ゲームモデルの作り方:13の行動(基礎編)〜行動3:ダイレクトプレー〜Vol.6
1. 行動3:ダイレクトプレー
ダイレクトプレーは、集団プレーの行動の1つであり、スペインサッカーコーチングコース(カタルーニャサッカー協会)の独特の言葉である。
※ダイレクトプレー:「13の行動」の1つ。DFラインの選手やGKが中盤を経由せずに、浮き球のロングボールで相手DFラインの背後やFWにボールを送るプレー。
ダイレクトプレーの特徴:
・ディフェンスラインは数的優位である。
・オフェンスラインは数的不利である。
・相手FWのプレッシングにより、「ボール出し」や「前進」が不可能、もしくはプレースタイルである場合にダイレクトプレーをする。
下の図にように、例えば、右CBがボール保持者であり、右SBや左CB、ピボーテにパスを出すことができない場合に「ダイレクトプレー」を選択する。
ダイレクトプレーは、そのチームのプレースタイルに影響を与える。プレースタイルは大きく2つに分かれる。
連携プレー、もしくは、縦に速いプレー
現代の欧州のトップレベルでは、ゲームモデルは存在するが、代替案が必要になっている。一昔前のように、「連携プレー」のポゼッションフットボールだけをやっていれば試合に勝てる時代は終わったのだ。
近年の高度化された守備戦術に対抗するためには、「連携プレー(ポゼッションスタイル)」と「縦に速いプレー(ダイレクトプレー)」の両方が必要になった。
その試合の状況、対戦相手のプレースタイル、力関係を考えて、そのプレー状況に最適なプレーを素早く選択していかないと、現代フットボールでは勝つことは難しいだろう。
そういった意味で、FCバルセロナやグアルディオラのチームは、「連携プレー」のポジショナルプレーだけをやっていては試合に勝つことが難しくなったのだ。
例えば、リヴァプールやユベントス(アッレグリ監督の時代)は、少し前まではショートカウンターのチームであったと思うが、ポジショナルプレーも必要になったので両方のプレースタイルを使って勝利することができるチームになっている。
もう自分たちが理想とするフットボールだけでは試合に勝てない時代になったのだ。
逆に考えると「縦に速いプレー(ダイレクトプレー)」だけのゲームモデルしか持たないチームは、本当に試合に勝つことが難しくなった。
プレースタイル:縦に速いプレー
手段:ダイレクトプレー、カウンターアタック
今回は、行動3:「ダイレクトプレー」について説明するので、「カウンターアタック」については、「攻撃への切り換え」の章で詳しく説明する。ここでは、「縦に速いプレー」に「カウンターアタック」も含まれ、「カウンターアタック」の手段の1つに「ダイレクトプレー」があると言うことだけおさえておいて欲しい。
2. 考慮するファクター
考慮するファクターは、「ボール出し」や「前進」と同じである。
3. 攻撃の組織構造
「ダイレクトプレー」の「攻撃の組織構造」については、「ダイレクトプレー」の選手間、選手の基準/ファクターを攻撃の組織構造とする。
なぜかと言うと、ダイレクトプレーにも、組織構造はあるが、そこまで深い「行動」ではないからだ。
そのように考えるとプレースタイルを「縦に速いプレー」、ゲームモデルの組織的攻撃を「ダイレクトプレー」にした場合、すぐに選手は、理解し実行することができるようになることだろう。
しかし、問題は「ダイレクトプレー」をするチームは、相手にリードされ、自陣に引かれた場合、また相手チームが弱くて、自陣に閉じこもった場合に打つ手がないことである。そのような場合は、何十回とボールをフォワードへ放り込み、そのセカンドボールや、相手のミスに乗じて得点をする、コーナーキックやセットプレーを得て得点するしか方法が限られることだろう。
個人的には、連携プレーによるポゼッションスタイルを、どのチームも模索するべきだと思う。
育成年代のダイレクトプレー(15歳まで):
個人的に育成年代でも、プレーオプションの1つとして「ダイレクトプレー」を教えるべきだと思う。それはフットボールは試合に勝つためにプレーをするものだからだ。相手が前から攻撃的プレッシングをしてきて、オフェンス側のDFやGKがパスコースを中盤に見つけられない、スペースを見つけられない場合は、ダイレクトプレーをするべきだと考える。
同時に、育成年代に「ダイレクトプレー」のみをするチームは、必要ないのではないだろうか。対戦相手によって、試合の状況によって自チームのプレースタイル、戦術・戦略を変えることを学ぶことが育成年代には必要なことだからだ。
育成年代は育成を、プロは勝利を目指す。
4. ゲームモデル作り:ダイレクトプレー
「ダイレクトプレー」の考慮するファクター:組織的攻撃の集団アクション:
組織的攻撃の集団アクションの定義:
攻撃しながらゲームのさまざまなプレーの状況を最適に解決するために、チームのメンバーとその文脈の間の相互作用から生じる個々のおよび/または集合的なアクション。
「ダイレクトプレー」には、一般的な基準/キーファクターは存在しない。それは「ダイレクトプレー」は「連携プレー」ではなく、直接的にミッドフィルダーの選手はプレーに関与しないからだ。
ミッドフィルダーの選手は、長い浮き球のロングボールがGK、もしくはDFラインの選手から蹴られたら直ぐにボールの方向に向かって走り出して、FWの選手が競り勝ったセカンドボールを拾うことしかないのだ。
よって、下記の基準/キーファクターから、選手間、選手の基準/キーファクターをそれぞれ3つずつ選択する。もし、自分のオリジナルな基準/キーファクターがあればそれを選ぶのも良いと思う。
ただ、選手の基準/キーファクターについては1つしかない。なぜなら1つで十分だからである。もし、自分のオリジナルな細かな基準/キーファクターがあれば入れて欲しい。
