日本の未来地図 ―人の移動⑦―

1.はじめに


 今回は、東京圏の内側における人の移動を見ていく。特に、東京圏の内側を概観した後、神奈川県(横浜市、川崎市)、埼玉県、千葉県に注目する。

2.東京圏の内側


 東京圏に日本全国から人が集まっていることはこれまで見てきた。「ただし、東京一極集中といっても、東京圏のすべての市区町村に地方から多くの人口が流れ込んでいるわけではない」(河合, 2019:100-101)。数字でみてみると、「東京圏にある212市区町村のうち転入超過だったのは、政令指定都市や東京23区といった大都市部を中心とする124であり、全体の58.5%に過ぎ」ず、「残りの41.5%にあたる88の市町村では転出超過になっている」(河合, 2019:101)。これは、年齢別にみても同じことが言える。一方で、東京都と隣接する3県(千葉、埼玉、神奈川)を見てみると、東京都から埼玉へ人が移動している。この原因については詳しく述べられていないが、東京都と埼玉県を比較して、東京の地価や家賃の高さや、ある程度間取りの広い物件(特に家族)がないことが原因ではないかと思われる。

3.横浜市


 「さいたま市を除くすべての政令指定都市との間で東京都への転入超過となっているが、その数が最も多いのは横浜市で4756人」である(河合, 2019:104)。次とその次は、大阪市、名古屋市となっており、さらに、「同じ神奈川県内の政令指定都市である川崎市は450人、相模原市は905人の転出超過にとどまって」いる(河合, 2019:104)。これらを踏まえると、横浜市は東京に人を吸収されながら、かつ神奈川県内でも中心的な地位を築けていないということが言えるだろう。横浜市から転出する人のうち、東京都以外をみてみると、千葉県や埼玉県、そして川崎市と相模原市へ転出超過している。この理由して河合(2019)は、「手狭になった住宅からの住み替えや、高齢期を迎える前に丘陵地の住宅街か平地へと引っ越す人が中心」に移動していると考える(河合, 2019:106)。さらに、横浜市に対して「大規模な都市なのに、“草刈り場”と化している印象を受ける」と述べる(河合, 2019:106)。

4.川崎市


 川崎市は、「2017年4月に人口が150万人を突破するなど、近年、人口が急拡大しており、2019年5月1日時点でついに神戸市を抜いて政令指定都市6位に浮上した」、「東京圏の中でもとりわけ勢いのある人口集積地」である(河合, 2019:106)。川崎市の人の移動を詳しくみると、10代後半から30代前半の若年層が入ってきて、30代後半からの中高年層が出ていく「新陳代謝の良い街」になっている(河合, 2019:107)。この社会増の構造にある背景には「数多くの大規模マンションが竣工した」ことがあると河合(2019)は述べる(河合, 2019:107)。さらに、「鉄道網も発達し、東京の中心部への通勤・通学の利便性の高さに加えて、都心部ほどは住宅価格が高くなく、住環境が整っていることが人口増加につながっている」という(河合, 2019:108)。名古屋市や大阪市となると、距離的に東京へ移り住むしかないが、ある程度距離が近いと、交通網が発達しても東京へ人が吸収されないことがあると考えられる。

5.埼玉県(さいたま市)


 埼玉県は東京都や神奈川県から移り住む人数が多く、とりわけさいたま市は「2018年9月に130万人都市となった」、「若者の人気」がある街である(河合, 2019:108)。川崎市と同じように、20代から30代前半の若年層の社会増に成功している。その他にも、65歳以上の女性の割合も多い。特に東京都、千葉県、神奈川県からの流入が多く、これは、河合(2019)によると、「施設の受け入れ能力が残っている埼玉県が、東京圏の主要な介護の受け皿地域となっている」と考えられる(河合, 2019:108)。

6.千葉県


 千葉県の中でも、流山市は「子育て支援策に力を入れており、子育て世代の転入が増えている」(河合, 2019:110)。これに続くように、千葉県各市(船橋市、市川市、千葉市、柏市)の「“千葉都民”ともいわれてきた東京都心のビジネス街にアクセスのよいエリアでは、働き手世代や子育て世帯の流入が目立つ」(河合, 2019:111)。反対に、成田市のような「東京都心部に通うには遠いエリアでは人口流出が見られる」(河合, 2019:111)。
 最後に、東京圏内おける65歳以上の人の移動に注目する。細かく65歳以上~74歳以下、75歳以上と分けてみると、前者の転入は多いが、後者は埼玉県への転出超過が見られる。これらから、「退職後に良質な住環境を求めて移り住む人が多い一方、75歳を超えて要介護状態になると、埼玉県内にも施設の「空き」を探すケースが少なくない」ことが分かる(河合, 2019:112)。

7.まとめ


 今回は、東京圏内における人の移動に注目し、各市で特徴があることが分かった。さいたま市へ介護が必要な人が流れている現状をみると、いずれひっ迫する恐れもあると思われ、今後は東京圏内において介護の受け皿をどう増やしていくか、あるいは上手く地方へ流していくか(前に軽く触れたことあり)等を考えていく必要があると思った。

参考引用文献


河合 雅司(2019). 『未来の地図帳―人口減少日本で各地に起きること』講談社現代新書

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