日本の未来地図 ―人の移動①―

1.はじめに


 今回からは、「人の移動」に注目する。河合(2019)は、人口減少に伴って、各県や市が住民の取り合い、すなわち「住民の綱引き」が起きていることを指摘している(河合, 2019:28)。そして河合(2019)は、これから地域差が拡大することを理解し、このような状況の中で豊かになっていくために必要なことを考えなければならないと主張する。

2.挿入


 本題に入る前に、河合(2019)の『未来の地図帳―人口減少日本で各地に起きること』の特徴とアプローチについて述べておく。本書は、「日本列島で起きることのすべてを「自分ごと」として考える必要がある」と考えている(河合, 2019:16)。そういう意味で、「すでに書店に並んでいる地方創生の成功事例をまとめた書籍や、個別の都市未来図を描いた、“地域本”とは一線を画す」(河合, 2019:16)。
 この特徴を踏まえ、本書は2つのアプローチを行う。1つ目は、「現代を生きる人々が国土をどう動いているのかを追うこと」である(河合, 2019:17)。まさに、今回から述べる「人の移動」がこれにあたる。2つ目は、「「未来の日本人」が日本列島のどこに暮らしているのかを明らかにすること」である(河合, 2019:17)。ここで前提とする未来とは、「2015年から2045年」である。未来を想定することで、今後予想される厳しい状況を打開していきたい思いがここに込められている。
 こうした特徴やアプローチがあることを理解しながら今後も含めて話を進めていく。

3.人手不足の深刻さ ―京都市―


 「人口減少」という言葉をニュース等で触れることが多くなったが、この問題の深刻さを改めて理解することが重要である。その一つの例として、定住人口を増やすために行われている「住民の綱引き」競争の中に、世界的な観光都市として有名な「京都市」までもが参戦したことが挙げられる。京都市では、「人口の目減りに歯止めをかけるべく、建物の高さ規制を一部地域で緩和しようとする」動きがみられている(河合, 2019:29)。建物の高さ規制は、2007年の新景観政策の導入をきっかけに始まったが、「子育て世帯などの市外への流出が拡大し、市内に住んで働く人が減ってきたことへの危機感から」規制を見直す動きがでてきた(河合, 2019:29)。子育て世帯の流出理由には2つある。一つ目は、「建物の高さを規制したことで自由にマンション建設が進んでこなかったこと」である(河合, 2019:29)。2つ目は、地価の高騰である。「訪日外国人観光客の急増に伴う中心街でのホテルの建設ラッシュや、高級住宅地の物件が民泊目的で高値で取り引き」され、「その余波で市内各地の物件に割高感が出て、一部地域では中古のマンションでも高額で取り引きされているという」(河合, 2019:29)。

4.文化の維持か人口獲得か


 京都市がこうした問題に対応すべく高さ規制を検討することは分かるが、実際これを実行すべきであろうか。河合(2019)は、「規制を緩和して京都市内に高層ビルやマンションが立ち並ぶようになったならば、「千年の都」の魅力は大きく損なわれるだろう」と考えた上で、「日本全体で人口が減るのだから、いずれ京都市も人口が減ることはやむを得ないと考えるべきだ」と主張する(河合, 2019:30)。つまり、日本全体の人口規模が縮小していくことを踏まえると、高さの規制緩和によって人口を獲得するアプローチは短期的な目線であり、長期的に考えるならば都市の文化的魅力を維持した方がいいということある。そして、京都市に限らず人口獲得という政策を各市町村にまで広げて考えてみても、この「「住民の綱引き」に勝者はいない」ことが分かる(河合, 2019:30)。

5.まとめ


 今回は、人口減少の問題の深刻さを、京都市を例に考えることで理解するとともに、各市町村が行う住民獲得競争に勝者は存在しないことを明らかにした。

参考引用文献


河合 雅司(2019). 『未来の地図帳―人口減少日本で各地に起きること』講談社現代新書

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