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柄付が左右反対で、しかも地味な振袖の謎と、そこに描かれた柄の本当の意味を解き明かす

写真は、20年以上前、京都市美術館で開催された宮崎友禅斎記念回顧展を観に行って、買い求めた名品図録の中の一枚だ。
江戸、明治、の豪華な友禅染めの名品が沢山展示されている中で、どちらかと言うと地味で目立たない一風変わったこの振袖。全体は濃いグレーの地色で、特に上前だけ見ると雪に見立てた白線と白砂子散らしだけの実にシンプルで地味な柄。

しかし、下前には雪持ちの菊に小鳥を友禅と刺繍で表した手の込んだ柄が付いている。もちろん下前に柄と言うことは、現代のように着れば柄は中に隠れてしまう。当時、私は会場で数ある作品のある中でも、特にこの振袖を見て、不思議に思ってしばらく前で立ち止まって見とれていたのを覚えている。
この振袖にはこんな解説が書かれていたので以下に紹介する。(原文)

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「上前の文様は氷割れに粉雪だけで、地色も鼠という極めて地味な振袖であるが、下前には雪をかぶった菊と雪上の小鳥一羽を友禅で表している。裾引きでもアンバランスであり、裾を合わせればせっかくの色彩のある文様は隠れてしまうから、どういう意図で、こうした意匠が生まれたのか、大変興味のある1領である。下前にのみ文様を置いた小袖の例は他にもあるので、これが例外とは言えないが、その意図をご存知の方がおられたらお教え頂きたいと思っている。」
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解説者にも解明できなかったこの振袖の謎。
当時、私はその謎をどうしても解きたくなった。 

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