地方創生 ―組織①―

 

1.はじめに


 今回からは、「組織」に注目していく。組織問題は、行政や民間問わず、あらゆるところで起こる。組織は個人の様々な事情が入り組んでいるため、組織内部を変革することよりも、新たに作ることで解決することが多い。そこで、組織で発生する問題をみていくことで、新たに組織を作る時の助けとなる。今回は、組織の中でも、「撤退戦略に」に注目する。撤退戦略とは、「「ある事業がこういう条件を満たさなかったら中止、当初の計画であるこの水準を下回ったので撤退する」という要件を入れること」である(木下, 2016:237)。
 

2.撤退しないこと


 組織が大きく失敗する大きな要因の一つに、このままいけば失敗することが確実なのに「撤退しないこと」がある。事業は最初から成功するものではなく、9割9分失敗する。しかし、「その失敗の予兆を察知して、大幅な変更をしたり、そもそもその事業から撤退して異なる事業に挑戦する中で、成功が生まれて」くる(木下, 2016:236)。
 民間事業でも撤退しないで損失ばかりが積みあがっていくことが少なくないが、「地域活性化事業の計画書などを見ると、失敗したときの撤退戦略について書かれているものは皆無」である(木下, 2016:237)。地域活性化事業では、責任の所在を決め、失敗した時にいつ撤退するかをあらかじめ定めることが重要である。
 

3.撤退戦略が取れない問題


 とりわけ地域活性化事業において、こうした撤退戦略が考えられていない時、大きく2つの問題が発生すると木下(2016)は述べる。
 一つ目は、「失敗したときの傷が深くなる」ことである(木下, 2016:239)。失敗することが明白な状況でその事業から撤退しなければ損失だけが拡大していく一方であることは容易に想像できる。しかし、ここで言いたいのは、明らかに撤退する状況であるのにも関わらず、「「撤退する時期にさしかかっている」という議論が起きない」ことに問題があるということである(木下, 2016:239)。これは、その事業関係者が失敗を認めたくなかったり、責任を回避しようとしたりすることで発生する。
 2つ目は、「最初から撤退設定ができないような事業は、そもそも失敗しやすい」ことである(木下, 2016:239)。撤退設定ができないというのは、撤退戦略についての議題を事業計画策定時において出せない雰囲気になっているということである。「縁起でもない!」「失敗しろということか!」と言い出す人がいて、「状況を客観的かつ冷静に議論・判断できない環境」がそこにあるのである(木下, 2016:240)。
 

4.失敗による余計な損失


 地方活性化事業で使われるおカネは自治体のおカネであり、私たちが払う税金である。事業が失敗しているのにも関わらず、「場当たり的な支援」が行われたり、「失敗したことを取り繕うために」予算がつけられたりすることで、失敗により余計な損失がさらに発生する(木下, 2016:241)。しかもその損失は自治体負担、つまり私たちの負担となる。
 これを防ぐためには、「「ある一定の段階」を超えたら、過去の投資については「サンクコスト(回収不能費用)」であると諦め」ることを受け入れ、「撤退要件を絶対に最初に定め」ることである(木下, 2016:243)。
 

5.まとめ


 今回は、組織の中でも、「撤退戦略」に注目し、これが考えられないことによって発生する問題、そしてこれが考えられない組織問題を理解した。地方活性化事業では、成功しようという精神ではなく、失敗することを前提として、いかに修正したり撤退したりして大きな失敗をしないようにするかという精神をもつことが重要である。
 

参考引用文献


木下 斉(2016). 『地方創生大全』東洋経済新報社

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