カノジョに浮気されて『八犬伝』かおとぎ話かわからない世界に飛ばされ、一方カノジョは『西遊記』の世界に飛ばされました⑤

海松は宝象国に入った。
王のいる宮殿に向かい、西域に取経の旅に行くこと、旅の途中で拐われたこの国の王女に会ったこと、王女が黄袍怪という妖怪の妻にされていることを伝えた。
早速海松達は宮殿の中に入れてもらい、王に謁見することとなった。
「おお、百花羞が」
と王は海松に抱きつかんばかりに驚いて尋ねた。
「王女の手紙を預かってます」
と言って、海松は書状を渡した。
王は書状を読んでわなわなと震え涙を流した。そして、
「王女を救い出してください」
と海松に頼んできた。
(救い出してってーーあの妖怪倒しちゃっていいの?)
と海松は思ったが、結局押し切られて引き受けることになった。
(いいのかな?引き受けちゃってーー)
その日は王宮に泊まり、翌日来た道を引き返して黄袍怪のいる寺に向かった。
「じゃ八戒、沙悟浄、お願いね」
と海松は言った。
(あたしも自分じゃ助けられないの゙にこんなこと引き受けちゃってーー)
八戒と沙悟浄が黄袍怪と戦うが、二人とも黄袍怪には敵わない。
黄袍怪の一撃で、沙悟浄が倒された。
「あ!」海松が叫んだ。
八戒はその場から逃げ出した。
海松も馬に乗って八戒と共に逃げた。
「貴様ら!この礼はするぞ!」
黄袍怪はそう言って雲に乗り、西に向かった。
「ーー沙悟浄は生きてるんだよね」
海松が言った。八戒はしばらく押し黙った後、こくりと頷いた。
「沙悟浄は助けられないかー…」
海松は八戒と沙悟浄が助ける方法について話し合ったが、妙案がない。
やむなく、沙悟浄を置いて西に向かうことになった。
(ごめんね沙悟浄…)
ところが宝象国に入ると、
「あっ!奴らだ!王女様を拐ったのは!」
と言って、人々が襲ってきた。
「え?え?」
海松は驚いて、その場から逃げ出した。
「ーー野郎!」
八戒が釘鈀(熊手)を奮って人々に立ち向かおうとしたが、
「八戒!ダメ!」
と海松が言って、八戒も慌てて逃げてきた。
(これじゃ西に向えない!)
海松が途方にくれていると、雲から黄袍怪が降りてきて、海松の前に立った。
「わっはっは!百花羞を拐ったのはお前達だと、人間に化けて言い触らしてやったのさ。ついでにお前が言い訳できないようにしてやろう」
と言って、黄袍怪は妖術を使って海松を虎に変えてしまった。
「が…がっ!?」
海松は叫んだが、虎に吠える声にしかならない。
「それで王女を拐ったのは自分達じゃないと言い訳してみるがいい。わっはっは!」
と言って、黄袍怪は雲に乗って去っていった。
「がお…がおおおー!」
と海松は泣き出した。
「ーーお師匠様、こうなったら悟空の兄貴を呼んできますから待っててください」
と言って、八戒は雲に乗って悟空のいる花果山に向かった。
悟空はすぐに戻ってきた。
「あらあらひでえ姿になっちまってーーお師匠様ちょっとの間辛抱しててください、すぐに元に戻してあげますから。八戒、お前はお師匠様を連れてこい」
と言って悟空は黄袍怪のいる寺に向かった。
悟空は目ざとく百花羞を見つけると、百花羞を妖術で眠らせ、自分は百花羞に化けた。そして
黄袍怪を見つけて側に寄っていったかと思うと、正体を現して如意棒で殴りかかった。
黄袍怪は慌ててかわしたが、悟空の攻撃には防戦一方で、黄袍怪は雲に乗って逃げ出した。
悟空も觔斗雲に乗って黄袍怪を追い、黄袍怪と激しい空中戦になった。
その頃海松はようやく悟空に追いついて、空中で黄袍怪と戦う悟空を見た。
(うわー…お猿さんあんなに強かったんだ)
やがて黄袍怪は悟空の一撃を喰らって、地上に降りてきた。
「おい!お師匠様を元に戻せ!」
と悟空が言うと、黄袍怪は海松にかけた術を解いて、海松は元の人間の姿に戻った。
「ありがとう、お猿さん」
海松が言うと、
「孫行者と言ってくださいよ」と悟空。
「さて、お前をどうしてくれようか」
と悟空は言ったが、
「待ってください!私は元は天界の二十八宿星の一人の奎星でございます。百花羞は元天界での私の侍女で、私は恋心を抱いており、百花羞が下界に転生したから私も下界に降りて、百花羞を拐って妻にしたのでございます」
と黄袍怪は言った。
「え?それって恋人同士ってこと?」
海松が言った。
「奎星とその侍女っていう縁があったってだけですよ」
と悟空。
悟空が天界に掛け合って、黄袍怪は天界に連れ帰ることとなった。
「待ってくれ!俺は百花羞と一緒にいたい!」
と黄袍怪が言うので、悟空は百花羞に喝を入れて目覚めさせた。
「百花羞、二人で天界に行こう!」
と黄袍怪が言ったが、百花羞はしばらく黄袍怪を見つめた後、目を背けてしまった。
結局、天兵がやってきて黄袍怪だけを連れ去ってしまった。
「これで良かったのかな…」
海松は言ったが、
「ここで終わるならそれまでの縁ってことでしょ。それにしてもお師匠様も全く人を見る目がないんだから。だからこんな目に遭うんですよ」
悟空が言った。
(あたしは人を見る目がないーーあたしが佑月を信じてあげられたら、もっと違った結果になってたのかな)

