地方創生 ―人的資源の考え方②―

 

1.はじめに


 今回は、「人口」に注目する。中でも、「交流人口」に注目する。交流人口とは、「ある地域に観光などを目的に訪れる人口のことで」(木下, 2016:166)ある。交流人口に着目するのは、いきなりその地域に住む人口を増やそうと思っても難しく、地域の活性化にはその地域に観光などで訪れる人々に消費してもらう必要があるからである。
 

2.観光産業


 交流人口の話をするとき、真っ先に考えられるのは「観光」である。「地方にとって、観光産業が潜在成長力のある分野であ」り、「可能性に満ちた市場」(木下, 2016:166-167)である。しかし、現在の観光産業は、その地域の歴史文化に依存してしまっているだけで、観光産業自身が成長していない問題がある。そのため、「ホテルや旅館などの宿泊施設や関連サービスは、いまだに「一見さん相手のビジネスモデル」を繰り返しているところが少なく」(木下, 2016:168)ない。すると、観光産業が対象とする顧客がツアーや団体客となり、いかに彼らを自分の達の施設に呼ぶことができるかが焦点となるので、その結果、旅行代理店の手配に依存することになる。個人客を対象とし、「自らの施設やサービスの品質によってリピーターを獲得しようという話には、なかなかな」(木下, 2016:168)らない。 
 これは、観光産業の中の宿泊施設における話であるが、飲食店にも同様の現象が起こる。すなわち、「どこでもこぞって同じような商品を並べ、どこの地域も、パッケージを地元向けに変えただけで中身はほぼ同じの温泉まんじゅうなどが並」び、「大した品質でもないもの」が高値(観光地価格)で売られる(木下, 2016:168)。
 こうした商法は、平成バブル崩壊前の1990年代初頭までは良かった。なぜなら、「団体が観光の主流だった」(木下, 2016:169)からである。しかし、それ以後、個々人が能動的に観光先を決めたり、回る場所や順序を決めるようになった。すると、団体やツアーに依存した商法を行う地域は、個人を対象とした顧客を獲得することはできない。前回話したことではあるが、過去の方法は中々変えられないものである。その結果、「ますます団体旅行や代理店手配の客ばかりに依存する」(木下, 2016:169)ことになる問題が生まれる。
 

3.観光産業変化の阻害要因


 観光産業は、「観光協会、旅館教会など、さまざまな協会が存在し、「横並びのルール」を極めて重要視してい」(木下, 2016:169)る。例えば、営業時間はどの店も同じで、それをどの店も守っている。木下(2016)はこれを踏まえて観光産業を「地縁型産業」「家族型産業」と呼ぶ。地縁型だから、自分だけルールから逸脱するリスクを背負えず、家族型だから、利益に貪欲にならず、つまり新規顧客を狙うなどはせず、一定の利益を維持すればよいという発想になる。特に何もしなくても毎年一定の観光客が訪れる有名観光地ほど、この発想が強い傾向にある。
 

4.今後どうすべきか


 木下(2016)は、特に地方の観光産業においては、観光消費が大切であると考える。なぜなら、地域の活性化には、観光客がその地域に訪れた際に、「宿泊してもらったり、さまざまなカタチで飲み食いしてもらったりしなければ儲か」(木下, 2016:171)らないからである。観光消費を増やすためには、これまでの過去の商法だけはなく、新たに自分たちで事業方法を模索する必要がある。例えば、「これまでの「10万人が1000円使うような観光」を、「1000人が10万円使うような観光」に変えていくことが、小さな地域にとって現実的な、観光産業の高生産化施策になる」(木下, 2016:171)。新潟県南魚沼市の「里山十帖」では、独自の旅館観を確立し、90%以上の客室稼働率でありながら、客単価平均3.5万を超える、
宿泊施設を提供している。
 

5.まとめ


 今回は、交流人口を話の起点として、観光産業の現状と今後どうしていくべきかについて考えた。今後は、地域内の横並び構造で一定の成果を過去のルールに従って維持するのではなく、「やるべき投資を行い、営業方法を変化させ、互いに競争しながら成長していく」(木下, 2016:170)ことが必要である。
 

参考引用文献


木下 斉(2016). 『地方創生大全』東洋経済新報社

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