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酒井商会が「器(うつわ)選び」で大切にしていること

酒井です。酒井商会では、料理やお酒はもちろん、器などの食器、お店の内装や外装に至るまで、全てに意図をもってお店づくりをしています。noteを通じて、酒井商会で働くみんなに私の考えを伝えたいと思っていますが、今回は「器」について書いてみます。

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料理人としてセンスが問われる器選び

私は料理を考案する際、器についてよく考えます。

料理人としてクリエイティビティを磨くことが大切と常々思っていますが、器選びもそのひとつです。どんな器や作家さんのものを使用しているかで、そのお店のセンスが表現されると感じます。

私は器のギャラリーや個展に足を運ぶことがしばしばあります。また、地方に行く理由のひとつも、器をはじめ様々な工芸の作家さんやプロダクトデザインを産み出している方にお会いするためです。

小難しいことはさておき、純粋にいいモノに触れることが好きなんだと思います。そこから料理や経営のインスピレーションを得ることも多いです。

私が器の世界に魅せられた最初のきっかけは、『並木橋なかむら』時代に出会った『Pond Gallery』というギャラリーでした。現在は銀座に移転しましたが、もともとは祐天寺にあり、通勤する道の途中にあったこともあり、よく通っていました。

ギャラリーに通う以前は、仕事柄、器について勉強していましたが、深く興味をもっていたわけではありませんでした。Pond Galleryについて興味をもったのも、私の知り合いがギャラリーのオーナーとたまたま知り合いだったからです。

ただ、Pond Galleryの方から器について教えてもらい、様々な器に接するなかで、器の世界の奥深さにのめり込んでいきました。

最初に面白さを感じたのは、窯元や器の作家さんによって個性があることです。それまでは、伊万里焼・有田焼・九谷焼などの「産地」を意識することはありましたが、窯元や作家さん個人の「名前」を意識して、器に接してはいませんでした。

Pond Galleryでは店主の池田さんがご自身のセンスでお付き合いしている作家さんのみを展示し、作家さんの個展も頻繁に開催しています。様々な器に接するなかで、「この作家さんの器は、どれも自分の感性に訴えかけるものがある」と、強く惹かれる作家さんと出会うようになりました。

そして、食材やお酒の生産者の方に実際に会ってみたいと思う気持ちと同様に、器の作家さんたちにも実際に会ってみたいと思うようになりました。


開業当初からお世話になっている作家の方々

酒井商会では、オープン前から、親しくさせていただいている器の作家さんがいます。

そのひとりが、九谷焼の『上出長右衛門窯』で六代目当主をしている上出惠悟さんです。

上出さんは窯の製品の企画やディレクションを行う一方で、パリやコペンハーゲンで個展を開くなど、作家としても精力的に活動をされています。九谷焼の伝統を守りつつも、現代の感覚を活かした発想で、金沢21世紀美術館に収蔵された髑髏のお菓子壷を始め、ユニークな作品を数多く手がけていることで知られています。

友人の紹介で上出さんを知ったのですが、初めて足を運んだ個展では、九谷焼でつくられた「甘蕉(バナナ)」が並んでいました。本物のバナナのような質感が陶磁器で表現されていることに驚きましたが、九谷焼でバナナという発想の斬新さに衝撃を受けました。

上出さんをもっと知りたいと思い、石川県能美市にある窯に足を運んだりするうちに、親しくさせていただくようになりました。そして、酒井商会がオープンする時には、一部の器を上出さんの窯で作陶いただきました。

酒井商会では、周年を迎える度に常連のお客様に記念品をお渡しさせていただいているのですが、この記念品も上出さんに毎年デザインしていただいています。

(▲)上出惠悟さんに監修いただいている記念品

世田谷にて『陶芸工房 四季火土』という窯を開いている矢野孝徳さんも、独立する前から親しくさせていただいている作家さんです。私は「矢野先生」と呼ばせてもらっているのですが、先生の手がける器は多くの名店で使用されています。

先生の窯には、先生が過去につくってきた様々な器があり、大きさや厚みや質感がちょっとずつ違います。それらの器に触りながら、「この質感で、この形で、これより少し小さめで」といった風なやり取りをし、オーダーメイドで依頼をさせていただくことができます。

矢野先生にも、酒井商会がオープンする際に多くの器を作陶いただきました。酒井商会の定番メニューである土鍋ご飯で使用する土鍋も、矢野先生に手がけていただいたものです。

土鍋のサイズ、口径の大きさ、深さについては、1cm単位で何度も調整し、試作を重ねました。見た目にもこだわり、つやのないマットな質感は、土鍋で炊いたお米のつや感をよりいっそう引き立たせ、視覚からも炊き上がりの美味しさが感じられます。他の土鍋とは一線を画すこだわりの逸品だと感じます。

