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Modular Note #2

前回はTrigger Riot(以下TR)の説明とキック音源についてのお話で終えていたかと思いますが、今回はもうひとつのシーケンサーであるSteppyと、TRでシーケンスを作った後の流れについて書いていきたいと思います。
今回もまた極めて私的なシステムの説明になりますのでご了承下さい。


・前回の補足

その前に補足としてTRの多数あるGate Outの割り振りについて説明をしておきたいと思います。「またTRの話かよ・・・」と思われる方もいらっしゃるとは思いますが、何卒ご了承ください。
TRは「Independent Mode」と「Matrix Mode」という2つの入力モードがあり、前者は列ごとに独立してパターンを組めるモードで、8列全て任意のパターンを組むことができます。後者は縦と横の列が相関関係にあり、例えば縦の列Aの3番目のDIVIDEの数値を4にしたら、横の列3番目の出力にも同じ数値が反映されるというモードになります。前者のモードでパラメーターを変更するには、一度その列のMuteボタンを長押ししなければいけないので(後者にはその制約がない)、即興性が高いのは後者だと思いますが、僕の場合、TRで制御したいパートの数が多いということもあり、前者のIndependent Modeを使っています。

各Gate Outの割り振りは以下の通りです。
<縦列>A=キック/ベース、B=スネア、C=ハイハット/パーカッション、D=リード系
<横列>①=エフェクト1(Rainmaker)のON/OFF、②=エフェクト2(Mojave)のON/OFF、③=SE系、④=パッド系


<Clock/Gate Source>

図があったほうが分かりやすいと思いますので、前回掲載したメインシステムの画像を再掲します。基本的に信号は左から右に流れていきますので、TRの隣からTwiigs、Switch 4、Route 4までお話ができたらと思っています。

<Main Case>

・Steppy

名前が可愛らしいintellijelの4トラック・ゲートシーケンサーです。
TRでまかないきれないパートのシーケンスや、エンベロープジェネレーター(以下EG)のトリガーソースとして使用しています。シンプルで分かりやすいインターフェイスを備えながらも多機能な設計になっており、見かけによらずかなり使えるシーケンサーです。
また、TRはステップシーケンサーのようにシーケンスの現在位置がわからないことから、それを把握するために利用しています。これによりTRのパターンが切り替わるタイミングや、Twiigsで展開を付けたり、手動でエフェクトをかける時のタイミングが掴みやすくなります。
僕は1Uタイプのものを使用していますが、このクラスのシーケンサーが1Uで使えるのはintellijelのケースを使っていることの大きな利点だと感じています。

・Twiigs

TRで作ったシーケンスは、Michigan Synth WorksのTwiigsというモジュールに入ります。これは今はなきMutable InstrumentsのBranchesのクローンで、入ってきたトリガー/ゲート信号をAかBどちらかの出力に確率的に振り分けるという機能を持った、「ベルヌイゲート」という聞き慣れない種類のモジュールです。
無数にあるモジュラーの中でもこの機能を持ったモジュールは非常に少ないです。
本家は2chでノブ操作で確率を調整するものが、クローンでは4chに拡張されており、スライダー操作に替わっています。信仰的な理由からMutableのクローンの使用は長年タブーとしてきましたが、システムを完成させるためには、なりふりかまっていられないので今回に限り解禁です。きっとエミリーさんも許してくれるはず。

Twiigsはスライダーの上げ下げでA/Bの確率を決めるのですが、少しややこしいのが、出力ジャックの位置がAが上でBが下になっているのにも関わらず、スライダーを上げるとBに、下げるとAに出力されるという、体感的には「え、これ逆じゃない?」という仕様になっている点です。
とりあえずそれは慣れるしかないとして、これを使ってTRからのキックのシーケンスをDFAMとDPOに振り分けています。通常はCh1のINにパッチングされたゲート信号をA/Bそれぞれの出力からDFAMとDPOにパッチングすれば良いのですが、それだと常にどちらかにゲート信号が流れることになり、曲の展開によってキックの音を少なくしたり、個別にMuteすることができないという欠点があります。
そこで、Ch1のBの出力をDFAMにパッチングして、Aの出力はとなりのCh2のINにパッチング、Ch2のBの出力をDPOにパッチングしています。
少し分かりにくいかも知れませんが、これで例えばCh1のスライダーを全下げしてDFAMの音をMuteしつつ、Ch2のスライダーを少し上げてDPOのキックをちょっとだけ出すというような使い方ができます(その逆も可)。2つとも下げるとMute、つまりキックの抜き差しができます。
こういう風にフェーダーの操作だけで1つのパターンに色んな変化を付けられるのが、「ベルヌイゲートモジュール」=Twiigsの面白さです。
そもそもどうして振り分けているかというと、キックの音色にバリエーションを持たせるためというのもありますが、DFAMはベースの音も兼ねているので、ゲートのタイミングが重なると両者がぶつかってしまい、低域が飽和してしまうからです。それを回避し、なるべくタイトな低域を保持するためにTwiigsを導入しています。
また、TRはシーケンスパターンのプリセットが16個しかありません。1曲の展開が多いとすぐに底をつくし、そのデータを外部に移す機能などはありません。
パラメーターをリアルタイムに変更することで、パターンを変えていくという方法もありますが、リズムが破綻してしまうリスクがます。
ライブ中は他のパートにも注力しなければいけないので、あまりリスキーなことはしたくはありません。
Twiigsを導入することで、そういったリスクを回避しつつ、1つか2つの少ないパターンから無数のバリエーションを生み出すことができ、TRの弱点でもあるプリセットの少なさを克服できるというのが、最大のメリットだと感じています。
しかもそれが、スライダーを上げ下げするだけという簡単な操作でできるので、即興演奏のスタイルにも向いていると思います。
というわけで、キック/ベース以外のパートのシーケンスも、全てではありませんが、Twiigsを経由するようにパッチングしており、そのため1台ではまかないきれずに2台体制を敷いております。
ただこの手法はTRの複雑なゲートシーケンスがあってはじめて活きてくることなのかもしれません。定型的なリズムだといくらTwiigsを使っても、そこまで面白くはならないような気がします。
また、これを使えば最初にシーケンサーの候補として挙げていたRene2のGate Outが少ないという弱点も克服されるのではと考えていて、いつか試してみたいなと興味が湧いています。


