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Generative AIがファッション領域のデザインに役立つのか、デザイナーが実際に手を動かしてみた

巷を騒がせているGenerative AI。
話題も一巡して、そのすごさと現時点の限界、両面が垣間見えてきたところではないかと思う。

この記事では筆者が「ファッションテックの事業を展開している株式会社ニューロープの代表」でもあり「グラフィックデザイナー」でもある立場から、Generative AIがファッションのデザイン工程でどう活かしうるのかを考える。

Generative AIのデザインコンテスト

2023年4月20-21日にAI FASHION WEEKがニューヨークで開催される予定で、VOGUEにも取り上げられている。「どこがWEEKなんだ」という苦情は本家にお願いしたい。

また日本でもオムニス社が、4月1-30日にかけてAI Fashion Challengeと銘打ったコンテストを開催している。

クリエイター(AIの上手な使い手)を発掘して、話題を作りながら事業化していくことがその要旨かと思う。

実際にどういったデザインがAIで生成されているのかは、 #aifashionchallenge というハッシュタグでTwitterを検索してみてほしい。

デザイナーのアシスタントとして振る舞う

筆者もデザイナーの端くれで、柄シャツブランドを運営したり、クライアントワークでグラフィックデザインを請け負ったりしている。
画像生成も上述のコンテストも気になる存在だったので、実際に自分で手を動かしてエントリーしてみた。

MidjourneyやStable Diffusionに対して、例えば「葛飾北斎がデザインしたアヴァンギャルドな着物を来たモデルが暗いバーで座っている」というようなPromptを与えてアウトプットを得ている。

このとき、「葛飾北斎がビッグシルエットな着物をデザインしたら」「魚の骨を使ってドレスを制作したら」というような、自分で手を動かすとそこそこ時間のかかる「発想の具体化」をAIにしてもらうことで、アイデアを練っていく工程にアシスタントを得たような感覚を得た。

正直めちゃくちゃ面白い。

つい先日マッシュ社がアルフォンス・ミュシャにインスパイアされたブランドを発表したが、こういった企画、コンセプト、掛け合わせ、タイミングは人間が発想する必要があるものの、仮にそのビジュアライズにAIを活用したところで、人間のクリエイティビティは毀損されないものと思う。
デザインは「企画」と「ビジュアライズ」の工程に分けることができて、クリエイティビティは主に前者に宿るからだ。後者はクラフトに依存する側面がある。

「創作」が「既存の何かと何かを掛け合わせる編集作業」だとすると、その編集作業をアシストする上で、ツールとして十分使えるのではないかと思う。

ディレクターやMDとデザイナーのコミュニケーションを取り持つ

デザイナーとして直面したくないシチュエーションがある。
それは時間をかけて制作したものが「なんか違う」「もっとクールな感じにしてほしい」というとても曖昧なフィードバックのもと、ディレクターに一蹴されてしまうことだ。
ディレクター側に明確なイメージがないと、何度提案しても平行線を辿り続ける地獄を見たことが何度かある。

こういった事態を招かないために事前にすり合わせをしっかりしたり、そもそもヤバいディレクターと関わらないようにしたりと手を打つ。
すり合わせの際には、ディレクターのイメージに近いであろうクリエイションをかき集めてコミュニケーションするのが手っ取り早い一方で、このアプローチだと「デザインの剽窃」の域を出にくいという大きすぎるデメリットがある。イメージをかき集める作業も実はかなり時間がかかる。

AIによる画像生成は、この問題解決の一助になりうる。前述の通り「発想の具体化」にかける時間を減らせるので、具体的なビジュアルに基づいてコミュニケーションができるからだ。
「実在する既存のデザイン」とも距離を置きやすくなる。

Generated by Midjourney

Generative AIの問題点

当然実用上の問題点がないわけではないので、言及しておく。

Generative AIの手グセ

まず、あらゆるツールには手グセのようなものがある。例えばパワポを使って資料を作ると、どうしてもパワポに用意された機能を前提にページのデザインを進めていくことになるので、アウトプットが似通ってしまうところがある。
アクリル絵の具を使うと良くも悪くもアクリル絵の具で描いた作品の域を出ない。

Generative  AIも同様に、Promptを実行すると、そのAIのクセに引っ張られた結果が出力される。具体性があった方がイメージがつきやすいと思うので、Midjourneyを扱っていて気づいた問題を例示しておく。

  • 「ジェンダーレス」というキーワードを入れるとなぜかモデルが男性になる。

  • 「カンディンスキーがデザインしたドレス」の結果、なぜか鮮やかな色のデザインばかりが出力される。色彩を調整するキーワードを追加して調整は可能なものの、ちょうど良い塩梅に導くのがとても難しい。

  • 「パリの街」と指示を入れても、着物のデザインを出力すると京都っぽい街が背景に出力される。

  • 「ファッションモデル」という指示に対して、出力される際の人種の偏りが強い。

上記問題にはデータの蓄積やアルゴリズムの改変、Promptの追記で解決されるものもあるが、どこまで突き詰めてもパワポやアクリル絵の具と同様に「ツールとしてのクセ」は残る。それは「良さ」の裏返しでもある。

対策としては、スケッチブックへの手描きから始めたり、人とディスカッションしたり、さまざまな手法を持ち合わせた上で、その中の1つと位置付けることかと思う。

Generated by Midjourney

あくまでもアイデアスケッチ

また、出力されたものをそのまま使えるかというと難しい。
現実的な製造コストに抑えるための設計、利用する生地特性を加味したバランス、旬となっている微妙な色やディティールの選定と作り込みなどを考えると、AIで生成されたデザインはあくまでもアイデアスケッチ程度の位置付けで、デザインや仕様書は誰かが作り起こす必要がある。
そういった意味でも「アシスタント」「ツール」の位置付けなのかなと思う。


ニューロープ社としては追い風と捉えていて、そういった特性も踏まえて、すでに提供しているファッショントレンド予測サービスの中でデザイン案の提案まで出力したり、デザインとは離れるもののAIによるアノテーションサービスにディスクリプション生成も付与したりといった、活用を考えています。

今後の事業展開に向けて投資型クラウドファンディングにも取り組んでいます。ファッション業界におけるAIの活用について、良かったら下記もご覧ください!


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