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とんかつをマダムとシニアに売る「匠庵」

料理には「男料理」と「女料理」があると感じる。
調理法でいうと、煮物や蒸し物は女性的。
焼いたり揚げたりは男性的で、食材にすると野菜や魚は女性的。肉は男の食材という具合になるかなぁ…。
ステーキやとんかつは男っぽい料理なんだろうと思う。飯と一緒にもりもり食べて、腹を満たして元気をつける。
そんなとんかつを女性に売る。あるいはシニアに売るというのは簡単なようでいてむつかしい。

とんかつ自体を女性向けとかシニア向けにアレンジしすぎてしまうととんかつという料理自体の良さを損なう。
食べてもらい方、たのしんでいただき方を女性やシニアに向けて工夫することが大切になるんだ…、ということを学べるお店。

新宿の伊勢丹にある匠庵。
入り口脇にちょっと不思議な看板がある。
匠庵というのは店名。けれど上に「とんかつ和幸」と書かれてあって、つまりとんかつ和幸というチェーン店のブランドのひとつが匠庵というコトなんでしょう。
それに続いて「素材・調理法にこだわった伊勢丹独自のとんかつ専門店です」とある。
これはなかなかに読み解くのが難しい一節で、「独自」という言葉をどう解釈するかがかなり難解。独自をオリジナルと訳してしまうと伊勢丹が作り出した独特なモノということになるけど、とんかつ和幸が作ったブランドだからそれはあたらない。おそらく「伊勢丹の無理難題を聞いて作った伊勢丹のお客様向けコンセプト」」と考えるのが相当でしょう。

確かにお店はゴージャスで、いわゆるとんかつ専門店は一線を隠す高級イメージ。
メニューもご婦人方を意識したボリューム控えめでロースカツとかヒレカツとかそのものズバリの商品よりも、ヒレとエビの盛り合わせとか、季節の野菜カツプレートだとかの少量多品種の料理が目立つ。

注文するとテーブルの上に次々器が運ばれてくる。ゆず大根に昆布の佃煮、大根の醤油漬けに高菜の漬物。千切りキャベツが入った器にたっぷりの大根おろしを搾ってまんまるのボール状にしたものだとか。
ソースに醤油、ポン酢にドレッシングと調味料も多彩で、それに塩、芥子。なにをどのように使って食べればいいのか迷ってしまうほど食卓の上はにぎやか。これが「伊勢丹独自」のひとつというコトなんでしょう。

何が一番人気があるの?って聞いてみた。
エビとヒレカツの盛り合わせがダントツで、次にエビと巻きかつ。どちらにしてもエビフライが食べられるのが人気ですね…、と。
エビがもしも食べられないとしたら何がおススメ?…ってへそ曲がり的な質問をした。
そしたら即答。
ヒレカツとチーズメンチカツの盛り合わせなどいかがでしょうか?と。それにしてみる。

細かくもなく、大きくもないパン粉がぎっしり。花を咲かせるわけでなく、たしかに和幸的に揚げられたカツ。可もなく不可もなくではあるけれど、揚げ立て感、できたて感は見事なモノ。メンチカツの間からトロリと溶け出すチーズがこれまた食欲誘う。

そう言えばこのメンチカツのやわらかなとこ。歯が弱くなるシニア層にはさぞかしおいしく感じるだろう。ロースじゃなくてヒレが人気というのもやっぱり歯切れのやさしさと口溶けの良さ。それに脂が程よいところなんだろうなぁ…、って思ったりもする。

千切りキャベツにゆずドレッシング。極細で空気をたっぷり含んでふんわりしてて口の中でシャキシャキ歯ざわりなんともたのしい。しじみのお汁か豚汁が選べて豚汁。野菜たっぷりでお腹が満ちる。お店の中はおばさま、それからインバウンドの人たちばかりで、これも伊勢丹的だなぁと思ったりした。お勉強。

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