自分のオリジナルな基準/キーファクターを作る際には、「〜する」と言うように作るのがコツである。基準/キーファクターではなく、シンプルに「基準」とか、「キーファクター」とするのも良いだろう。
「ダイレクトプレー」は最初に、選手間の基準/キーファクターを選択する。オリジナルな基準/キーファクター作るときのポイントは、例えば、DFラインとMFラインの選手やFWラインとMFラインの選手が関係する(6人以上9人以下)基準/キーファクターを考えることである。
選手の基準/キーファクターについては、そのポジションの選手だけに必要な基準/キーファクターを選択する。もしくはオリジナルなものを作る。
尚、考慮するファクターの「組織的攻撃の補償アクション」は「ダイレクトプレー」には存在しないので、組織的攻撃の「ダイレクトプレー」の図から取り除いてある。「ダイレクトプレー」では、「組織的攻撃の集団アクション」のみを選択する。
5. 基準/キーファクター
選手間の基準/キーファクター:
・相手ディフェンスシステムに、異なる間隔を提供する(例:MFラインとDFラインを開かせる)。
・選手間の連携を容易にするために、相手にとって都合の悪い場所へボールを入れる(例:相手DFラインの背後)。
・相手の背後(視野外)にスペースを見つけて、相手のDFラインを破壊するために相手に近づいてマークを外す。
・相手のマークを避けるために、ディフェンスラインは最大限に幅を取る。
・パスをしたら、ボール方向にラインを閉じてコンパクトな状態でラインを素早く上げる。
・前のライン(MFライン)の選手は2番目のラインから、セカンドボールを拾う争い参加し、勝つ。
・最も高いラインにポジションを取る選手は、オフサイドにならないようにして、できる限り深さを取り、常にパスコースを提供する。
選手の基準/キーファクター:
GK:
GKは、ボール出しができない状況である場合、ダイレクトプレーを選択する。FWの足元か、相手CBの背後かどちらか。
CB、SB、ピボーテ:
GKがロングパスをした場合、中央方向へ斜めにラインを閉じながらDFラインを上げる。
FW:
ロングパスの時は相手の背後にポジションを取ることを目指し、できればシュートで終わる。ボールを受けたら、ターンをする。ターンをして前を向くことができなければ、相手の背後のスペースに深いマーク外しをする選手を探す。もし、近くにサポートの選手がいなければボールをキープする。
ボールを受ける選手に近い選手(MF、WG):
ボールを受ける選手が実行できるアクションに応じて、相手の背後のスペースに深いマーク外しか、セカンドボールを拾うためのサポートを目指す。
ボールを受ける選手に遠い選手(MF、WG):
ボールを受ける選手が実行できるアクションに応じてセカンドボールを拾うプレーに向かう。
6. 「ダイレクトプレー」トレーニング例
完全な構造の状況(チーム):組織的攻撃
行動:ダイレクトプレー
選手間の基準/キーファクター:
上記の選手間の基準/ファクターから選択する。もしくはオリジナルな選手間の基準/ファクターを作る。
選手の基準/キーファクター:
選手の基準/キーファクターは、各ポジション毎1つずつしかないので、それを選択する。もしくはオリジナルな選手の基準/キーファクターを作る。
参加者:GK+4DF+3FW 対 3FW+4DF+GK+2フリーマン
スペース:3/4コート(縦75m)
得点方法:ゴールにシュートを決める
条件づけ:
相手チームはグラウンドの3/4からプレッシング:ミックスマーク
ノルマ:
・ゾーン1にいる水色チームのGKからプレーを開始する。
・ゾーン2にいる相手FWの選手はボール保持者がゾーン2に入った時にプレッシャーをかける。
・ゾーン3は競合いに勝った方のチームのチームメートになる2人のフリーマンだけがいることができる。
・オフェンスの3選手はゾーン4で、フリーマンとプレーをするために競合いに勝つことを試みる。フリーマンはそのオフェンス選手の正面にサポートをする(ディフェンスが競合いに勝てば、そのディフェンス選手の正面にサポートをする)。
・オフェンス側がボールを失った場合、本物の試合と同じ状況になる。ゴールを決めるか、ボールが外に出るまでプレーは終わらない(フリーマンはボールを保持しているチームの味方である)。
※ミックスマーク:自分が担当をするゾーン内でマンツーマンマークをする。ボール保持者にパスの選択肢を与えないようにする時に有効である。
今回は、行動3:「ダイレクトプレー」についての説明とトレーニングメニューを1つ紹介した。
「ダイレクトプレー」は「縦に速いプレー(プレースタイル)」の手段の1つである。「ダイレクトプレー」をゲームモデルに入れる、もしくは代替案として入れておく必要性が高まっている。それは近年、前線からの高度な攻撃的プレッシングを使用してくるチームが多くなっているからだ。
また、育成年代であっても、代替案として「ダイレクトプレー」を持っておくと、試合の状況、相手との力関係によって、チームのプレーオプションが増えることだろう。
逆に、「ダイレクトプレー」をゲームモデルの柱にするチームもあって良いと思うが、そのようなチームは、それ以外のオプションを持たなくなるので、プレーの多様性が失われて、試合に勝つことが難しくなることだろう。
現代のフットボールは育成年代であっても、試合の状況、相手との力関係、試合の天候によってプレーを変えていく柔軟性が必要とされている。
次回は、行動4:ゾーン3で実行する「セットオフェンス」を説明する。
メールアドレス:sakamotokei68@gmail.com
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