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【ヴィジュアル系】2023年上半期ベストトラック大賞(後編)

上半期に良く聴いた楽曲を紹介する、ベストトラック大賞の後半戦。
第20位~第11位までは、前編をご参照。

① 2023年1月~6月に発表された楽曲であること
② 2023年6月現在時点でサブスクリプションサービスで配信されていること
③ V系シーンをメインフィールドとして活動しているアーティストの作品であること

もはや、"あるある"なのだが、ランキングを仮で決めたあと、期末ギリギリに名曲や名盤が駆け込んでくる。
出来るだけ拾っていきたいとは思うものの、どうしても取りこぼしが発生してしまうので、あくまで主観的なランキングということでご理解いただきたい。


第10位 Villan / Rorschach.inc(「Villan」より)

ウサギ型地底人集団、Rorschach.incの1stフルアルバムより、リードトラックを10位に選出。
ポップで可愛らしいメルヘンチックなメロディと、バキバキにヘヴィネスを畳み込むラウドなサウンド。
ミスマッチを独自の世界観に取り込んでしまうセンスが抜群で、全体的にレベルが高いと言えるのだが、それをアイコン的に表現する「Villan」は圧巻。
最初の数十秒だけで、彼らの表現する音楽が感覚的に理解できてしまう。
徐々に全貌が明らかになってきた彼らの熱量が凝縮された1曲だ。


第9位 NIX / XANVALA(「NIX」より)

2ndアルバムの表題曲であり、先行シングルとしても配信されていたキラーチューン。
アルバムの収録曲はどれも選ばれるだけの価値はあるのだが、特に聴いた楽曲となると、この「NIX」になるだろうか。
彼ららしい攻撃性を帯びつつ、ダンサブルなリズムに、高揚感のあるメロディ。
ギラついたギターソロやドラマティックな展開も好みとしか言いようがなく、どこか余韻を残すアウトロまで隙が無い。
アルバムの完成度も然ることながら、楽曲単体でも勝負できることを示していた。


第8位 SINGULARITY / 零[Hz](「ZERO」より)

零[Hz]にとって初のベストアルバムに収録された新曲のうちの1曲。
メロディアスに展開しながら、鋭さを見せつけるサウンドは、彼らの王道でもあり、次のフェーズへ向けた指針でもあったのでは。
近未来的なシンセのフレーズを押し出して、ダンサブルに構築。
デジタルサウンドを機械的なイメージで用いるのではなく、Vo.ROYのエモーショナルな歌唱を引き立たせるための舞台装置に使っているのが巧みだったな、と。
この爆発力は、5周年を迎え、脂が乗っている証明だろう。


第7位 夕映え / アマミツゝキ(「夕映え」より)

Gt.千歳の誕生日に合わせてリリースされたデジタルシングル。
日常のワンシーンを切り取って、浮かんでは消えていく感情を描写。
ノスタルジーを煽るような演出があるわけではないのだが、その素朴さに誰もが自分を重ねてしまう。
あまりシングル的な音楽性ではないのだと思うのだけれど、気が付いたらなくてはならない1曲になっているから不思議である。
Vo.眞田一航のソングライターとしての、そして表現者としての才能が光るハートウォーミングなナンバー。


第6位 茜 / 夕暮れガールスーサイド(「茜」より)

ゴールデンウィーク企画として、4連続で新曲をリリースした夕暮れガールスーサイド。
第3弾にあたる「茜」は、彼らにしては珍しいと言えるストレートな疾走チューン。
切なさを駆り立てる哀愁メロディと、感傷を噛み締める暇を与えないスピード感。
問答無用でツボを突かれたというリスナーも多いのではないだろうか。
ラストシーンで、彼ららしい捻くれたギミックを持ってくるのも、リスナーをニヤリとさせる"わかっているな"と唸らせるポイントである。


第5位 涙が止まらなくても / ナナ(「涙が止まらなくても」より)

Vo.山沖怜、Gt.SARSHI、Ba.AKI、Dr.ジェッツという編成となったナナから届けられたデジタルシングル。
再結成後は、哀愁歌謡的なアプローチを武器に加えた彼ら。
この「涙が止まらなくても」についても、耳馴染みの良い歌謡曲がベースになっていて、感情最優先となった音楽においては、歌い癖の強さもかえって味となっている。
ただし、ギラギラしたシンセを前面に押し出すことによって、テンションの高いアッパーチューンへと昇華。
ラストのコーラスワークに至るまで、右肩上がりのドラマ性を生んでいた。


