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起業することで支払う最大の対価は「時間」じゃないかという話

「スタートアップ」はポジティブな文脈で語られることが多い。

確かに得るものは多い。
チャレンジする機会。その機会を通して得られる経験、人とのつながり、周囲からの評価。結果として大きな収益をあげられる可能性も宝くじよりはるかに大きいし、規模の大きなビジネスは多くの人に機会や経験や対価を還流できる。

反面で、金銭的なリスクは実は周りが心配するほど大きくはない。
第三者割当で1億円集めようが100億円集めようが、事業がうまくいかずに会社が倒産したとしても返済する義務はない。
少なくない起業家が個人保証で借入もしているが、「事業がうまくいくかどうか分からない」くらいのフェーズだと信用とのトレードオフで1,000-3,000万円程度がほとんどだろう。
起業家はもともと「仕事ができる人」が多いので、サラリーマンやフリーランスとして数年頑張ればまぁ無理なく返せる。

スタートアップにかかるのは、時間

会社を設立してから上場するまでの平均期間は19年。
スタートアップでも有数のfreeeは7年、Sansanは13年かかっている。そしてこの上場は当然ながらゴールではない。パブリックな会社の代表として、より大きな責任を負うことになる。

25歳で起業したとして、10年かけて上場すると35歳になっている。体力があり、インプットにもアウトプットにも遊びにも若者として熱中できる20代の後半と30代の前半が気づけば吹き飛んでいるような状態となる。

もちろん勉強ばかりしていても、遊んでばかりいても、仕事ばかりしていても時間は吹き飛んでいく。
ポイントは「起業する」という意思決定が、時間的投資において何を意味するのかを理解しておくことだろう。

全然うまくいかなくて1年で倒産するケースもあれば、何か一点でブレイクスルーして設立2年で大企業に売却して数十億を手にするケースもある。
一方でそうではないケースも少なくない。

僕は27歳で会社を立ち上げて、現在8年目の折り返し地点にいる。
もうすぐで35になる。我ながらそのことがうまく飲み込めない。
良いも悪いもひっくるめて、かけがえのない経験を山のように積ませてもらっている。
その7年半を別のことに使っていれば、まったく質の異なる、かけがえのない経験を振り返れたろうとも思う。

起業したら家族との時間が取れなくなるとか、遊ぶ時間もなくなるとか、そんな話ではない。細切れの時間は意思があれば作れる。問題は細切れの時間ではできないことがこの世の中にはたくさんあるということだ。

1986 - 2021

大学のときに同級生だった堤真矢の自主制作映画『もうひとつのことば』が、Las Vegas Asian Film Awardsというアメリカの映画祭で「Best Feature Film(最優秀長編映画賞)」にノミネートされている。

研究室が同じだった山元隼一は数え切れないくらいのアニメーション作品をアニメ作家・アニメ監督として手掛けている。「東京都の選出するアニメクリエイター8組」に選ばれたり、学生の頃から作品が上海万博で上映されたりと活躍し続けている。

数え上げればキリがないほど、同世代が僕とは違う方法で功績をあげている。
僕がそちらの道を取っていればどうなっていたかは分からない。うまくいっていなかった可能性の方が高いだろうと思う。
それ以前に「その道を選べなかった」のが実情で、可能性の話をする権利さえ薄いと思っている。

「私はアーティストだから」というようなことを言う起業家のほとんどは間違っている。アーティストや作家のことを真剣に考えるほど、そんな言葉は気安く口にできないはずだ。
僕はあくまでも起業家をまっとうしようと思っている。そして同世代のみんなとは、それぞれが登った山の異なる景色の話をしたいと考えている。

起業という選択肢を考えている人は、自分が何を選んで何を捨てようとしているのか。10年、20年その状態が続いて良いのか。一度立ち止まって考えてみてほしい。

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