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『千社札のお話』

千社札は観音巡礼における参拝奉納のしるしである『納札』の習俗より生まれたと云われています。

江戸時代になり、稲荷信仰が大流行することで、千社札もまた庶民の間に広まりました。
私も毎年初詣している京都の伏見稲荷が総本社なのですが、全国のいたるところに分社がつくられました。
江戸時代に起った数度の飢饉が稲荷信仰に拍車をかけ、庶民は競うように『稲荷千社参り』を行い、五穀豊穣を祈ったそうです。
後に稲荷神社だけでなくあらゆる神社仏閣を巡るようになったため、多くの社寺を参拝する事を『千社参り』と呼ぶようになり、又、参詣には必ず納札した事から、この札が『千社札』と呼ばれるようになりました。

札は当初、手の届く範囲で社寺の壁や柱に貼られましたが、やがて貼り場所を競うようになったそうです。

人見貼りと隠し貼り

貼り場所には大きく分けて2種類あり、参拝者によく見える場所に貼るのを『人見』と言い、永い年月風にさらされる事の無い場所に貼るのを『隠し貼り』と言いました。

そしていつしか江戸の庶民は、千社札に「粋」「遊び心」「華やかさ」「洒落」などを盛り込み、図柄の面白さや、珍しさを競い合うようになり、益々『千社札』の人気に拍車がかかりました。

千社札の版元は浮世絵の版元と同じであることも多く、絵師や彫り師、刷り師など、浮世絵で磨いた技をそのまま使って錦絵と見間違う程の豪華な物も作られました。

美しさを競った千社札

千社札には、名前、屋号、商売の他、ひいきの役者や相撲取り、美人画などの風俗画など、様々なバリエーションが造られました。
その素晴らしい出来映えから、お互いに見せ合いたくなり、あげくの果ては『千社札交換会』まで開催されたそうです。

自慢の千社札

交換会は最初、私邸や神社などで催されていましたが、いつしか茶屋や料亭で行なわれるようになったといわれています。

江戸時代、260年以上の長きに渡り泰平の世が続くことで、このように様々な文化が生まれ、成熟していったのはご周知の通りです。

ところで、現代、寺や神社に無断で千社札を貼ることは禁じられています。
場合によっては、落書きと同じ扱いとなり、法律で罰せられる可能性もあります。
ちなみに以下のどれかの法律の対象となり、処罰されますのでくれぐれも勝手に貼らないようにいたしましょう。
●軽犯罪法違反
●文化財保護法違反
●建造物損壊罪
●器物損壊罪

実は私も近所の神社に貼りたくて、社務所に行って許可を得ようとしたことがありましたが、丁寧に断られました(笑)

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#和文化デザイン思考 講師

成願義夫 Jogan Yoshio プロフィール
伝統文様研究家、装飾画家、アートディレクター、着物デザイナー、グラフィックデザイナー、伝統産業商品開発アドバイザー
株式会社京都デザインファクトリー 代表取締役社長

●代表作と最近の活躍
関西国際空港の初代ウエルカムボードのデザイン。
長野県善光寺の納骨堂の納骨壇の扉デザインの他、納骨堂のデザインは多数。
サッポロビールワインラベルなど、手がけたデザインは多数多岐に渡る。

●近況
2018年、秋、成願がデザインした金属製スマホケースが英国ウェールズ国立博物館に永久保管決定。
2018年、冬、和柄をテーマにした民放テレビ番組に解説者として出演。
2019年、春、ジョルジオアルマーニビューティー主催のイベント講師に招かれる。
2019年、夏、京都駅ビルのフォトスポット四箇所のデザインを手がける。
2019年、秋、京都高島屋のバイヤー向け『伝統文様勉強会』講師を務める。
2020年、埼玉県秩父市の招きで2日間に渡り講演会と伝統デザイン勉強会を開催。
2022年、NHKのテレビ番組『美の壷』に出演。

●近年はグラフィックデザイナー、壁面装飾画家、着物デザイナー、伝統文様研究家、伝統産業の商品開発アドバイザー、講演家として、テレビなどにも出演し、幅広く活躍中。  
著書は、和柄デザイン素材集を10冊以上執筆。総販売数は40万冊を突破。
また、著書の大人の塗り絵『和柄のヒーリングぬり絵ブック』(PHP研究所発行)は、累計7万冊を突破していまだにロングセラーを続けている。
成願の和柄デザイン素材集は日本中のデザイン事務所に、必ず1冊以上置かれていると言われている

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