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なまけものの詩

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なまけものの詩



怠け者の「うたちゃん」は、毎朝お母さんに怒られている。

「ほら、うた!さっさと起きてお手伝いしてよ!」

うたちゃんはいつも怒られている。

「うた!これはここにしまっておいてって何度も言ったらわかるの!」

おかあさんの「!」はいつも「びくんっ」とさせられるから嫌だ。
うたちゃんは今日はいいこにしてたいなと少し思った。

うたちゃんにはひとつ癖があって、ついつい爪を噛んでしまうのだ。

その癖のことはおかぁさんももちろん知っているんだけど、その時ばかりはおかぁさんは「!」を使わない。
決まってこういうんだ。

「うた。今日はどんな楽しいことがあった?」

うたは上を見上げて思い出すと、楽しくなってつい時間も気にせずに延々としゃべり始める。

爪を噛むことなんて忘れてる。

うたちゃんにはお父さんがいない。
うたちゃんがまだ物心つかない頃、うたちゃんの目の前で亡くなってしまったのだ。

その頃からうたちゃんは何か少しでもストレスを感じると爪を噛むようになった。

うたちゃんは歌うのが好きだ。
いつもひとり、
やることもやらず足をぷらぷらさせて鼻歌交じりに歌っている。

うたちゃんの歌には詩がない。
だから何を言っているのかわかる人はいない。

でもおかぁさんだけはうたちゃんのその歌を聞く度に、頬を光らせ微笑んでいる。

うたちゃんは知らないけど、おかぁさんはうたちゃんのことをひととき残さず愛している。


縁側に取り込んだままになっている乾きたての洗濯物の山に暖かなオレンジ色の西日が差している。

チリーンと小さく鳴り響く風鈴の音。

夜の涼しさを運んでくる風が気持ちいい。

こんな日は
うたちゃんの詩が町中に響き渡ればいいのにな。



安心してればいいんだよ。



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