「人鳥クインテット」の感想をちょっとだけ

 第三回大藪春彦新人賞を受賞された方の、初の長編だそうです。
 受賞作の「ぼくのすきなせんせい」を読んでみて面白かったので、気になって早速読んでみました。

 あらすじを簡単に言うと、高校を退学したばかりのひきこもりの少年が主人公で、ある日、同居していた祖父が自室でペンギンに変身しているのを発見します。そこから、祖父が管理人をしていたアパートの住人との交流が始まり、不登校の小学生女児や、なんか訳ありの年上のお姉さんが出てきて、わちゃわちゃっとします。
 最後に、小学生やお姉さんがとあるトラブルに巻き込まれていき、それに干渉する主人公も実は…という感じで、色んな要素を巻き込んだ上で怒涛のエンディングにもつれこんでいくのです。

 うーん、「ぼくのすきなせんせい」を読んだ時も思ったのですが、読後感が独特ですよね。

 最初ペンギンが出てきた時には、これはファンタジックな感じの話になっていくのかな?と思っていました。
 こんな感じで、日常の中に一つだけ非日常的な要素を紛れ込ませて、そこを起点にして物語を転がしていくっていうのは、創作手法としてはよくあるやつなのですが、途中まではなんなんだろうこれは?という感じで読んでいました。ちょっと前にアニメ映画「ペンギン・ハイウェイ」を観ていたので、それへのオマージュなのかなと思ったりもしたかな。
 そして、年上のお姉さんがなにやら怪しげな行動をとっているのを主人公が目撃してしまって、この行動というのがいかにもアレなので、ここから物語が徐々にミステリーっぽい流れに転換していきます。ここからは徐々に、出てくる登場人物に関してあちらこちらに謎が散りばめられていくので、読んでいて続きが気になる状態になってしまって引き込まれていきました。
 そしてそのまま物語はエンディングに向かっていくのですが、僕の予想では、この3人が抱えているそれぞれの謎がひとつに収束していって、それが最初のペンギンにつながっていくのかなっていう王道の展開を期待していたのですが、そうはならずに…という感じでした。

 結局このお話って、主人公・小学生・お姉さんの三人が抱えこんでしまった罪についてのお話で、でもそれらは結局最後まで救われることはなくて、投げっぱなしな感じで着地していきます。でも、その投げっぱなし感が小気味よくて、嫌な感じはしなかったです。肝心のペンギンについても然り。
 ファンタジーからミステリーへと変遷して、最後は純文学的な感じになってしまうんですよね。あちらこちら引っ掻き回して、収拾つかなくなったところで、最後は読者の想像にお任せします的な感じで終わってしまう。もやるんだけども、もやり方が嫌ではないもやり方で、そのへんのさじ加減がすごく上手だなーって思いました。

 で、この小説、他人に無条件でオススメできるかというと、正直微妙なところなんですが、今この著者の前作「ぼくのすきなせんせい」が以下のリンクから無料で読めます。

https://amzn.to/2Ss1fKa

 2万字程度の短編ですので、パソコンかスマホにキンドルアプリを入れて、サクッと短時間で読めると思います。
 なので、まずはそちらを読んでもらって、読後感がいいなーって思った人は、「人鳥クインテット」を読んでもハマるんではないでしょうか。ぜひ、そちらを先に読んでいただくことをオススメしたいと思います。

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