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神宮球場で一夜を明かした話

#好きなスタジアム  というお題が出来ていたので、たまには音楽やミステリー以外の話もしてみようかと思う。

野球かサッカーかで言えば、圧倒的にサッカー派。
地元である仙台には、今でこそ東北楽天ゴールデンイーグルスが存在しているが、チームができたのは僕が上京してから。本拠地である楽天生命パーク宮城が校舎の窓から一望できる中学校に通っていたことを踏まえれば、生まれる時代が違っていたら楽天フィーバーに飲み込まれていた可能性は捨てきれないが、特に応援するチームがなかったプロ野球は、好きなラジオ番組の放送時間を削る忌々しい存在でしかなかった。

小学校に上がったタイミングでJリーグが発足し、間もなく、東北電力サッカー部を母体にブランメル仙台(現・ベガルタ仙台)が立ち上げられると、地元の熱狂はサッカーに向けられる。スポンサーの七十七銀行は、仙台が買ったら金利が上がるという"ブランメル定期"を販売するほどの盛り上がりで、必然的に、足が向くのはサッカーの試合だったのだ。

この流れだと、「好きなスタジアム」は、ベガルタ仙台のホームスタジアムであるユアテックスタジアム仙台だ、となるのだが、音楽ライブもスポーツ観戦も、行って、見て、帰る、という行動様式しか持ち合わせていない僕。
実は、スタジアムグルメとか、スタジアム特有のイベントの類に触れた記憶が全然ないことに気付いた。このままでは、この間書いた、「好きなライブハウス」と同じような展開になってしまう。

観戦した試合の中で、もっとも印象に残っているのは、2011年の震災後初のゲームとなった等々力​陸上競技場での逆転劇。ただ、この日も天気が悪くて、スタジアムを堪能した記憶はない。
直近で行ったのは(と言ってもコロナ前だが)、会社の付き合いで行った東京ドームでの巨人-広島戦だが、カープファンの上司がボロ負けして機嫌が悪かったことしか覚えておらず、ならばアリーナツアーでスタジアムに足を運んだ経験ならどうか、と思い出そうとするも、ライブの記憶はあれど、会場の記憶はやはり希薄。
ここまで書いたけど、この記事はお蔵入りさせるか…...と諦めかけたところで、ひとつ古いエピソードに思い当たった。

大学生の頃、明治神宮野球上に宿泊したことがある。

もちろん、球場の外で飲み潰れたという話ではなく、ちゃんと手続きを踏んでだ。ただし、ご承知の通り球場は宿泊施設ではないので、泊まったのは選手ロッカー。選手ロッカーに寝袋を敷いて寝る、雨風を凌げるだけ野宿よりマシ、というレベルではあったが、改めて振り返ってみると、なかなかレアな経験ではなかっただろうか。

神宮球場は、ヤクルトの本拠地であると同時に、六大学野球の試合場である。僕が所属していたサークルは音響仕事を扱うことが多く、早慶戦などで動員が相当数見込まれる場合は、応援団の声や吹奏楽部の演奏をスタジアムに届けるためのスピーカーやマイクを設置する。試合前にその設営を行おうと思うと、早朝から集まる必要があるのだった。

一方、その集合時間だと、始発に乗っても間に合わない、というスタッフも出てくる。その場合、だいたいは近くに住んでいる友達や親戚の家に前泊して間に合わせるのだが、そういう友達を見つけられなかったのが僕だった。つるんでいたグループのメンバーは、揃いも揃って神奈川県に住んでいて、中板橋に居を構える僕が間に合わない時間に、集合場所に辿り着けるはずがない。苦肉の策として、目的地に前泊するというウルトラCが決まったのだ。

さて、いざ泊まることにしたのはいいのだが、ホテルとしての機能なんてあるはずもなく、夜間は警備に切り替わる。要するに、宿泊する許可は出ているが、一度外に出たら帰ってこれない。幽閉に備えて、夜食だったりアメニティだったりは事前に準備しておく必要があった。
それだけならまだ良い話で、警備の範囲がどこまでかよくわからない。ロッカールームから出た瞬間にセコムの自動警備が発動したら、なんて想像すると、深夜の球場を探検したい気持ちはあれど、閉じこもるしかないのだ。

更に、そのような環境で、女子とふたりきりだった。
同じ境遇のスタッフが一緒に宿泊するとは聞いていたが、女子とは思ってもみなかった。率直に言って、軟禁状態にあっても、ひとりだったら何も恐れるものはない。翌日が早いということもあり、さっさと寝てしまえばいいのだ。一緒に泊まるのが同性だった場合も、同じサークルのスタッフだ。特にコミュニケーションで困ることはなかっただろう。
下手に話しかけて微妙な空気になっても、"煙草を吸ってくる"などと外に逃げることが出来ない環境下で女子と一緒、というのがまずい。相手側だって、度合いはともかくとして警戒心は抱いているはずだ。かといって、無言で夕食を食べて、そのまま寝袋に潜り込むわけにもいくまい。翌日の作業を円滑に行うためのコミュニケーションをとる必要があるが、余計な不安を感じさせたらアウト、という難易度の高いゲームが開始されてしまった。

考え抜いた結果、僕がとった戦略は、"寝袋に入ってそこから出ない"。夕食用に買ってきたサンドイッチは明日の朝ごはんにするとして、自らの稼働領域に制限を与えての会話であれば、仮に言葉が変なところに入ってしまったとしても、行動範囲に優位性のある彼女が不安になることはあるまい、という判断であった...…のだが、一蹴された。文字通り、蹴られた。これから乾杯なんだから、寝る準備なんてしてないで出てこい、とのことであった。
なんてことはない、"女子とふたりきり"の状況は、せいぜい1時間程度。後から、前夜祭の買い出しを終えた同期の男女2人が、警備に切り替わるギリギリの時間に合流。お酒の飲めない僕は、誘っても反応が悪いだろうから騙し討ちということになったらしい。案の定、開始1時間で寝袋も使わずにダウンしていたらしく、気付いたら朝だった。やっぱり寝袋に閉じこもっていれば良かった。

以上、球場の外ではなく、球場の中で飲み潰れた話でした。
好きなスタジアム?
あ、もう、ユアスタでいいです。


#好きなスタジアム

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