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10001回目

ヒトは人生のうち、自宅の扉を何回開けるのだろうか。

扉を開けた先には、何が待っているのか。

見慣れたコンクリートにいつもの車。
変わらずにスーパーやガソリンスタンドもある。
毎日変化することのない物が、確かにそこにあるはずだ。

なのになぜだろうか、
ある時急に扉の向こうが怖くなる。

何があるのか、どうなってしまうのか分からなくて、怖い。

マイナス同士の磁石が反発し合う様に、扉に近づくことさえもさせてくれない。

この時私と扉との間には、確かに何かがある。
それすら分からないのだけれど、分からないから諦めるしかない。

その日、扉の先に本当は何が待っていたのか。
見慣れたコンクリートなら安心しただろうか。
変わらずスーパーに行けたなら安全だろうか。

きっとコンクリートは汚れていて滑りやすいし、変わらないと思っていたスーパーでさえ、あらゆるところに危険が潜んでいるに違いない。

だから今日もうちにいることにした。


次に扉を開けるのが10001回目だったとしたら、何か本当に変わるだろうか。
雨でコンクリートの汚れは流れて、見慣れないクリーム色になっているかもしれない。
お店ではタイムセールで、野菜がお得に買えるかもしれない。
ガソリンスタンドに行けば、ティッシュが一箱貰えるかも。

ほら、ワクワクが沢山待っているじゃないか。

だが、申し訳ない。
もし私の鼓動が早まっていたとするのなら、それはまだ吊り橋を渡る時のようなドキドキにすぎない。
そのようなワクワクに感じられるまで、もう少しここに居させもらうよ。

良ければ迎えにきておくれ。
一緒なら、10000回目でも大丈夫かもしれないから。

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