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ダビング交換が僕を大人にした

僕がヴィジュアル系の音楽を聴き始めたのは、中学生の頃。
ちょうどテレビでは"ヴィジュアル四天王"が全盛期で、ヴィジュアル系に詳しいことは、音楽に詳しいことと同義だった。

お小遣いが限られているため、友達と分担してCDを買ってはMDにダビングして交換。
その程度で日本の音楽シーンを網羅している気になっていたのだが、今にして思えば清く正しい中二病である。

それが井の中の蛙であることに気付くのは、高校生になって、我が家にもインターネットが導入されてから。

序盤は一本道を歩いていけば次の町やダンジョンに行くことができたRPGゲームで、船が手に入った途端、進むべき選択肢が一気に広がって途方に暮れる感覚。
安易にその辺の陸地に降り立ったら、いきなりキラーマシーンあたりとエンカウントしたりする。
ワクワクはするけど、あまりに未知すぎて、絶望に近いショックを受けたのだ。

例えば、ボーカルチェンジ前のPIERROTのCDを持っているというのが、中学時代は自慢だった。
それなのに、過去にデモテープがリリースされていて、それは既にプレミア価格になっていて、あろうことか、ネットの住人はみんな聴いたことがある風。
こちとら、「FAMME」とか「HOMME」とか、読み方すらわからない。
プライドはズタズタになり、残るのは劣等感。
そもそも地方在住のリスナーが、配布モノや会場限定モノを含む専門性が高いシーンで、有識者に太刀打ちできるはずがなかったのだ。

それを救ってくれたのが"ダビング交換"。
当時は全体を俯瞰できるほど大人ではなかったので、他のシーンでもあった文化なのか、ヴィジュアル系のファンの中でも僕の周囲だけで行われていた文化だったのかはわからない。
だけど、ネット上で知り合った人は、みんな所有音源のリストを持っていた。

お気に入りのレビューサイトの掲示板を通じて意気投合すれば、そこからリストを交換し、お互いのおすすめバンドの音源を相手に聴かせ合うのがお約束。
興味を持ってもらうために、ある程度のリクエストを受け付けるのだが、半分ぐらいは相手に選んでもらう余地を与えたほうが面白い。
リストを作るのは、自分の好みの音楽性や持っていない音源を示す、ある種のプロフィールの意味もあったのだろう。
これはこれで、楽しい作業だったのを覚えている。

意外だなと思ったのは、コアなV系リスナーであっても、おすすめで入ってくる音源が、浜崎あゆみとかFavorite Blueとかだったこと。
最初は正真正銘のV系バンドで攻めてくるのだけれど、仲良くなっていくにつれて、ネタが尽きるのと、もう少し踏み込んでも大丈夫だという気持ちが、同じくらいのタイミングでやってくる。

その結果、前半がPIERROTのデモテープ音源、後半がSURFACEが収録されたMDの出来上がり。
僕はPIERROTが聴きたかったはずなのに、まんまとSURFACEにもハマることとなった。

この頃、J-POPシーンでは流行がHIP-HOPやR&Bに移り変わって、V系迫害期に入るわけで、ヴィジュアル系だけでなくJ-POPにもアンテナを張るきっかけになったという意味でも、このダビング交換の文化には感謝していたりする。
おかげで、クラスで孤立せずに済みました。

現在ではすっかり聞かないダビング交換。
友達にSURFACEの良さを伝えたければ、YouTubeのURLやサブスクのプレイリストを送るだけで良い。
船どころか、いきなり天空城に乗っているようなもので、とても良い時代だ。
ただし、僕が今の時代に生まれていたら、ひたすらヴィジュアル系の掘り下げだけに時間と体力を費やしていたと思うので、クラスで浮かないバランス感覚を養わせてくれた意味で、ダビング交換の時代で良かったかな、と。

ちなみに、SURFACEは、1stアルバムの「Phase」が超名盤。
1999年の作品のため、音質は現代の作品に劣るが、まず聴くならこれである。
また、ボーカルの椎名慶治さんは、2013年に本作のセルフカバー盤をリリース。
こちらは現代の音質でSURFACEの音楽を堪能することができるので、併せてどうぞ。
ということで、「SURFACEを聴こう」のコーナーは本日で最終回です。
それじゃあバイバイ!

#はじめてのインターネット

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