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[Q&A]ネパール特許調査で気をつけると良い点、何かありますか?+ おまけ「ネパールとヤマハ」

こんにちは! 酒井といいます。この記事は「ネパール特許」を入り口に「新興国・調べた事のない国でのFTO/侵害予防調査は『そもそも、調査する意味があるのかな?』という点から検討を始めるといいのでは?」という話を書きます。

なぜ「ネパール特許」?~国選択の基礎

なぜ急に「ネパール特許」か?というと、先日開催されたRWS Special Seminar海外特許のFTO/侵害予防調査」の質疑応答で

ネパールの特許調査で気を付けた方がよろしい点がございましたら教えて頂けないでしょうか。

というご質問を頂いたのです😄

まず、FTO/侵害予防調査の対象国といえば

・現在の市場国
・自社の生産国/生産予定国
・将来的に予想される市場国

などを優先的に選択するケースが多いと思われます。

きっと、いずれかの条件に合致して「ネパール、どうしようかな・・・」という状況なのかもですね。

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さて調査・検索の話題だと「ネパール!!!さて、どうやって調べる!?データベースあるの?英語で検索できる?収録率は!?!?!」と、前のめりというか・・・なんだかもう、調べるのは決定、みたいな空気を感じる時があるのですが(個人的感想です😅)

新興国、特に一度も調べた事がない場合は「その国、調べる価値はあるのかな?」を検討しても良いんじゃないかな?と思いました。

1)審査の所要期間は?権利行使はできる?

下記記事は「ネパールのにせもの商標」の話。投稿は2019年です。

ネパールで意匠権及び商標権の取得を試みても、職員が5人しかいない特許庁の審査遅延により権利化が進まないそうです。裁判に訴えることはできますが、審査に時間がかかるため、ほとんどの場合、黙認あるいは泣き寝入りだそうです。

と紹介されていて「あぁ、いかにもありそうな話だな」と思いました。

上記記事のように、新興国では特許出願件数も少なく・審査官の人数も限られていて、結果的に「特許審査が慢性的に遅延している」というケースがみられます。

たとえば「権利期間は出願から20年」なのだけれど、特許査定になるのが平均17年目だとすると、権利行使ができる期間は3年間、と、かなり短くなってしまいます。

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同様に「裁判に訴えることはできるが、ほとんどの場合黙認あるいは泣き寝入り」が普通だとすると、実質的に権利行使は難しそうですよね。

また「ほとんど黙認・泣き寝入り」が現状だとしても
その国が「市場としても大きく」「模倣品の製造拠点も点在しており、何とか製造を阻止したい」ような場合、FTO調査よりは「模倣品対策」が優先されるかもしれません。

下記は約20年前の経産省資料です。「知的財産保護制度はあるものの、地方においては実際の制度の施行ができていない」「審査遅延問題が顕在化」などの記述もみられます。

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スライド画像出所:模倣品対策の現状と課題 (2002年・経済産業省)

ですが
市場としてさほど大きくない新興国の場合、
「現状、審査遅延も大きく権利行使も難しいのならば、調査の優先順位は低い」と判断するケースも多いのではないか、と思われます。

2)「検索」することはできる?

「それでも新興国を含めて調査をする」と決めた場合は、

・当該国の特許情報にアクセスできるか?
・情報は揃っているか
  → 権利期間内の情報を調べることができるか?
  → 収録率はどうか?大幅な欠落はないか?
  → 直近の情報が更新されているか?

・・・を確認したいところです。
データベースが存在していても「古い情報がちょっぴり入っているだけで、更新が止まっています」だったら、あまり意味がないですよね?

また、国の選択については
「ネパールだけ調査」というケースは稀で、「主要国を含む、世界中の市場国/生産国」のような選択をする事が多いかと思います。このような場合、最初はパテントファミリー単位で調査を行った方が効率がよいです。

ということで

1)契約中の海外特許データベースに対象国は収録されているか?収録年代やカバー率はどうか?
2)Espacenet や PATENTSCOPE で 調査は可能か?
3)当該国の特許庁で調べることは可能か?