<Joranalogue>

ここから先はJoranalogueのモジュールが続きます。ここのメーカーとの出会いはモジュラーをはじめて間もない頃にスイッチモジュールを探していて、トグルスイッチが直感的に使えそうだし、ロータリーエンコーダーのセクションではルーターになるのが面白そうだなという理由でSwitch 4(以下SW4)を買ったのが最初だったと思います。
それ以来ずっと愛用しているモジュールなのですが、他にも機能的には一見地味ながら、パッチングのアイデアを広げてくれるような興味深いモジュールを多数リリースしているおすすめのメーカーです。
ちなみに筆者の自邸にて、Joranalogueを愛用する有志たちが集い、モジュールの使い方を深掘りする「Joranalogue研究会」なるものを不定期で開催しています。
モジュールを触っているよりも、ピザを食べたり美味しいコーヒーを飲みながらシンセ談義している時間の方が長いのではないかという噂があります。


・Switch 4

今回のシステムでは、TRからのDFAMのシーケンスをSW4のシグナルInのAに入れて、そのOutをStep8のトリガーInに、そのOutからDFAMのClock Inにパッチしています。Step8の役割については書き出すとさらに話しが長くなってしまうので詳細はまた次回にしたいと思いますが、簡潔に言えばDFAMの動きとそのVCFをモジュレーションさせるCVを連動させるために使っています。
SW4はA〜Dまで4つの入力がありますが、Aにパッチしてそれより下に何も入力がないとB〜DまでAの信号が入る仕様になっています。
つまり1:4のシグナル・ルーターとしても使えるので、DFAMのシーケンスをその他のパートのシーケンスにも応用できます。

SW4のトグルスイッチは上向きでON、入ってきた信号を常時通過させ、真ん中の位置でOFFになるのですが、下に押し続けている時だけ信号を通過させるので、その機能を使ってDFAMに流れているシーケンスを他の音源に対しても流れるように瞬間的に切り替えることで、DFAMのリズムと密接に連動したフレーズを即興的かつ直感的に作ることができます。
自分でも言葉では上手く説明するのが難しいので、非常に騒がしくて恐縮ですが、以下の動画を参考にして頂けますと幸いです。

かすかに見える左手でSW4を操作しており、右手はMake NoiseのPressure PointsでいくつかのエフェクトのDry/Wetを調整しています。
確かこの時はSW4の出力AがDFAMで、BとCはDPOとAkemie's Taikoを発音させるためのADエンベロープのトリガーに使っていたと思います。
かなり人力感のある演奏ではありますが、手動で信号の流れを切り替えるといっても、DFAMのシーケンスをベースにしているので、全体的なリズムから外れることがなく、エフェクト操作と相まって面白いグルーヴになるので、これはこれで使えるパッチングかなと思っています。

・Route 4

Route 4(以下RT4)は、分かりやすく言えばSW4の機能をゲート信号で制御できるようにしたモジュールなのですが、基本的には上のセクションが4:1、下のセクションが1:4のシグナル・ルーターになっています。通常のルーターと少し違うのは信号を加算して出力できる点で、例えば下のセクションだと別々の行き先に4つ同時に同じ信号を出力することができます。また、上下のセクションは内部結線されているので、上のセクションで選択した信号を下のセクションで出力することができます。上記の機能を利用して、上のセクションで別々のシーケンスを入力、それをTRのゲートシーケンスかSW4のトグルスイッチを使って任意のソースを選択して下のセクションに送り、これもTRかSW4で選択したパートに送信する、という変に混み入った使い方をイメージしています。
例えばキックのシーケンスで動いていたDFAMを、瞬時にハイハットやリードと同じシーケンスで動かしたりというような使い方です。異なるシーケンスのパターンをコラージュして、全く違うパターンを作るというのが面白そうだなと思っています。ただ、今回のシステムでそれを利用するには、パッチングがさらに煩雑になることや、トリガー/ゲートソース不足、SW4の追加購入などの諸問題を抱えているため、未だ実行には移せてはいません。
いずれにせよ、Route 4はクリエイティブなパッチングには不可欠なモジュールだと感じているのは確かなので、これからも試行錯誤しながら自分のシステムでの最適解を探っていきたいと思っています。


<次回予告>

今回またしても、非常に限られた人しか参考にならないことばかりを長々と書いてきましたが、次回はJoranalogueのStep8とMake NoiseのMathsの使い方について書いていきたいと思っています。これはほぼDFAMのために存在するモジュールになりますので、その辺の音作りについても少しお話しができたらと思っています。
DFAMは持っている方もそれなりにいらっしゃると思うので、次回こそは何かしらの貢献ができるかなと思っています。
それでは、今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。


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