと決意した2024年1月。その3ヵ月後、私は知り合いもいない、家もない、事前情報もないスペインに向かいました。

「スペインに長期滞在後、南米を周遊しようかな。」ざっくり考えていたのですが、今の私に周遊旅は必要なくなりました。そして、自分でも予想をしなかったことを言い出しているのでした。

全力で楽しむ人々が持つ癒し効果

私は今まで、キャリアの選択を「将来性やスキルアップ」を軸にしてきました。結果として、35歳を越えたあたりから自分の心がロジックに追い付かず、機能しなくなっていく感覚を覚えました。なんとか現状を変えたい、そのためには「心に従う他ない」と思い、内省を重ね、最終的に直感を信じて日本を後にしました。

どうしても行きたかったフラメンコの祭典

唯一計画をしていたのは、フラメンコのお祭り「Feria de Abril」への参加でした。「何事も期待をしない」と冷静ぶっていた感情はすぐに感動の波で押し流されることになります。

1年に1度、7日間に渡って開催される歌とフラメンコの祭典はとにかく華やか。合計1050以上のテント(casetas)がならび、渾身の衣装をまとった人々がお酒を片手に歌い踊る姿は圧巻です。「このお祭りのために生きている」という人も大勢いるほど、セビーリャの人々にとって「Feria de Abril」は大切なお祭りなのです。

所狭しと並ぶテントは家族や知り合い単位で貸切る完全なプライベート空間になっています。ただ浮かれモードで騒ぐだけでなく、大切な仲間や家族と幸せを共有している様子がひしひしと伝わってくるのも魅力的でした。

世代を越えて踊るセビジャーナスがこのお祭りの象徴

テントは観光客が入れないプライベート空間ですが、テレアポの経験がここで生きました(笑)。テントに招いてもらい、一緒に踊ったり食事を共にさせていただく機会に恵まれました。

屈託のない笑顔を浮かべている人、言い合いをして感情むき出しの人もいます。今の気持ちに正直に、全力で楽しむ陽気な人々の姿に、人の目を怖がる自分が馬鹿らしくなるほど癒されていきました。

苦難や苦悩が根底にあるからこそ情熱を感じる

その後、フラメンコを習得したいと思い現地の学校へ通った結果「私がフラメンコに惹かれる理由」がはっきりしました。フラメンコはスペインのアンダルシア地方で生まれ、ジプシーと呼ばれる民族が自身の貧しさや苦しさ、悲しみや葛藤を表現するダンスとして発展しました。

苦境を振り払うように全身で表現する姿。ギターや、リズムをとるパルマ、歌い手(カンテ)が踊り手のエネルギーを受け取り、会話をするようにその場の空気をつくっていくようすが、他のダンスとは一線を画する力強さと魅力を感じさせるのだと気づきました。

当初は旅をしながら心向くままに各地のダンスに挑戦をしようと考えていましたが、レッスンを重ねるごとに他への興味が薄れるほどフラメンコに熱中していきました。

地元のフラメンコ好きが集まる老舗のフラメンコ酒場「Torre Macarena(トーレ・マカレナ)」

クラスメイトに誘われて訪れたPeña(ペーニャ)という、お酒とダンスを楽しめるライブ空間でまた一つ、自分の心境に変化が訪れました。地元のフラメンコ愛好家や設立に携わった会員が集う小さな酒場は、その場にいるだけでもフラメンコの本質に触れているかのような心地よさがあります。なかでもパフォーマンス後に披露される「Fin de fiesta」という即興パフォーマンスには鳥肌が立ちました。力強い表現に観客が熱狂し、その場にいる全員が共演しているような感覚を覚えたのでした。

別次元のプロフェッショナルに出会った衝撃

「Flamenco Danza」で共にレッスンした仲間たち

本場の舞台を見たことで、もっと本格的にレッスンがしたいと感じ、新しい学校を探しはじめました。そこで最初に見学したのが「Flamenco Danza」というÚrsula López先生らが率いるダンスアカデミーでした。化粧をせずカジュアルな装いながらも、肉体美とたたずまいを通じて修練がにじみ出ているÚrsula López先生。血管を浮かべて目を見開き、叫びながら進めるレッスンに、生徒の表情は真剣そのものでした。

