地方創生 ―何をするか⑨―

1.はじめに


 今回は、「民間が努力を積み重ねて成果を収めた、全国が手本にすべき事例が、その後、潰されてしまう」(木下, 2016:81)問題について考えていく。「潰されてしまう」とは、一言で言えば、「様々な行政の施策がかえって地域の負担になり、長期的にみると衰退していくことになる」ということである。

2.どのように潰れていくのか


 ここでは、成功している事業に行政の施策が加わるとどのように潰れていくかをみていく。まず、地域で活動を徐々に拡大していき、成果が結果として表れてくると、地元紙から全国紙へとその活動が取り上げられ、全国へ知れ渡る。そうすると、行政から前回説明したような「成功事例集」に載せたいという依頼が来る。これに応じて成功事例集に載ると、「次から次へと、さまざまな役所の成功事例集に載せたいという話が相次」(木下, 2016:82)いでくるようになる。しかし、こうして来る依頼の調査協力費等は支払われないことが基本で、これが問題なのである。なぜなら、「時間だけとられておカネにもならない」(木下, 2016:83)構造がそこにあるからだ。成功している事業にたくさんの人や組織が「タダ乗り」(木下, 2016:83)にやってきては、時間だけ奪われていくことで、自分たちの活動に割く時間が減り、潰れていくのである。次は、3つの「タダ乗り」形態をみていく。

3.タダ乗り① ―視察見学―


 タダ乗り形態の一つ目は、「視察見学」である。事業が成功し、成功事例集に掲載されると、視察見学の依頼が一気に増加する(木下, 2016:84)。これに対応し、本来事業に割くはずの時間がなくなることで、「活動は前に進まなくなり、低迷期を迎えてしまうことも少なく」(木下, 2016:84)ない。事業が低迷すれば、当然視察も来なくなり、ただ使い捨てられる状況になるのである。なお、視察見学に人々が来ることによって手に入るお金は一過性のもので、低迷から救ってくれるものにはならない。

4.タダ乗り② ―講演会―


 タダ乗り形態の二つ目は、「講演会」である。成功した地域を率いている重要なトップ(キーパーソン)は、全国各地で開催される講演に呼ばれるようになる(木下, 2016:85)。講演会に呼ばれるのは誇らしく、優先したくなるものではある。また講演会を開くことで、参加する人を地元に呼ぶことができるメリットもある。しかし、「講演会ラッシュ」の間、トップの地元不在が続き、結局のとこと成果が低迷しがちなのである(木下, 2016:85)。そして講演会もまた成功事例でなくなれば呼ばれなくなる。

5.タダ乗り③ ―モデル事業―


 タダ乗り形態の三つ目は、行政からの「モデル事業」の誘いである。これには最も警戒しなくてはならないと木下は述べる。モデル事業とは、各省庁の予算をつけ、他地域からの「模範」となることを目的とした事業のことである(木下, 2016:86)。行政からの「モデル事業」の誘いでは、「一気に数千万~数億円の予算」(木下, 2016:86)が提示される。さらに、「国のモデル」となることや、その成功事業は地域でこつこつやってきて余っている資金などない中では、ついこの提案を受け入れてしまう。その結果、「「身の丈に合わない一過性の莫大な予算」は、地道に積み上げていた取り組みを破壊」(木下, 2016:86)するのである。派手なものを作ってしまったり、行政の依頼で無駄で膨大な報告書を作成したりするなどによって、割くべきところに時間を回せず、赤字化するのである。

6.地域がやるべきこと


 地域がやるべきことは、「自らが情報発信し、関心のある人々に、適切な情報を提供してい」(木下, 2016:88)くことである。今やインターネットで、各地域が直接やり取りを行い、情報共有できる時代である。情報も有料化し、価格をつけることで、受け手も敬意をもって「対価」としてお金を払うという適切な関係にする。そうすることで、対価として得たお金で新たな事業に向けて投資することができ、地域は持続的に活性化していく。「互いに挑戦し、その取り組みの内容を教え合い、「出せる範囲」で対価を支払う関係をつくっていけば、さまざまな地域課題を解決できる知恵がより育ってい」(木下, 2016:89)くのである。

7.まとめ


 今回は、成功している事業が、「成功事例集」に載り全国に広まり、タダ乗りされることで潰れていく過程と、それを踏まえて地域がやるべきことを述べてきた。割くべきところに時間をしっかり割くことが重要であることが分かった。

引用文献


木下 斉(2016). 『地方創生大全』東洋経済新報社

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