見出し画像

硬骨魚類のための寓話「じかんワークショップ」

「時間 にはそれぞれ 形が あります」
先生はそう言った。
この場で立っているのは先生だけだ。
その他、私たち15人はあおむけに寝そべっている。お互いに「はっしー」とか「ミルトン」とかのあだ名しか知らないし、誰が誰だったかも覚えていない。私のことも誰も覚えていないだろう。
その私たちが今、たった一枚の大きなシーツに一緒にくるまっている。
だから外から見れば、先生はなめらかな15個の丘を持つ広大な砂丘にたった一人立ち、言葉を告げているように見えるだろう。あるいは本人から見れば。

「目を ゆっくり開いて ください」
白く明るい。
「光 音 におい いろんな刺激に こたえてあげて ください YES」
肩とお尻の血流が床に押し当てられ、滞りはじめたのがわかる。
「ですが決して それらを おどろかせない ように」
反り腰だ。
「刺激を 運ぶのは 時間です」
よく見れば照明の部分に明るさが集中している。
この光もどこかの発電所で作られた電力が巡り巡って光になっているのだ。
「時間にも どうぞYESを」
そこは暑くてうるさく、忙しい職場だろう。
「肯定された時間は あなたを 導きます」
ゾンビに世界がやられたら、まず原子力発電所から逃げるべきじゃない?

「どうぞ 今の ポーズがフィットしていれば そのまま 時間に引かれているな と感じた方は そちらに 向かって 優しく 体を 動かして」
鼻のてっぺんに接していたシーツが左に流れ、上に少し流れる。
あちこちでゆっくりと体が動く気配がする。
「あなたを あなたの時間が 導くのです その形に」
犬の肉球はホルモンみたいな食感かもしれない。
「その瞬間 もっとも自然で くつろいだ形」
足先も棒っぽいし。

「どうぞ 今の ポーズがフィットしていれば そのまま」
空気に沿った速度で、左を向いてみる。
まったく同時に右を向いた人と目が合う。
「私、蛍をたくさん殺しました」
その女は私を見つめて言う。
「10歳の時です」
女は泣いている。
私の頭と女の頭の間にシーツの橋がかかっている。
「よい 導き です」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?