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「悪役令嬢の中の人」個人的感想〜ざまぁ、スカッとの程度とギロチン送りの人道性〜

Twitterで「悪役令嬢の中の人」というラノベのコミカライズがいいね、RTの波の中から回ってきた。絵柄が美しく話運びも丁寧だったのでpixivコミックで少しずつ読み始めた。
一巻を電子書籍で購入した流れで、なろうで掲載されている原作小説を読みに行ったら予想外の展開が繰り広げられていた。
あまりに衝撃的すぎたので、自分の頭を整理するための文章を書かざるを得なかった。
簡潔にあらすじというか、結末まで書くので読んでない方はネタバレ注意。



架空のスマホ乙女ゲームの悪役令嬢レミリアの中に、現代日本で死亡した女性エミの魂が入り込んだ。
転生ではなく同居、一方しか表に出てこられず互いの意思疎通は取れない。
レミリアのファンだったエミは幼少期からレミリアの人生を好転させようと、彼女の代わりに周囲とコミュニケーションを取り運命に逆らおうとする。

だがゲーム版でのプレイヤーキャラ(主人公)である星の乙女ピナが現れた。
ピナの中にもエミのようにこの乙女ゲームを楽しんでいた現代日本の女性の魂が宿っていた。
しかし彼女はゲームの登場キャラクター(攻略対象)全ての寵愛と無償の庇護を求め、そのためなら他者を騙し蹴落とそうとする悪意ある存在だった。

ゲームの中にも主人公が勉強して教養を身につけたり、鍛錬を積みレベルを上げたりするシーンがあったはずだが、ピナはそれらの努力を一切しない。
キャラクターの好感度を操作する課金アイテムの力で周りを籠絡し、レミリアに加害されたと嘘をつき孤立させ、婚約者や友人はおろか家柄すらも取り上げる。
レミリアのためにと骨身を惜しまず努力してきたエミは正面からぶつけられた悪意と濡れ衣に耐えかね、心を閉ざす。

すると本来のレミリアが身体の所有権を取り戻した。

レミリアは誓った。

優しく寛大で人々のために現代日本の知識を惜しみなく使い、レミリアを純粋に愛したエミに報いること。
課金アイテムの作用によって、とはいえピナを信じ、貴族令嬢レミリア(エミ)を呆気なく切り捨てた者たちへの復讐を遂げること。
何よりも、エミを陥れて絶望へ突き落としたピナに、死よりも重い罰と屈辱を味わわせることを。

最終的にレミリアは紆余曲折にして計画的なサクセスストーリーを経て、押しも押されもせぬ立場と身分、絶対的庇護者にして事実上の婚約者を手に入れピナの罪を白日の下に晒す。
ピナ本人は勿論、ピナの悪事に関与した者も財産や名誉をことごとく失った。

その後レミリアは婚約者と結ばれ、魂の操作術によって元々のピナ(転生者でない真の星の乙女)の魂とエミの魂を自身の胎児に移し、円満で幸せな家庭を築く。
この話において、レミリアたちは間違いなくハッピーエンドを迎えた。

だがピナの事件後、レミリアが事件関係者に行った私的制裁は筆舌に尽くし難いものだった。

レミリアの家の使用人・従者でありながらレミリアを裏切り、ピナに情報を流していた者たちは先述した魂の操作術の実験体に使われた。
魂を損傷した彼らは与えられた苦痛を転生後も決して忘れ去ることはできないと示唆されている。

そして、事件を起こした張本人ピナーー本来の名はリィナーーは。
喉を潰されたうえで炭坑に流刑となり、事件を恨む者から顔を焼かれ、連日、犯罪者たちの慰み者にされるのである。

決して死なないよう優秀な薬品を惜しみなく投与された「殺害以外の何をしてもいい、妊娠もしない玩具」として。

レミリアは幸せな毎日を享受しながら、自ら手を下すことなく遠地のリィナを拷問し続ける。
歯を抜かれ、歯茎の穴にネジを差し込み神経をじかに刺される等の目に遭いリィナが自我を失いそうになる度にレミリアはリィナの夢を操り、都合の良い夢を見せて正気を取り戻させる。
夢から醒め、絶望と共に発狂するリィナの姿を遠見してほくそ笑む。

他キャラ視点の番外編でも4回くらい「リィナがピナの身体を使い肉体関係によって浅ましくも男を操っていた」シーンの描写を擦り倒していたので
リィナへの苛烈な拷問こそが、この物語のトロの部分なのかもしれない。俗に言う「ざまぁ」である。

エログロ部分はさらっと「そういうことをしている、されている」と書いてあるだけで描写は細かくないが、内包されている処罰への熱量はR15作品とは思えないくらい濃く感じた。
手足に針金を打ち込むとか歯を抜くとかR18Gリョナ同人誌でしか見ないようなワードすぎて驚いてしまった。
というか正直、高校生が読んでいい話ではないのでは?とすら思った。
他のR15作品に詳しくはないが、もしこのくらいの報復が当たり前とされていたら怖い。倫理観を疑う。

中世において犯罪者への私刑が禁じられ、即座に首を刎ねる断頭台ギロチンが人道的とされた理由を肌で感じた。
私刑が許されてしまえば「死の安寧など絶対に与えない、永遠に苦しみ悶え続けろ」という純粋なまでの害意が剥き出しになるだけなのだ。
ファイアーエムブレム風花雪月において頻出する「もはや今生に救いの道はありません」という冷酷な処断を表す言葉が慈悲深く思える日が来るとは思わなかった。

「お前が物語を勝手に見誤ったにすぎない。
悪役令嬢レミリアはゲーム本編において世界を滅ぼす正真正銘の悪女であり、エミとの出会いによって愛を得て善人化したように見えても実際はエミの行動を予想し模倣していただけで、根本的には悪であることは丁寧に描写されていた」と指摘されたら、そうかもしれない。

でもここまで悪辣とは普通、思わないじゃないですか。

コミカライズを楽しく読んでたけど、最後にあの惨たらしい行為が待ってるかと思うと恐ろしくなってくる。
怖いもの見たさもあるけれども。