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sakanoue塾開校の背景(その1:自己紹介編)

皆さまはじめまして。東京都を中心に、勉強に伸び悩みを感じている小中学生を対象にした個別指導塾sakanoueを運営している西川と申します。

私たちsakanoueは

「境遇に関わらず、全ての人、とりわけ子どもが受け身ではなく、能動的に自分の人生を切り拓くための梯子への足掛かりが得られている状態」

を目指して学習塾を運営しています。より身近な表現で言えば、機会の平等の実現ということです。

今回は私の自己紹介と、sakanoue塾という学習塾事業を行おうと思った経緯について紹介させていただきます。


私は幼少時代の一時期を、ひとり親家庭で過ごしました。母は朝から晩まで働き、最初の父親が残した借金を返しながら、私と弟を育ててくれました。

一般家庭と比べればある意味ハンデがあったといえますが、母や祖父母、母の再婚後には父親、そして周りの人たちの大きな愛に囲まれたおかげで、私は自分を肯定できただけでなく、どんなことでもやり抜くことの大切さや、努力することで良い結果が得られることを知りました。

借金があったため、高校には行けても大学に進学できるかどうかは微妙な状況でしたが、幸運にも母が再婚したことにより経済的な状況が改善され、大学にも進学することができました。

また、出自にかかわらず、努力を継続する力や多少の根気・能力さえあれば、博士や官僚、スポーツ選手等、何にでもなれる可能性が開かれた社会に生まれたことで、私は希望していた外交官としてキャリアを積む機会を得ました。

社会のどういう階層の、どういう家の子でも、ある一定の資格をとるために必要な記憶力と根気さえあれば、博士にも、官吏にも、軍人にも、教師にも成り得た。
そういう資格の取得者は常時少数であるにしても、他の大多数は自分もしくは自分の子がその気にさえなればいつでもなりうるという点で、権利を保留している豊かさがあった。

司馬遼太郎. 坂の上の雲. 1巻, 文春文庫, 1999, あとがき

・自分を肯定し、多くの愛を注いでくれる家族のもとに生まれついたこと
・やればできると思えるようになったこと
・母の再婚によって経済的に安定し、教育の機会を得られたこと
・家柄や出自によらず、フェアに挑戦できる社会であること

こうした数々の幸運によって、私は主体的かつ能動的に自分の人生を選択するための足掛かりを得ることができました。

これはひとえに「運がよかった」ということに尽きます。

大学卒業後、私は外務省に入り、外交官として複数の途上国での生活を経験しました。その中で、とても多くの人たちが、それぞれの境遇によって、人生におけるコントロール可能領域が極端に狭まってしまっている、ということを肌で感じました。

たとえばヨルダンでは、隣国シリアでの戦火を逃れてやってきたシリア人学生と一緒に暮らしました。その学生は学業の中断を余儀なくされ、仕事をすることも許されず、家族の安否を気にしながら、悶々とした日々を送っていました。

また、数か国語に堪能で高い教養のある別のシリアの友人は、仕事を求めてヨーロッパへ渡ろうと、エジプトから極めて粗末なボートのみで地中海に命がけで漕ぎ出しました。毎年2,000人以上の難民が志半ばに地中海の奥底に消えていきます。

Of the 2021 total, 1,924 people were reported to have died or gone missing on the Central and Western Mediterranean routes, while an additional 1,153 perished or went missing on the Northwest African maritime route to the Canary Islands, according to UNHCR’s newly published report: Protection, saving lives, & solutions for refugees in dangerous Journeys.

UNHCRが新たに発表した報告書、「Protection, saving lives, & solutions for refugees in dangerous Journeys」によると、2021年の合計のうち、中央および西地中海ルートで1,924人が死亡または行方不明になったと報告され、さらにカナリア諸島に到達する北西アフリカ海上ルートでは1,153人が死亡または行方不明になったと報告されている。

UN News, Deaths at sea on migrant routes to Europe almost double, year on year, 2022年4月29日

エジプトでは定員「1名」の大使館事務スタッフの求人に対し、自分たち大使館員より優秀と思えるような若者200名近くが募集開始後わずか数日の間に殺到してきました。同国では、外交官になれるのは相応の家柄の者に限られるとも聞きました。

そうした絶望的な現実を前に、人生を諦めてしまう若者も目にしてきました。一方で、それでもなお現実を受け入れ、未来を変えられると信じて奮闘し続ける人たちも多くいます。

彼らと自分を分かつ決定的な要因は何なのか?と考えました。

それは「どの国の、どのような家庭環境に生まれ育つか」といった自分では選びようがない前提条件の違いにほかならない、というのが自分の答えでした。

それを「運」と言うこともできるでしょう。

もし私が、親から否定され、十分な愛情を受けられない家庭に生まれていたら…。
もし私が、「どうせ無理」と言われ続けるような環境で育っていたら…。
もし私が、経済的に苦しく「大学は諦めて、就職してほしい」と親に言われていたら…。
もし私が、家柄や出自が理由で挑戦すらできない社会に生まれ育っていたら…。

自分を肯定し、自分を信じる力を持てなかったでしょう。
然るべき方法で努力をし続ければ、良い結果につながり得るという信念を持つこともなかったでしょう。
大学進学は諦めざるを得なかったでしょう。
自己実現のためにチャレンジしようとする気持ちにもならなかったでしょう。

「努力すれば報われる可能性がある」と思えること自体が、実は当たり前ではなく、そう思えるのもある意味「運」ということだと思います。

あなたたちはがんばれば報われる、と思ってここまで来たはずです。(中略)そしてがんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください。あなたたちが今日「がんばったら報われる」と思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してほめてくれたからこそです。世の中には、がんばっても報われないひと、がんばろうにもがんばれないひと、がんばりすぎて心と体をこわしたひと...たちがいます。がんばる前から、「しょせんおまえなんか」「どうせわたしなんて」とがんばる意欲をくじかれるひとたちもいます。

平成31年度東京大学学部入学式 祝辞
上野 千鶴子

私たちの人生では、それぞれ持って生まれる条件が異なり、どうしても自分の力で変えられないことがあるのは事実です。過去に恵まれないことがあり、その結果として現在の状況を変え難いという現実もあります。

けれども、社会において不公正な部分を少しずつ改善し、誰もが新しいことにチャレンジできるように作り変えていくことはできます。

かつての私が「偶然」チャンスを与えられたように、たとえ過去が不運であったとしても、自分で自分を諦めない全ての人には、自分で未来を切り拓いていく挑戦権が与えられるべきです。

私は、人生を変えようと奮闘する人たちや、困難を前にして諦める誘惑に必死に抗いながら、それでも自分で自分を諦めない人たち、そういった人たちが挑戦の梯子の一段目に足を掛けるサポートをしたいと考えています。


次回は、なぜその中で学習塾なのか?ということについて書いていきたいと思います。

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