の順で検討すると良いかと思います。

ちなみにネパールは
Espacenet、PATENTSCOPE非収録。
ネパール特許庁には検索サービスなし。
です。

▼新興国の「知財情報の調べ方」はここ。いろいろ載ってます。

▼ネパール特許庁 (ネパール産業省内)

3)「検索できない」が「調査したい」場合

上記のように、ネパール特許って「商用データベースでも、本国の特許庁でも調べられない」ようなのです。(2021/06時点)

このような場合「現地代理人/現地調査会社に、特許庁に出向いて調査してもらう」方法が一般的と思われます。

ここは、国ごとに事情が違う可能性があります。
代理人でないと 公報ファイルが閲覧できないかもしれないし、
特別な資格がなくても、ファイル閲覧は可能かもしれないです。

ただ・・・新興国の場合「特許庁にファイルを見に行ってもらった」という話自体、耳にする機会が少なくて、稀に話を聞くと「代理人に行ってもらった」という話がほとんどです。新興国だと、調査会社自体が存在しないのかもしれないですね。

また「当該国の代理人に心当たりがない」場合。
知り合いに聞いて回るのもひとつの方法ですが、
どうにも見つからない場合は、その国の特許庁に問い合わせてみるのも手です。国によっては代理人リストを提供して貰えたりします。


おまけ:ネパールとヤマハ

番外編「ネパールで、ヤマハの商標が色々と出願されていた」お話です。
ヤマハって「バイク」と「楽器」がありますよね。
どちらのヤマハなのか、よかったら予想してみてください^^

今回の記事を書くにあたり「ネパール特許庁、本当に特許のデータベースないのかな?」と、サイト内を探し回りました。その副産物で・・・ドン!

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YAMAHAの商標がたくさん掲載された「ガゼット」が出てきました。

※ガゼットは下記URLにあります。
https://doind.gov.np/industrial-property-bulletin

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本記事の前半で「ネパールのにせもの商標」という記事から

ネパールで意匠権及び商標権の取得を試みても、職員が5人しかいない特許庁の審査遅延により権利化が進まないそうです。裁判に訴えることはできますが、審査に時間がかかるため、ほとんどの場合、黙認あるいは泣き寝入りだそうです。

というエピソードを引用しましたが、

ヤマハの商標出願、どんな商品/サービスを指定しているか?というと・・・まずニース分類の第1類(化学)・第2類(筆記用具や染料、インク等)。

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次は第3類。石鹸や洗剤・・・ってあれ?

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ヤマハって「発動機」か「楽器」のイメージなのですが、
どちらが出願しているのでしょう?

記載された住所は
16-1 NAKAZANIA-CHO, HAMAMATSU-SHI, SHIIGUOKA-KEN で

ヤマハ発動機の本社は「静岡県磐田市新貝2500」
ヤマハ株式会社の本社所在地は「静岡県浜松市中区中沢町10番1号」

ガゼットの住所記載に色々誤記があるような・・・気がしますが😅
  10番1号 →  16-1
  NAKAZAWA-CHO →  NAKAZANIA-CHO
と解読すると、ヤマハ株式会社の出願のようです。

出願分野に戻ります。少し飛ばして・・・第5類

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第10類

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15・・・

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20・・・

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少し飛ばして 第30類

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40!

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第45類。

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ニース分類は
商品(第1類から第34類)、サービス(第35類から第45類)の構成なので、
「全部通しで出願されてるー!」と、ちょっと感動しました✨

しつこいようですが(3度目すみません)

ネパールで意匠権及び商標権の取得を試みても、職員が5人しかいない特許庁の審査遅延により権利化が進まないそうです。裁判に訴えることはできますが、審査に時間がかかるため、ほとんどの場合、黙認あるいは泣き寝入りだそうです。

・・・って言われてるのに・・・。なのに全類通し。すごい。

どのような戦略で出願されているのか、
詳しく知る事はできません。
が、

私、最初にネパールのガゼットで YAMAHA の文字を見た時

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「あ!きっと発動機!」って思ったのです。
ヤマハのバイク、きっと東南アジアでも大人気だから、
 ・Tシャツとか
 ・お店の看板とか
 ・お菓子とか
 ・文房具とか
何にでもYAMAHAって書かれちゃうんだろうなー? と。

なので「浜松市・・・?楽器のほう?」って気付いた瞬間は
ちょっぴり意外だったのですが。

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ネットにこちらの記事がありました。

ブランド価値を維持し、そして、今以上に輝かせるためには、ブランド価値を毀損する模倣品に対して毅然とした態度で臨んでいくことが最終的にお客様の利益につながる、という思いで取り組んでいます。最近では、アフリカでの模倣品対策にも取り組み始めています。

ネパールでの商標出願も、海外での模倣品対策やブランド価値維持活動の一環かもしれませんね。法整備や運用が確立していない国での活動、手探りの部分も多く、かなり大変そうです。(前職で「当局の担当者と、インクカートリッジの模倣品工場に摘発に行ったら、摘発を察知されていたらしく夜逃げされた後だった」的な話、いろいろ聞いた事を思い出します😅)

とはいえ
これから、新興国の特許庁もデータ整備が進んで
「全然情報がない国」って、だんだん少なくなるのだろうな、と。
ネパールの商標データを眺めて、ちょっと感慨深かったです。

それではまた😄

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