地方創生 ―どう使うか⑤―

 

1.はじめに


 今回は、前回の内容に続いて、時代の変化に適応する地域の事例を紹介する。その事例とは、岩手県紫波町の「オガールプロジェクト」である。
 

2.オガールプロジェクト


 オガールプロジェクトは、もともと紫波町が1997年に28.5億円で購入した紫波中央駅の前の土地の再開発をするために立てられたものである。この土地は、一度役所による開発で失敗した。そこで、「民間に任せて開発」し、それを「公民連携事業として推進する」(木下, 2016:136)再開発のためにオガールプロジェクトが立ち上げられた。具体的には、「カフェやマルシェ(市場)、子育て支援施設、図書館、運動場、ホテル、新しい役場庁舎、さらには先進的な分譲エコ住宅までを建てるという、一大再生プロジェクトで」(木下, 2016:136)ある。
 

3.行政機関と金融機関


 オガールプロジェクトの注目すべき点は、過去の決められた方針、すなわち税金で作り、税金で維持する方針から、「行政におカネがないなら、民間開発に切り替えて、金融機関から資金調達して公共施設と民間施設両方の開発を進める」(木下, 2016:136)方針に転換したことである。例えば、公共施設である図書館は、民間的には「大きな集客装置」(木下, 2016:137)として見ることができる。この発想から、「図書館は無償で開放しつつ、そこを訪れる人たち向けのカフェやクリニック、生鮮食品店を誘致」(木下, 2016:138)することで、家賃や管理費、収益の一部を図書館施設の維持費にあてるという公民連携の経営が行われることになった。
 

4.公共施設/民間施設開発


 多くの自治体が公共施設と民間施設を一緒に建てる開発が行われてきたが、そのほとんどが失敗に終わっている(木下, 2016:139)。オガールプロジェクトとは違って、そのほとんどが失敗するのは、「公共施設開発の手法を用いて、民間施設を一緒に建ててしまうからで」(木下, 2016:139)ある。
 公共施設開発は、開発前に予算が与えられ、すべて使い切ることが求められる。また、使い切らなければならないことから、「〇月までに」という期限があり、そのため計画がきちんと立てられる前から開発が行われることがある。さらに、公共施設開発には、様々な関係者が関わることから、各々の要望が交錯し、華美になる傾向がある。一方、民間開発というのは、適切な収支計画で、返済可能性が高い事業にしか金融機関から融資されない。そして、融資に対する返済が最優先されるため、華美にすることは当然ない。
これらを踏まえると、公共施設開発の手法で民間施設を建てると失敗することは容易に理解される。オガールプロジェクトでは、行政ではなく金融機関からの投融資によって行うことを決めたため、綿密で収益等を考えた計画が立てられ、かつ行政が民間に合わせて、一度決めた計画を変更したことで成功した。
 

5.公民連携の仕方


 オガールプロジェクトにはもう一つ注目すべき点がある。それは、公民が連携する際、行政側が民間側におカネを払うのではなく、民間側が行政におカネを払っていることである。例えば、佐賀県武雄市の「武雄市図書館」は、武雄市側がCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)におカネを払って図書館を運営している(木下, 2016:143)。一方、紫波町のオガールプラザにある図書館は、「民間企業であるオガールプラザの運営会社と入居テナントが、紫波町に家賃や固定資産税などを逆に支払っているので」(木下, 0216:143)ある。
 

6.まとめ


 今回は、オガールプロジェクトの事例から、行政の税金頼りによる開発ではなく、公民が
連携して金融機関から投融資してもらうことによる柔軟で変化に適応する開発の方法をみてきた。公民連携の裏には、行政側(自治体側)の職員の方々の協力や民間企業と向き合うことも必須となる。行政に依存せず、民間と連携して「公共施設や経済開発をセットにした、新たなプロジェクトを開発する」(木下, 2016:144)ことによる地方活性化の可能性が確認できる。
 

参考引用文献


木下 斉(2016). 『地方創生大全』東洋経済新報社

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