時折笑いが起きる雰囲気や、生徒への配慮や愛情も伝わり「人格と実力を持ち合わせた本物を見つけてしまった!」とやる気がみなぎったのを覚えています。初心者には絶対についていけない学校だと知りながらも、ここしかないと思いすぐに入学を決めました。

マネさえできない振付けに絶望したレッスン

分かっていたものの、太刀打ちできない日々がしばらく続きました。涙目で帰りながら全く体が動かなくなり、ぼうぜんと机に座っていたことも何度もあります。何時間もステップをスロー再生で見るも、理解できずマネもできない。基礎無くして応用の練習をする意味はあるのかと、無駄な時間を過ごしている気がして絶望しました。

途中から、得意なパートを極め、先生から直接エッセンスを学べることに価値があると気持ちを切り替えた結果、日々のレッスンを楽しめるようになりました。週末はトーレ・マカレナにフラメンコを見に行くフラメンコ三昧の日々。ダンスに向き合うほど素晴らしい出会にも恵まれたように思います。

最も美しいものを見た夜:Úrsula López先生が演出・出演する “COMEDIA SIN TÍTULO”

スペインに到着しておよそ3ヵ月が経過し、出国の時期になりました。ちょうどÚrsula López先生が舞台に出るという話を聞きつけ、急遽フランスのオバーニュに行きました。命を燃やしているといっていいほど、表現者たちの人生や情熱が数分のパフォーマンスに凝縮されていました。指先まで完璧に美しい姿と内から出るオーラを目の前に、私は涙が出ていることに気が付かないほど感動していました。日本にいたころは人前で泣くのは愚か、感情を一定に保つことで自分を守っていたのですが、スペインに来てから凝り固まった感情、感性の糸がほぐれたような気がします。

将来叶えたい夢である南米周遊よりも優先した「今の心境」

アルゼンチン首都、ブエノスアイレスでの生活がスタート

ビザの関係でEUを出る必要があったため、予定していた南米に向かいました。フラメンコ仲間から「おすすめのフラメンコ教師がいる」と聞き、ブエノスアイレスを選択することに。本来、7月からは南米周遊を考えていましたが、しばらくブエノスアイレスにとどまりフラメンコのために語学習得を目指します。「生きているうちに南米周遊を実施したいなら、実現できる時にするのが合理的」という選択もありましたが、今の気持ちを優先し今回周遊を見送ることにしました。

怒られるほどのストレッチゴールでも、やりたいものはやりたい

「やりたいことで経済活動をする、難しいですね」の顔

もちろん、お金の心配や資本主義社会から離脱していくような不安感は常にあります。しかし「どうせ悩む性格なんだから、心に従った道でもがこうか」そう自分と対話し、引き続き不器用をさらしていくことにします。

私の誇りは、こんな不器用な人間を大切にしてくれている、尊敬できる友人、仲間たちがいることです。彼、彼女たちもまた日々葛藤しながら前に進んでいます。そんな人たちの活動に貢献し、行動を後押しするようなきっかけになりたいと、最近強く願うようになりました。

これからは、私が最も幸せを感じる生き方「自分の心に従って本気で向き合い、表現する姿を通して人の心を動かす」を実行しながら仲間を増やしていきます。なかでも最も実現したい長期目標が、なかなか海外に行くことが難しい仲間を情熱あふれるスペインに招待することです。スペインの土地・人からエネルギー、活動の糧が得られると思っています(何より一緒にスペインで過ごしたい)。

そして、初心者スタートだった私がトーレ・マカレナで全身全霊のフラメンコパフォーマンスをする姿を披露したいです。もう……フラメンコ関係者からすると「何を寝ぼけたことを言っているんだ、冒とくだ」とお叱りを受けてもおかしくない、かなりのムーンショットです。これらの目標は私の勝手な自己満足だと分かっています。しかし自分がやりたいと思った目標を追ってるときって最高に幸せなものですね。これからの苦悩も楽しみながら発信していきます。

ありがとうございます!!