三千世界の私を殺して

海辺を逍遥している時だった。久しぶりに匂いを感じた。日焼け止めと、乾いた塩の香り。それが嬉しくて、十一個目のピアスを外して飲み下した。月のない星空。真っ暗な砂浜。数メートル先にぼんやりと佇む影を見た。K君の幽霊だと思った。月世界に行ってしまったK君を想い、もう少しでコンバースに触れる距離にうち寄せる波に一歩足を踏み入れた。海は海であることを強要されていた。私であろうとしたゆえに味わった苦しみを思い、同情した。海であり続けて幾星霜。今の気分はどう?ぎゅっと胸をつねられた気分だった。全てに意味がないように思えた。生きることは、演じること。何もかも、想像の産物にすぎない。もうこの際、跋扈するまとまりのない私をまとめて断頭台へ送ってしまおうと思った。

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