(▲)矢野孝徳さんに作陶いただいた土鍋

また、作家さんではありませんが、大正時代に作られた輪島塗の漆器など、江戸期から昭和期の様々な器を扱う『きりゅう』という金沢にある古道具店さんにも、開店前からお世話になっています。

店主である桐生洋子さんの器選びのセンスが素晴らしくて、金沢に訪れる度に『きりゅう』に足を運ぶようになり、親しくさせていただくようになりました。現在では、お店にお邪魔させていただくと、そのまま桐生さんと飲みに行くこともしばしばです。

そうした縁もあり、酒井商会がオープンする際には、年代物の輪島塗の漆器などを大量に用意していただいたりと、酒井商会の器選びを助けていただいています。

(▲)酒井商会で使用している『きりゅう』の漆器


『雨晴』さんが結んでくれた縁

酒井商会の器選びに欠かせない存在として、白金台のプラチナ通りにある『雨晴(あまはれ)』というギャラリーにも大変お世話になっています。

お世話になる以前より、たまに覗いたりするギャラリーだったのですが、ある時、主人である金子憲一さんが酒井商会にお越しくださりました。そして、器についてのお話を色々させて頂きました。

後日、ご連絡を頂き、「今度、岡さつきさんの個展を行いますが、岡さんの在廊日に料理とお酒を振る舞うイベントを開催したく、酒井商会さんで料理をお願いできませんか」と相談をいただきました。

岡さんは「ゴッドハンド」と呼ばれる岡晋吾さんの奥様でありながら、ご自身も女性らしいセンスで非常に人気の作家さんです。おふたりは唐津の『天平窯』という窯を営まわれていて、料理界の超一流と呼ばれるような名店からも絶大な支持を集めている窯元です。荷が重い大役だと思いつつも、すぐにお受けさせて頂きました。

2019年の夏のことで、イベント当日は、岡さんのうつわに料理を盛り付けさせていただき、ワイン担当の城戸が選んだ自然派ワインを振る舞わせていただきました。そのイベントがきっかけで、岡さんご夫妻とも親しくさせていただき、東京で個展がある際には、酒井商会や創和堂によくいらっしゃって頂いています。

実は、創和堂をオープンする際、『天平窯』で60点ほど作陶いただきました。『天平窯』にこの量の器を引き受けていただくことはかなり奇跡的なことです。創和堂にお越しいただいたお客様から「なんで、岡さんの器がこんなにあるの?」と驚きの声をいただくことがよくあります。

(▲)創和堂で使用している天平窯の器

こうした作家さんとの縁を繋いでくださっているのが『雨晴』です。

岡さんの他にも、田中信彦さんも雨晴さんのおかげで知り合うことのできた作家さんです。田中さんの器はどれも優しく温かみがあり、湯呑みや酒器なども作陶頂いてます。

(▲)田中信彦さんに作陶いただいた酒器


器選びにおいて大切なのは「人」

料理と器は切っても切れない関係とよく言われますが、器の作家さんやギャラリーの方々とこうした関係を築かせていただいているのは、料理人として本当に幸運だと思います。

お店にある器に触れると、その器の先にいる人たちの顔が自然と思い浮かびます。酒井商会で自分たちの器が使われていてよかった。そう思っていただけるような振る舞いをしなくてはと身が引き締まります。

だからこそ、酒井商会で働くメンバーには自分が直感的に「良い」と感じた作家さんやギャラリーと出会ったなら、その関係を大切にしてほしいです。

このギャラリーに展示されている器が自分好みだと感じたら、そのギャラリーに何度も足を運んでみたり。この作家さんの器に惹かれると感じたら、その作家さんの個展や窯元に何度も行ってみたり。

そんな風に関係を築いていくなかで、作家さんたちがどんな想いで作陶をされているのかを知ったり、ギャラリーの方々がどういう視点で器選びをしているのかを知り、自分の器を見る目も磨かれていくはずです。

酒井商会のスタッフたちも、岡さんや田中さんの個展がある度に、個人的に足を運んでいるようです。その中で毎回一点ずつでも購入して自宅で使っているという話や、今回こんな器を買わせて頂いた。なんて話を聞くと、とても嬉しいものです。

食材やお酒と同じで、器も「人」がつくるものです。表面的な質感や形だけでなく、どんな人たちが、どんな想いで手がけているものなのか。そこに目を向けることが、器選びにおいて大切だと私は感じます。

<編集協力:井手桂司>

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