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仮想通貨ロンダリング

 毎年この時期になると「関西オープンフォーラム」というテック系のイベントが関西で開かれている。
 ちょっと辺鄙な場所(南港)でやっているので、ここ数年足が遠のいていたのだが、今年はコロナの影響でオンライン開催になっていたので、気楽な感じでちょっといくつかのセミナーを覗いてみた。
 いくつか覗いた中で、ダントツで興味深かったのが、これだ。

 朝日新聞のサイバー犯罪事件担当の記者の方がお話されていたのだが、聞いている内にどんどんのめり込んでいってしまった。

 この記者の方は、去年のこのイベントでも登壇されていて、その時は、例の「コインチェック事件」(580億円の仮想通貨がクラッカーの手によって盗まれた事件)のお話をされていたらしい。コインチェック事件の犯人が、北朝鮮系だとかロシア系だとか、そのあたりの犯人についての捜査情報についての話をしていたらしい。
 で、そのセミナーが終了した直後に、ある男性が記者の元に現れて、唐突に「自分はコインチェック事件の犯人と関わりがある。」と話したという。
 その出来事をきっかけとして、その後いろいろあって結局、記者はその男性に取材をすることになり、色々な情報を聞き出すことができたという。

 まず、この男性が何者なのかというと、見た目は若くてフリーランスの技術者といった感じ。職業は何をしているのかというと、株取引とか仮想通貨取引をパソコンを使って自動化することによって日銭を稼いでいるという。ちょっと羨ましいような生活を送っている男性だ。
 で、この男性は、ある日ネットの闇サイトで、コインチェック事件の犯人が、自分の盗んだ仮想通貨を、その他の仮想通貨と交換するように取引を持ちかけているのを目にして、それに応じたらしい。要するに仮想通貨って、お金を移動させても履歴がずっと残るので、この犯人は、足がつかないように別の仮想通貨と交換することによってクリーンな状態にしようとしているのだ。一言でいうと、マネーロンダリングというやつで、あれを現金ではなくて、仮想通貨でやろうとしているのだ。
 この男性は、犯人がコインチェックから盗んだネムという仮想通貨を、自分のビットコインと交換してしまった。そしてその後で、入手したネムを仮想通貨交換所を中継してクリーンな状態に戻し、最後にまたビットコインに変換するっていうのをやったらしい。
 で、ちょっとびっくりしたのがその金額で、総額20億くらいの仮想通貨をそうやってロンダリングしたという。
 当然、一気にそんな多額の金額をあちこち移動したり変換したりすると怪しまれるので、自分でツールを作って、それを動かしながら少しずつしこしことロンダリングしていたらしい。

 そんなことをやっていて、罪に問われたりしないのかというところは、やっぱりこの男性も気になっていたらしい。気になっていたんだけれども、この作業が面白くて止められなかったという。なんかゲームのスコア上げをやっているようで、楽しくて最後までやってしまいたかったと。
 なんかこの、「もしかしたら法に触れるかもしれないけど、でも目の前のゲームをクリアしたくてやってしまう」っていうのが、いかにも今風の犯罪だなぁって思ってしまった。
 結局のところ、ある日突然、警察がこの男性の自宅にガサ入れにやってきて、その後しばらくしてこの男性は逮捕されてしまった。

 うーん、なんだろうね。20億っていう金額にも現実感があまりないし、そういう金額を、pythonでコードをちょこちょこっといじりつつ、あちこちに積み上げていくっていうことを、そのあたりの普通の若者がやっているんだなぁって思うと、なんとも言えない気持ちになってしまう。
 僕も昔、色んなWebサイトを作って自動でキュレーションする仕組みを作っていた時期があったんだけど、コードを書いて、自分の手元にどんどん情報が集まってくるのがものすごい快感だったのを覚えている。あれは、麻薬的な快楽で、確実に中毒性がある。
 もしも自分の手元に集まってくるのが、ネット上の情報ではなくて、リアルのお金だとしたら、それこそ脳内麻薬ドバドバだったんではないだろうか。
 自分がもし、この男性と同じ立場に立ったとしたら、同じように犯罪だとわかっていても踏みとどまることって、できただろうか、自信がない。
 そんな風に、このセミナーを聞きながら、いろんなことを考えてしまった。

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