一方、佑月は庚申塚から逃げて、北に向かって走っていた。そこに
「待ってください!」
と声をかけられたので振り向くと、犬と雉と猿が駆けてくる。
(ーー犬、雉、猿?)
「鬼ヶ島はすぐそこです。まずはお腰のきび団子を食べて腹ごしらえをしましょう」
と犬が言ったので佑月は驚いた。
「鬼ヶ島?今度は桃太郎か?」
そう言って腰を見ると、腰に袋が下げてある。袋を開いてみるときび団子が入っていた。
佑月は側にある石に座ってきび団子を犬と雉と猿に与えた。
(今度から鬼退治かーーまあまたこんなところに連れてくるんだからですなんとかなるだろう)
と思った時、佑月は刀で斬られそうになったことを思い出した。
(そうだ!背中を斬られたんだった!)
佑月は着物を脱いで、背中を触ってみた。
幸い傷は浅く、血も止まっているらしい。
「あ!桃太郎さんいつの間にか背中を斬られたみたいですね。ちょっと待ってください」
と言って藪の流しに分け入り、しばらくして戻ってきた。
「よもぎです。これを傷口につけるといいですよ」
と言って、猿は数枚の葉っぱを佑月に渡した。
佑月はよもぎを背中の傷につけようとして、
(そうだ、マンガではこうやってたっけーー)
とよもぎを口に入れて噛んだ。そして袖をちぎって包帯にし、噛んだよもぎを背中に当てて縛った。
「さて、行くか」
佑月は立ち上がって歩き出した。
(ーーん?待てよ、俺は北に向かって歩いてたんだよな?)
やがて、丘の上にある山塞に辿りついた。
「鬼ヶ島です」と犬が言った。
「鬼ヶ島ってーー島じゃないの?」佑月が言うと、
「何を言ってるんですか、ここ吉備国を北に向かって島がある訳ないじゃないですか」
今度は猿が言った。「ここは鬼ヶ島、またの名を鬼ノ城と言います」
「吉備国ってーーどこ?」
そう言って、(そうだ、確か備前とか備中とか言われた旧国名があったな、吉備の備で備前とか備中とかーーってことは岡山県?)
「俺は東京にいたんじゃなかったのか?」と佑月が言うと、
「東京ってなんです?」と雉が聞いた。
(ーーなんで岡山にいるのか、考えたって無駄か)
「では、乗り込みましょうか!」
と犬が勢い込んで言うので、
「待て!ちょっと待ってくれ!」
と佑月は止めた。しばらく考えて、
「ーー雉、空からちょっと砦の中を偵察してきてくれないか?偵察っていうのはそうだなーー建物の数とか配置とか、中に何人人がいるかとかだ」
と言った。
「了解です!」雉が言った。
「鳥でも何回も砦の上を回っていると警戒されるかもしれないからな、ちょっと疲れるかもしれないけど、大きく回って砦に近づいたり離れたりしながら偵察してくれ。俺はこの砦をぐるっと回って見てくる」
雉は砦に向かって飛び立ち、佑月は森の中を回りながら砦の周りを一周した。
佑月が元の場所に戻ってくると、雉は既に戻ってきていた。
「雉、砦の中で一番大きな建物はどこにある?」
「はい、北側にあります」雉が答えた。
佑月は地面に砦の図を書いて、北側に☓を書いた。
「よしここだな。この建物の玄関はどっち向きだ?」
「南向きです」
「他に建物は何棟ある?」
「建物は他に2棟ありました」
「外にいた鬼だけでいい、鬼は何匹いた?」
「鬼は3、4匹いました」
(ってことは少なくて10匹くらい?多くて30匹くらいか?)
「よし、北に回ろう」
佑月は犬、雉、猿を連れて北側に回った。
(ーー玄関が南側にあるってことは、鬼の首領はおそらくこの北の建物の一番北にいるんだろう。しかしそれも見当に過ぎない。もし鬼の首領がこの一番北の建物にいなかったら?もし俺が思っていたのと建物の配置が違って、鬼の首領が一番北にいなかったら?もし俺の見当通りでも、鬼の首領の周りに別の鬼がいたら?)
「ーーここで夜を待とう」
佑月は言った。
(考えても仕方がない。俺は自分の見当を信じてやるだけのことをやるしかないんだーー)
佑月は近くで農家を見つけて、そこで砂金と引き換えに夕食をもらった。

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