地域の衰退 ―国の取り組み①―

 

1.はじめに


地域基盤産業の衰退に対して、国はどのように取り組んできたのか。政策に多く共通するのは、規模を大きくすることで地域の衰退を防ごうとする考え方である。宮崎(2021:100)は、これを「規模の経済」的政策対応と呼ぶ。この政策対応の代表の一つである「農業の大規模化」に今回は焦点をあてる。
 

2.農業の大規模化


 農業の大規模化には、農作業に使う機械の費用対効果を高めるメリットがある。少ない農地面積でお金のかかる田植え機を使っても、得られる利益よりも田植え機のコストの方が高くなってしまう。そこで大規模化によって農地を拡大すれば、所得がコストを上回るというロジックである。
 農業の大規模化は少しずつ進んでおり、それは個人農家の拡大だけでなく、法人形態の経営体の拡大によって生じている(宮崎, 2021:103)。
 

3.農業の大規模化の効果


 農業に大規模化によって、コストを削減することができているのだろうか。実は、コメの生産においては、規模が大きくなればなるほどコストが削減されているわけではないことが、すでにいくつかの研究で明らかになっている(宮崎, 2021:103)。例えば、機械1セットと運転者1人の下では、10ヘクタール(1ヘクタール=100m×100m)程度の規模で限界に達してしまうとともに、規模がn倍になれば機械もnセットになることから、生産・販売数の増減に関係なくかかる固定費は低下せず、一方では圃場数の増加・分散化にともない、様々な非効率が発生することになる(宮崎, 2021:104)。
 コメの生産だけだからいいのではないかという声が上がりそうである。しかし、農業経営組織の半分が規模の経済が働かないコメの生産に従事しているのである(宮崎, 2021:105)。
 

4.農業の大規模化の悪影響


 農業の大規模化は、コミュニティに悪影響を及ぼすことがある。例えば、農業の規模が大きくなると、コミュニティの生活の質を担保する施設(学校、地域のクラブなど)が少なくなったり、コミュニティの幸福度が低くなったりするのである。つまり、「農業の大規模化が農村の活性化につながる」という単純な図式は成立せず、むしろ農村を衰退させる可能性すらあるのである(宮崎, 2021:107)。続けて宮崎(2021:109)は、次のように述べる。
 
「地域を支えるのは小規模な家族単位の農家であり、大規模な農業法人ではない。政府は、農業の規模を拡大することによって地域の衰退を食い止めようとするのではなく、小規模農家を前提に、いかにして農業を守り、地域を守っていくかを中心に据えて展開すべきである。」
 

5.最後に


 今回は、地域の衰退を防ぐ一つの取り組みである「農業の大規模化」政策をみてきた。この政策は、一見農業従事者を助ける仕組みに思われたが、収入(利益)は増加する一方で、コストの面で限界があることが明らかになった。そして、この政策は、その主旨とは別に、コミュニティへ悪影響を与え、農村を衰退させる可能性があるという思わぬ懸念が浮上した。数字(経済)を追い求めるのは手段であり目的ではない。地域を守ることが目的である。これを間違えないように、絶えず手段が目的化していないかを確認し、政策を考えていく必要があると考える。
 

引用文献


宮崎 雅人(2021). 『地域衰退』 岩波新書


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