カノジョに浮気されて『八犬伝』かおとぎ話かわからない世界に飛ばされ、一方カノジョは『西遊記』の世界に飛ばされました⑳

男達は殺し合って、どんどん数を減らしていった。
そしてとうとう残り5人になったところで、男達は殺し合いを止めた。
男達は、佑月の前に集まって跪いた。
「なんなんだお前達は……」佑月は青い顔で、声を震わせて言った。
「我々のことは、スパルトイとお呼びください」と男の一人が言った。
「その者達はお前様を主と認めて跪いている。受け入れてやりなされ」
と老人が言った。
「ふざけるな!こんな目の前で殺し合いするようなおかしな奴ら……」
「これから戦おうというのに、己だけ正気を保とうというのかね?」
と老人に言われ、佑月はしばらく黙っていたが、
「ーーお前ら俺に従うんだな?」
と腕を組んで言った。
男達は、より深く頭を下げた。
「わかった。お前らを受け入れてやる。ーーおい爺さん、あんたの名前は何だ?」
「儂は滝沢清右衛門という者じゃ」
「爺さん、一体何と戦うってんだ?」
「女狐と呼ばれるおなごもいるが、そんなものはない。お前様もそのうちわかるだろう」
「は?何の話だ?」
佑月は言ったが、老人はそれに答えずにどこかに行ってしまった。
……ずしーん、
……ずしーん、
と、老人の姿が消えると同時に、音が聞こえてきた。かすかに地面が揺れている。
「ーーなんだ?」
遠くで、誰かが叫んでいるのが聞こえた。
「行ってみよう」
佑月が向かったところに、人が何人かいた。
人々はみずらという、古代の人の髪型をしている
「ここはどこですか?あなた方は何者ですか?この地響きはなんですか?」佑月が尋ねると、
「ーー我々はこの国の神です。そしてこの国に、第六天魔王が攻めてきました」
と神と名乗る男は言った。
「第六天魔王?そいつはどこにいますか?」
佑月の言葉に、男は指の指して示した。
「ーーなんてこった」それを見た、佑月は絶句した。
「あなたはこの国の王になる方ですね?」
男は佑月に尋ねた。「あれを倒して、この国を救ってください」
男の願いに佑月は答えず、ずっと前を見ている。
「ーー佑月、何が来たの?」
海松が佑月に追いついて尋ねた。「ーーあれは何?」
海松は佑月の視線の先にあるものを見て言った。
そこには、巨大な体、50メートルはあるかと思われる男がいた。
その巨大な男は、海の中にいて、こちらに向かってくる。
「ーーお前も俺もさ、敦賀に住んでるだろ?」
佑月が言った。
「うん、それがどうしたの?」海松が答えた。
「お前もあれが何か知ってるよ」
「え?あたしわかんないんだけど」
「見ろよあの角、あれは都怒我阿羅斯等だ」
「ツヌガアラシト?」
「角がある人という意味だ」
佑月は巨大な男を指さした。確かに男には角が生えている。
「助けてください、我々を救ってください」
と、神と名乗る男達が佑月を取り囲んで言った。
「さーて、どうすっかな……」佑月は腕を組んで言った。
「そんな!あなたはこの世界の王ではないですか」
と、佑月は男達に肩を掴まれて揺さぶられるが、
「そんないきなり王だって言われても別に義理はねーし。それにあんなの倒せねーよ」
「そんなこと言わないで!あのバケモノを倒してください!」
神々の必死の懇願を受けて、佑月は村雨を抜いた。
刀身から水気がほとばしる。
(この体格差じゃ、致命傷を負わせることはできない。それでもこの村雨なら、あのバケモノにかすり傷以上の傷をつけることはできる。傷を無数につけていけばあるいはーー)
佑月は村雨の刀身を見るのをやめ、村雨を鞘に納めた。
「スパルトイ、お前達はーー」
佑月は後ろを振り向いて言った。
「我々は投げ槍で応戦します」
と、5人のスパルトイは言った。
「よし、さて、俺はどうやって奴に近づくかーー」
「お猿さんが雲に乗れるから、乗せてってもらいなよ」海松が言った。
「そうか悟空か!その手があったな」佑月が言うと、
「俺だけじゃなく、八戒も沙悟浄も雲に乗れますよ」
と悟空は言った。
「よし、じゃあ俺は悟空に雲に乗っけてもらってバケモノの体に乗り移ろう。悟空、八戒、沙悟浄は空からバケモノを攻撃してくれ」
「わかりました!」悟空、八戒、沙悟浄が言った。
「あのバケモノの体に乗り移るんなら、我らもいるぞ!」
と声がする方を見ると、そこには犬川荘介、犬田小文吾、犬飼現八、犬坂毛野、犬山道節の犬士達。他に見知らぬ者が二人いる。
見知らぬ者のうち一人は、体格こそ大きいが、顔が異様に童顔なのが気になる。
「おおっ!みんな!」佑月が叫んだ。
「あのバケモノの体に、この八犬士最強の犬江親兵衛仁(まさし)も乗り込むぞ」
と、大柄で童顔の男が言った。
