地域衰退 ―具体的対応①―

 1.はじめに


 今回は、地域衰退を防ぐために、具体的にどのような取り組みをすればよいのかについて、医療サービスの維持と政策誘導の防止の二点に焦点を当てて考える。
 

2.問題整理


 これから何が起きていくのかについて、宮崎(2021:134)は人口統計に基づいて次のように説明する。高齢化率と人口に占める国民年金の受給権者の割合がほとんど同じになっていることから、高齢化率はその自治体でどのくらいの人々が国民年金を受け取っているのかを示す割合となっている。ゆえに、年金を受け取る人の減少は、その地域の社会保障給付の減少を意味する。あと10~15年経過して今の高齢者が亡くなるとすると、人口減少にある日本の状況から、次の高齢者の数は前の高齢者の数よりも減少する。すると、社会保障給付が減少し、地域が衰退していく。自治体は、現在の後期高齢者が亡くなることによって小規模化する問題があるのである(宮崎, 2021:136)。
 

3.医療サービスの維持


 社会保障給付が減少すると、医療・介護といった公共サービス業に特化した地域においてはサービスの維持が困難になってしまう可能性がある(宮崎, 2021:136)。ただ、医療・介護のうち、介護分野については、小規模の自治体でもサービス供給は存在しており、医療に比べて、財・サービスを供給する拠点の立地に必要な最少の需要量(人口)である成立閾は小さい(宮崎, 2021:136)。つまり、医療分野のサービス維持が重要な課題となってくるのである。
 

4.医療維持に必要な政策① ―経済的支援―


 まず、診療報酬を加算するなどの経済的な手当てが考えられる(宮崎, 2021:136-137)。すでに僻地や「医療資源の少ない地域」(宮崎, 2021:137)で、そうした経済的支援は行われている。しかし、先に述べたように、今後人口減少が進んでいくことから、「医療資源の少ない地域」は増えていくだろうと考えられる。医療そのものがその地域におけるサービス業として大きな割合を占めているところでは、「産業政策」として医療を維持していくことが求められる(宮崎, 2021:137)。
 

5.医療維持に必要な政策② ―アクセスの確保―


 医療へのアクセスは生存権の保障にかかわる問題である(宮崎, 2021:137)。現在は、例えば、医師が地域によって偏在している問題を解消するために「地域医療支援センター」が設置することで対策をしている。しかし、今後人口減少に伴って医師が足りなくなる地域が出てくることを考えれば、医師の偏在は常に起こる問題であり、切りがないと思われる。ゆえに、各地域で持続可能な医療サービスの在り方を考えていく必要があるだろう。
 

6.政策誘導の問題


 医療サービスの維持とは話を変えて、地方創生のために行っている国の政策誘導に問題があり、これをやめる必要があることを考える。宮崎(2021:140)は国の政策誘導には次の問題点があると指摘する。
第一に、人口減少と地域経済の縮小を目指すという目標の達成の可能性とその結果の価値についてである。国は、自治体の自助努力によって、自治体の人口の増加・維持、あるいは減少スピードを鈍化させることを実現可能かのように自治体に目標設定させる。その結果を評価することは現実的とはいえず、むしろ罪深いことである(宮崎, 2021:140)。例えば、群馬県南牧村では、「高齢者の豊富な知識と経験に基づく「高齢力」の活用」などが目標設定されているが、衰退を食い止めることができるほどの効果が期待できるかは疑問である(宮崎, 2021:141)。
第二に、地域特性を考慮しない表面的な施策に終わる可能性があることである(宮崎, 2021:141)。政令市を除いた約7~8割の自治体が、地方版総合戦略を外部委託した。しかも、外部委託先の会社はほとんど東京で(ある意味東京一極集中)、短期間で約1700の自治体が戦略策定を行った。これらを踏まえると、その地域の特性を特段考慮しない表面的な戦略に基づいて、地方創生が進められている恐れがある(宮崎, 2021:144)。外部委託を行った要因には、地方創生関連交付金が国から出ていたことが挙げられ、補助金による誘導があったという意味で、地方の活性化政策のスタートから問題があると言える。
こうした問題点から、国の政策誘導をとめるべきなのである。
 

7.まとめ


 今回は、医療サービスの維持と国の政策誘導をやめることで地域衰退を防止することにつながることをみてきた。次回では地域産業に注目して、地域衰退の防止方法について考える。
 

引用文献


宮崎 雅人(2021). 『地域衰退』 岩波新書


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