カノジョに浮気されて『八犬伝』かおとぎ話かわからない世界に飛ばされ、一方カノジョは『西遊記』の世界に飛ばされました㉑

(よし、いいぞ、これでバケモノはどの方向からも狙われる。体格差のせいで致命傷を与えることはできないが、小さな傷をつけていけばーー)
と佑月が思ったところで、
「ーー広目天」と、バケモノが叫んだ。
すると、背中に炎の光背を背負った、甲冑を身につけた厳めしい顔の男が、天から雲に乗って現れた。
(ーーえ?あれって仏像じゃ)
と佑月が思うと、
「持国天、増長天、多聞天」
と、バケモノは次々と名前を呼んだ。
(え?四天王?)
天から雲に乗って、三人の神が降りてきた。
四天王のの四人は、浜辺に集まった神々を攻撃し始めた。
「うわあああ!」
浜辺にいた神々は、一斉に逃げ出した。
「ーー海松!」佑月は叫んだ。
「ここにいてください!あの程度なら俺らで対処します」
と、悟空が雲に乗って四天王の方に向かっていった。
八戒と沙悟浄も岸辺に戻った。
悟空が多聞天、八戒が持国天、沙悟浄が増長天と戦うが、残る広目天を止めることができる者がいない。
広目天は空から神々を襲った。
岸辺にいる残りの6犬士が攻撃を防いだが、広目天は犬士達が手強いとわかると、飛んで別のところにいる神々を攻撃する。どこに行くかわからない広目天を止める術はなかった。
「ーー犬塚殿、犬飼殿」
犬江親兵衛が言った。「拙者浜辺に戻る。もうこのバケモノを矢で弱らせることはできぬ。今は皆を守らねばならぬ」
そう言って、親兵衛はバケモノの背中から飛び降り、浜辺に向かって泳いでいった。
(ーー俺はどうすればいい?)
佑月は迷った。すると、
「金剛力士」
と、バケモノの大きな声が聞こえた。
すると雷が海に落ち、現れたのはバケモノに匹敵する大きさの金剛力士。
「ーーマジかよ」
佑月は青ざめて言った。
「阿修羅、迦楼羅(かるら)、緊那羅(きんなら)、畢婆迦羅(ひばから)、沙羯羅(しゃがら)、鳩槃荼(くばんだ)、乾闥婆(けんだつば)、摩睺羅伽(まごらが)」
とバケモノが言うと、いわゆる八部衆が天から降りてきた。
やがて、空が一際金色に光り、一体の神が現れた。
帝釈天である。しかし佑月には、それが何の神かはわからなかった。
(あの神、存在感が違うーーこのバケモノは第六天魔王じゃないのか?あっちが第六天魔王か?ダメだ、とてもじゃないがこんなのに勝てやしない)
佑月はバケモノの肩越しに浜辺を見た。
海松が天から舞い降りてきた神々が逃げている。
「海松!」
佑月は村雨をバケモノの背中から抜いて、海に落ちた。
バケモノはもう海岸線に迫っていて、佑月は最初足がつかず泳いでいたが、すぐに浅瀬に着き、海を掻き分けながら歩いていった。
(早くこうするべきだったんだ。犬江親兵衛が泳いで戻った時に俺もすぐに落ちれば、海松が危険に遭うことはなかったーー俺達は死ぬかもしれない。けどもし海松をのところまで行けたら、今度はたとえ死んだとしても、絶対に海松を離しはしない!)
海松も、佑月が海に落ちたのを見て、海岸へ向けて駆けてきた。
「ーー海松!」
佑月が叫んだ。もうすぐ波打際に着くところだったが、後ろから大きな波が押し寄せてきて、佑月は前のめりに倒れた。
「佑月!」海松が叫んだ。
佑月はすぐに起き上がって海松に向かって手を伸ばした。
海松が、佑月の手を握った。
「逃げよう!どこまで逃げれるかわかんないけど、逃げれるだけ逃げよう!」
佑月が言うと、海岸は強く頷いた。
二人は共に駆け出した。
森の中に入ると、神々も佑月と同じ考えで、逃げているのがわかった。すると、
「ーー八百比丘尼殿!」
と叫ぶのが聞こえた。
(ーー八百比丘尼?)
佑月が声の方を見ると、確かにそこに八百比丘尼がいる。
「ーーこっち!」
佑月は八百比丘尼の方を指さして、八百比丘尼に向かって走っていった。
「え?何?何?」
と言いながら、海松もついてくる。
「八百比丘尼殿、あなたなら奴らをなんとかできるでしょう、助けてください!」
と、神々が八百比丘尼に向かって話し込んでいる。
「え?八百比丘尼さんあれをなんとかできるの?」
八百比丘尼の元にたどり着いた佑月が言った。
「ええ、八百比丘尼殿は歌で敵も味方も操ることができるのです」
と、神の一人が言った。
「ほんと?」
佑月が八百比丘尼の両肩を掴んで言った。
「ちょっと佑月、何よこの女」
と海松が突っかかってきた。
「この人?ああ、八百比丘尼さんだよ」
佑月はしまったと思いながらも言った。
「どういう関係?」
「この人と?いや何でもないよ。で、奴らをなんとかできるの?」
「ーーできるで」八百比丘尼が言った。
(できるで?)
佑月は引っかかったが、
「じゃあ、状況はわかるね?あいつらが襲ってきてるんだよ。景気良くやっちゃってくれ!」
「ちょっと佑月、まだあたしの話が済んでないよ!」
海松が言ったが、
「ちゃんと話すから!」
佑月は八百比丘尼がからかって何か言わないかとひやひやしたが、八百比丘尼はバケモノをずっと睨んでいる。やがて、
「ゼンキ、ゴキ」
と八百比丘尼が言うと、どこからともなく2匹の小鬼が現れて、八百比丘尼の両脇に持した。
佑月は、海岸の方を見た。
バケモノは既に上陸し、多くの神々が逃げ散ってしまったが、まだ何人かの神と、犬士に悟空、八戒、沙悟浄が戦っていた。
八百比丘尼は歌い出した。
「Once I had a love and it was a gas

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