「犬江親兵衛?じゃあ八犬士が揃ったのか!ということはそちらは犬村大角さん」佑月が言った。
「犬村大角礼儀(まさのり)でござる。以後お見知り置きを」
と、犬村大角は頭を下げた。
「どうも、犬塚信乃です」
佑月は頭を下げ、「ーーえーと、みんなには矢を射てもらいたい。それと俺と親兵衛がバケモノの体に乗り込むんだけど、もう一人来てもらえたらなおいい」
「では拙者が」と、犬飼現八が名乗り出た。
「それよりお猿さんが如意棒をでっかくして、どかーんとやった方がいいんじゃない?」
と海松。
「え?そんなことできんの?」と佑月。
「いや、多分無理ですよ」悟空が言った。
「え?どうして?」と海松。
「まあ見ててくださいよ」
悟空は雲に乗り、バケモノの方へ向かっていった。
バケモノは悟空をはたき落とそうとして手を振り上げたが悟空はそれをかわし、バケモノの肩のあたりに如意棒で一撃で加えて戻ってきた。
「ーー俺は如意棒を大きくして奴を攻撃しようとした。しかし如意棒は大きくならなかった」悟空は言った。
「え?それってどういうこと?」海松が叫んだ。
「あのバケモノは俺が壊した世界とは、根本的に作りが違うんですよ」と悟空。
「ーーなんにせよ、奴に無数に矢をぶちこんで刀で切り傷をつけ続ければ、奴は倒れるだろ?やってやろうぜ!」犬江親兵衛が言った。
(ーーそもそも、奴は敵なのか?)悟空は思った。
こうしている間にも、バケモノはどんどん近づいてきていて、バケモノが一歩近づくたびに起こる地響きが、集まる人々の体を揺らすまでになっていた。
「よし!俺らはできるだけ背中に乗り移る。みんなはやみくもに撃つんじゃなく、バケモノの腹を狙って、バケモノが矢を恐れて背中を向けたら射るのをやめて、腹が狙える場所に移動するんだ」
佑月と犬江親兵衛と犬飼現八は、それぞれ悟空、八戒、沙悟浄に雲に乗せてもらって、バケモノに向かっていった。
佑月はバケモノの上空に来た。
「ーーよし」
佑月は雲から降り、バケモノの背中に村雨を突き立てた。
「ぐわっ!」とバケモノが叫んだ。
(痛みを感じるくらいのダメージは与えている。血も出ている)
佑月は村雨に掴まって、バケモノの肩に登った。
「わっ!」
バケモノの手が佑月に襲いかかる。
佑月はまた背中の方へと逃げ、バケモノの背中に村雨を突き立て、バケモノの手をやり過ごした。
八戒が犬江親兵衛を落下させ、親兵衛はバケモノの肩に落ちた。
「バケモノめ!これでも喰らえ!」
と、親兵衛はバケモノの肩に刀を深々と突き刺した。
「ぐわあっ!」
バケモノは親兵衛めがけて腕を振り上げた。しかし親兵衛は、
「なんの!」
と突き刺した刀を抜き、その刀をバケモノの拳に向けて振り上げた。
親兵衛の刀と、バケモノの拳が衝突した。
「ぐわっ!」
バケモノの拳が、親兵衛の刀に弾かれた。
「どうだ!」親兵衛は得意そうに言った。
(ーーあれは真似できねえや)佑月は思った。
悟空と八戒も、それぞれそれぞれ如意棒と釘鈀でバケモノに攻撃を加えていく。
「お猿さん!」海松が叫んだ。
「ウキ?」
と、海松の目の前に猿が現れた。
「ーー君じゃない!」と海松。
猿の他に、犬と雉も現れた。
「え?何?この子達」
「犬塚殿が飼っていた犬と雉と猿だな」犬坂毛野が言った。
「え?あいつ桃太郎もやってたの?」
「その犬と猿と雉は使える。三匹だけでは海には入れぬが、あのバケモノはいずれ陸に上がってくる。三匹は鬼退治でも役に立っていた。此度も役に立つだろう」
沙悟浄が犬飼現八を降ろした。
現八も背中に刀を突き立てて登ってきた。
「射て!」
海岸からは、八犬士やスパルトイ、それに日本の神々が矢や投げ槍を放ち、バケモノの体に突き刺さっていく。
「ぐわああっ!」
バケモノは体をねじって矢をかわそうとした。
「みんなバラけろ!」
犬士達が口々に叫んで、犬士やスパルトイ、神々は海岸線にまばらに散らばった。
バケモノの腹が見える方にいる者達が、矢や投げ槍を放っていく。
沙悟浄も戦闘に参加し、降妖宝丈でバケモノに傷を入れていく。
バケモノは今度は、陸に背中を向けて矢を防ごうとした。
(陸に背を向けたまま、後ろ向きに歩かれたら、攻撃できねえな)
と佑月が思っていると、
「三人とも右に寄って!バケモノから見て右!」
と悟空が言った。
(右?)
佑月と親兵衛、現八が右に寄ると、
「今だ!バケモノの左の背中を狙え!」
と悟空が陸に向かって叫んだ。
陸からバケモノの左の背中に向けて、矢が飛んできた。
「ぐおおお!」
バケモノは苦しんで、体を回した。

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