第4位 銀河鉄道の夜/cali≠gari(「16」より)

どことなくスペーシーな楽曲が多いニュウアルバム「16」において、ラストを飾る楽曲が「銀河鉄道の夜」というのも、なんだか必然性を感じてしまう。
彼ららしいノスタルジックでフォーキーなメロディと、テクニカルな演奏は健在。
とはいえ、そのベクトルが過去への哀愁ではなく、未来にある死に向けられているのが象徴的。
淡々としたヴォーカリゼーションと、掻き鳴らすという表現がふさわしいギターソロとの対比が、心の揺れ動きを示唆しているようでもある。
過去の名曲「リンチ」とリンクする歌詞を散りばめているのも古株ファンにとっては熱い要素で、考察をすればするほど楽曲にのめり込まざるを得ない仕掛けとなっていた。


第3位 孤動 / Petit Brabancon(「Automata」より)

ドリームバンドであるPetit Brabanconが、ある種、外向けに制作した楽曲となるのが、リードトラックの「孤動」。
狙い通りとなるのも悔しいのだが、ここまで狙い撃ちされたら甘んじて認めるしかあるまい。
イントロのリフは、BUCK-TICKの「悪の華」のオマージュ。
Vo.京のヴォーカリゼーションも、Dir en greyの活動初期に近いミドルキーに特化しており、ハイトーンに突き抜けないままメロディアスに展開。
こんな具合で、90年代的なアプローチをこのメンバーがあえて実践しているのだから、グッと来ないわけがないじゃないか。
アート性を維持したうえ、原点を直接的に刺激してくる1曲。


第2位 サブスクリプション / 団長×広末慧(「君が振る前に」より)

Vo.団長の特徴的なハイトーンヴォイスをセツナポップ的なアプローチに特化させ、なんとも胸に沁みる音楽へと昇華。
1曲目から撃ち抜かれた「京の空から」やダンサブルなアッパーチューン「カザリゴト」も捨てがたいのだが、彼らの武器を最大限に押し出している楽曲となれば、リードトラックの「サブスクリプション」以外に考えられない。
ツインヴォーカル風に重なってくる女声コーラスは、歌というよりも台詞のような感覚で入ってきて、作品の世界観を強固なものに。
静かに崩れていく関係性が、たとえ歌詞やMVに目を向けなかったとしても、ふたりの声色から伝わってくる。
ドラマティックではないからこそ、繊細な心の動きを丁寧に描写している切なさ至上主義的なメロディアスチューン。


第1位 dilemma / umbrella(「dilemma」より)

イントロのエモーショナルなリフの時点でテンションが高められるオルタナロック。
軽快なリズムとキャッチーなサビは、第一印象でのとっつきやすさを与えているのだけれど、聴けば聴くほど奥の深さに溜め息が漏れる。
各パートにてテクニカルなフレーズを出し惜しみせずに注ぎ込んでおり、生音でこの密度を再現するか、と感心せざるを得ない緻密なアレンジがたまらない。
そして、Vo.唯の表現力が、更に凄みを増していた。
ソロ作品では、繊細さや脆さ、透明感や淡い色彩といったニュアンスでファルセットを多用していた認識だが、高音に突き抜ける部分でも力強さを感じさせ、光の象徴になっているような。
1曲入魂、楽曲単体での完成度として、あまりに完璧だった。


前編、後編で20曲紹介したが、本当はまだまだ足りないぐらいだ。
1位とさせていただいたumbrellaのVo.唯は、ソロ名義でもミニアルバムをリリースしており、ここに収録された「戯言」がたまらなく好き。
作品上のこだわりとして、サブスクが解禁されていないため、ここでは選外としているが、間違いなくよく聴いた1曲だ。
同じく、gaizaoの「過日、魔法少女だった僕へ」も、レギュレーション上選外としたが、上位にランクインしてもおかしくないぐらいに何度も聴いた楽曲。
このあたりは、タイトルだけ併せて紹介させていただく。

年末ムード一色になる下半期と違い、上半期の終わりを意識する機会はほとんどないのだが、この記事を書くことで実感している節はある。
別に紹介した楽曲でなくてもかまわないので、何かのきっかけと捉えてもらって、後で聴き込もうと思っていた作品を聴き返したりする理由にしていただけたら。


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