地方創生 ―何に取り組むか⑥―

1.はじめに


 今回は、地域の活性化のために必要な新規事業の創出について考える。中でも、新規事業創出のために行われている「ビジネスプランコンペティション」に注目する。

2.ビジネスコンペ


 地方が衰退していく時、まずは(衰退の主要因である)縮小している既存事業を立て直す必要がある。また、それに加えて、新たな事業を立ち上げ「稼ぐ仕組み」をつくり、域外からの収入を上げたり、雇用も増やしていこうという意欲的な取り組みを行ったりする必要がある(木下, 2016:64-65)。そのために最近、「ビジネスプランコンペティション」(ビジネスコンペ)を開催する地域が多くみられる。ビジネスコンペとは、地域の活性化のための新規事業のアイディアを考え、どれが優れているかを競うものである。そして、優れていると判断した新規事業を実際に展開していけば、地域の活性化に結びつくという算段である。
 しかし、ビジネスコンペは、農林水産業、工業など様々な分野で行われているものの上手くいかない。その理由として、木下(2016)は、地域における新規事業をつぶす「見えない壁」が多く存在しているからであると述べる。今回はそのうち代表的な3つを取り上げる。

3.見えない壁① ―外部の邪魔―


 見えない壁の一つ目は、地域事業において、事業に直接関係するステイクホルダー(利害関係者)だけでなく、全く関係のない、事業の影響を受けるわけでもない、リスクも負わないような人に「連絡」と「理解」(木下, 2016:66)を求めることである。地域での新規事業では、周囲が新規事業を行う際、その初期段階ではできるだけ事業に時間を割く必要がある(そうでないと成功しない)。しかし、地域では直接関係ない人から様々な邪魔(ダメ出しなど)が入る。この最初の段階を上手くやり過ごさないと、事業はどんどん歪んでいき、遅延していき、挑戦することがないままに潰れてしまうことも多々ある(木下, 2016:66)。

4.見えない壁② ―審査員―


 見えない壁の二つ目は、ビジネスコンペの審査員が自ら新規事業を立ち上げ、成功してたた人々ではないということである。審査員は、衰退している商店街の商店主や融資審査をしている地元金融機関の担当者、自治体の商業政策担当者、地元大学の先生、よくわからないコンサルタントなどが中心である場合が多い(木下, 2016:67)。新規事業を成功させたこともない人が審査するのは、机上の空論に終わってしまうと考えられる。

5.見えない壁③ ―評価―


 見えない壁の三つ目は、ビジネスコンペの評価後にある。まず、評価をされなかった、すなわち落選した人は、その後地域では「あいつはダメな計画を立てたやつ」(木下, 2016:68)というレッテルを貼られてしまう。一方、評価された人も、まだ評価されただけなのに、優勝賞金をもらったり、事業を始める前か多額な補助金を得たりしてしまう。地域の新規事業とは、巨額の要する工場を建設するわけではなく、まずは数十万円程度で試しにやってみることができる類のものが多い(木下, 2016:69)。それにも関わらず、新規事業を始める前から巨額の予算をかけるのには疑問が残る。

6.そもそもビジネスコンペは必要か


 ここまでを踏まえると、下手な審査員による、事業を始める前段階での評価は本当に必要かと思われる。木下(2016)は、本気で事業に挑戦する人は、そもそもビジネスコンペなどには参加せず、実績をあげる事業家と話し、すぐにやり始めるという。重要なのは結果であり、結果が出れば、評価は後からついてくる。ゆえに、地域での新規事業は、初期段階における外部の人の言葉に左右されず、やり過ごし、事業に集中してトライ・アンド・エラーを続けて実績を出すことが必要である。

7.まとめ


 今回は、地域の活性化のために必要な新規事業創出を考え、中でもビジネスコンペに焦点を当てた。様々な問題点を指摘する上で、ビジネスコンペの必要性を検討した。結果的には、新規事業の創出には取り組む前の評価などに時間を使うのではなく、すぐに始め、必要な人と会い、必要なことを集中してやるべきであると考えた。

引用文献


木下 斉(2016). 『地方創生大全』東洋経済新報社

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