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硬骨魚類のための寓話「おきて破り」

クル族の王子シャンタヌがとても美しい女に求婚すると、彼女は「私の為す全ての行いを、問うことも止めることもしないのなら」と言った。
シャンタヌは彼女に誓い、二人は夫婦になった。

彼女はやがて子供を産んだ。
彼女は生まれてきた我が子をガンガーに投げ込んで殺した。
シャンタヌはそれを止めなかった。
次の子も次の子も、産んでは大河へ投げ込んだ。
シャンタヌはそれを止めなかった。
しかしそれが7回続き、8人目の子供が生まれた時、ついにシャンタヌは彼女を制止した。
途端に美しい女は女神としての正体を表し、神の世界へと消え去った。
8番目の子供だけはシャンタヌの元に残った。

この奇妙な話を何気なく夫に語ると、彼はこれをいたく気に入った。
最初は手帖に繰り返し書き留めて人に語っていたのが、やがて絵を描き、歌を作り、粘土でジオラマと人形を作った。
「止めないでくれ」と彼は言った。
消極的ミニマリストだった私たちの家はすぐに、大小さまざまな作品で溢れかえった。その全てが彼の手による、同じ物語についての別の表現だ。

ある日石鹸の替えを渡しにシャワー室を開けると、彼の両脚、膝から下が真っ黒になっていた。びっしりと、サンスクリット語の入れ墨がとぐろを巻いていた。シャンタヌが森で美しい女に……。

それから三週間。
隣で寝入る彼のズボンをそっと下ろす。腰から下が完璧な韻文に覆われている。彼の左臀部上方で今、シャンタヌが女神と結婚している。
ガンガーの女神はシャンタヌに英雄を下げ渡したが、私たちには何が残るのだろうか。
私はそれを止めないでいる。


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