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【ミステリーレビュー】七回死んだ男/西沢保彦(1995)

七回死んだ男/西沢保彦

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ミステリーにSFの概念を取り入れた、一風変わった作品。

主人公である大庭久太郎は、ランダムの1日を9回繰り返すという特殊体質持ち。
この体質に根拠や理由は示されないのだが、作品の前提として、この設定の中でどう立ち回るかを楽しむという要素が付加される。
簡単に言えば、どう立ち回っても死んでしまう祖父を救うために、1月2日がループしている間に真相を突き止めようとする物語だ。
犯人当てよりも、主人公の行動によってシナリオが分岐していくことが面白さの肝なので、"誰が殺した"という観点ではなく、"どうしたら祖父が救えるか"を考えながら読むのが大事かもしれない。

新本格のミステリーに、"特殊能力"を持ち出すことには好き嫌いが分かれるのかな。
これについては、明確なルールがあるのだったらアリ、というのが個人的な見解。
例えば、頑張ったから発動時間が1日伸びたとか、たまたまいつもより効力が弱かったとか不確定要素があるのであれば、それはアンチミステリーとも言えるのだろうが、序盤で「反復落し穴」のルール説明が行われ、その範囲内で物事が動いていくのであれば、それは次元を超越した安楽椅子探偵の推理力よりも確かなものであろう。
少なくとも、この作品上で「反復落し穴」の論理矛盾は特になかったと考えている。
特殊な設定だからこそのオチは、前例がないからこそ見破れない。

設定はとっつきにくいが、作風としてはコミカルな要素が強いのも特徴。
相続絡みの一族内のドロドロ、それに伴う殺人事件の発生と、重苦しさに包まれそうな舞台設定であるも、ミステリー特有の緊張感はなく、まるで一族間での痴話喧嘩ぐらいのトーンで描かれている。
作者の癖なのか、校正ミスなのか判断できないが、ところどころ、てにをはが省略される文体があったり、時代を感じさせる台詞まわしがあったりするのは気にはなるが、それくらいだ。
ページ数はそこまで多くないので、ミステリー慣れしていない読者層でも読みやすいだろう。


【注意】ここから、ネタバレ強め。


正直なところ、ループもののゲームをやりすぎていたせいで、余計なことを考えすぎた。
セオリーとして、黒幕が主人公と一緒にループしがち。
1周目の会話を覚えている節がある友理さんは、絶対一緒にループしていると思い込んでしまったのだ。
結末での大オチも、久太郎と友理による密会の中で明かされるため、最後の最後まで、それが語られると信じて疑わなかったもの。
ここまで盛大に大外れの推理をしたのも久しぶり、ある意味で強く印象に残りそうな作品である。

とはいえ、あのタイミングで祖父が殺されれば遺産を相続することになる友理はむしろスケープゴート的な存在であり、友理ループ説を唱えた身ではあっても、殺人の犯人になるとは思えなかった。
実際、その大オチは、物語をミステリアスにしていた伏線を回収するためのギミックであり、死の真相とは直接的には関係なかったりする。
犯人と思われる人物の行動を制御しても、別の人間が犯人になるという事象から導き出せば、選択肢に入ってくるのは、実際に殺人は行われていないという仮説だ。
要するに、祖父は事故死か病死であり、第一発見者が相続の関係上、殺人に見せかけたという場合である。
一応、なんとかここまでは読めたものの、大オチの件が後を引き、個人的には悔しさが勝るかな。

主人公の行動によって、結末が変わっていく。
ただし、真実を解き明かさなければ、祖父は死のループからは抜け出さない。
これ、分岐モノのアドベンチャーゲームにできるのではなかろうか、と思ったのだけれど、そうすると真相が地味だったりするのかな。
なお、個人的には、後日談は蛇足。
もともと仲が悪い一族が、たったひとつの出来事ですんなり和解するわけないでしょ、という教訓なのかもしれないが、新たな真実が見えてくるわけでもなく、ただわちゃわちゃ掻き回して終わってしまったので、もったいなく感じてしまった。

余談だが、タイムリープしながら、運命が殺してしまう祖父を助けようとするストーリーに、「STEINS;GATE」を連想してしまったのは僕だけだろうか。
もっとも、こちらのほうが先に発表されているわけだが。

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