日本の未来地図 ―人の移動⑥―

1.はじめに


 今回は、前回に引き続き主要都市に注目し、中でも広島市と福岡市を見ていく。

2.広島市


 広島市は、「広島県全体としては人口が減少傾向を辿る中、緩やかに増加をし続けてきた」が、「住民の高齢化によって30代後半の女性数が大きく減ったことに加え、亡くなる人が増えてきたため、自然減が進み始めた」(河合, 2019:82-83)。ゆえに、前回取り上げた札幌市や仙台市と同じく、現在の広島市の人口増加は「自然減を社会増が穴埋めする状況」になっている(河合, 2019:83)。社会増に注目すると、「広島市への転入が最も多いのは、同じ広島県内の市町村」である(河合, 2019:83)。県外でも、広島市が「200万人広島都市圏構想」をうたっていることも大きいのか、その構想に含まれる山口県や、他の中国各県の島根県、岡山県、鳥取県からの流入が多い。しかし、河合(2019)によると、「中国4県からの流入は思ったほどではなく、「磁力の弱い磁石」の印象である」(河合, 2019:84)。これは、名古屋市のように産業が多く集積されていないことや、山陽新幹線で「岡山市、福岡市、北九州市といった他の政令指定都市へ」短時間で行き来できること、さらに「平地面積が限られており十分な住宅地を確保しづらいこと」が原因であると考えられる(河合, 2019:85)。
 一方、転出はどうだろうか。これまで見てきた都市に共通して、就職や転勤で東京圏への流出することが挙げられる。広島市も同じく、「県内の大学や専門学校などに進学しても就職時に東京圏などに出ていく人、あるいは一度広島県内で就職するものの数年後に移りこむ人が多い」(河合, 2019:86)。特に若い女性の流出は、人口減少に直結するので、ここをどう食い止めるかが課題である。

3.福岡市


 福岡市は「九州の中心地であり、アジアのゲートウェイとして早くから海外展開を見据えて発展してき」ており、若者が多く、河合(2019)は「福岡市内を歩くと若い女性の姿が目に付く」という(河合, 2019:88-89)。他の多くの自治体や市は人口減少で悩むなか、「いまだ力強い発展を感じさせる街」である(河合, 2019:88)。その理由として河合(2019)は、「大学がたくさん存在し、学生が多いこと」や「暮らしやすい」ことがあるとしたうえで、最も大きな理由として、「人口規模の割に市街地に人口が密集している」ことを挙げる(河合, 2019:90)。つまり、「狭い区画の中に行政機関から商業施設までがまとまっているため、実際の人口以上に人の多さを感じやす」く、「「賑わい」を創出しやすいのである」(河合, 2019:90)例えば、福岡空港は市街地の中にあるので、「離発着の際に眼下に広がる街並みはさながらジオラマのようであり、遊覧飛行をしているような気分にさえな」ったり(河合, 2019:90)、福岡空港とJR博多駅、そして天神という福岡最大の繁華街がつながっており、移動がしやすいようになっていたりする。
 福岡市にはどこから人が流れてくるのか。「都道府県の中で最も福岡市に人数を送り出しているのは長崎県」である(河合, 2019:92)。そして、他の各九州県からも多く流れてきている。年代をみてみると20代の若者が多く、「とりわけ女性が進学や就職を契機として福岡市に流れ込んでいる」(河合, 2019:95)。これについて河合(2019)は、「距離的に離れた東京まで行くより、すぐに地元に戻れる福岡県に勤務先や進学先を求める人が多い」と考える(河合, 2019:95)。ただ、だからといって東京圏へ流れていく人もやはり多く、東京一極集中を止めきれてはいない。特に福岡市は、他の政令指定都市とは比較して、女性の流出が高い。「九州全域から若い女性を集め、そこから東京圏へと流れ出しているといえよう」(河合, 2019:97)。
 最後に、福岡市のいまだ健在する活気の雲行きが怪しくなってきていることを河合(2019)は指摘する。なぜなら、「子育て世帯が近郊のベッドタウンへと移り始めている」からである(河合, 2019:97)。福岡市は先述したように、狭い区画に人口や施設を密集させたことで賑わいを作り、それを魅力としてきた。しかし、近郊にベッドタウンができることで隣接する地域開発が進み、その開発拡大に巻き込まれて魅力が薄まる可能性がある。ゆえに、今後福岡市は、「急速な人口増加にあってもなおコンパクトさを貫き通せるかどうか」が課題となる(河合, 2019:97)。

4.まとめ


 今回は、広島市と福岡市の人の移動に注目してきた。広島市と福岡市に共通して若い女性の東京圏への流出が挙げられ、各市に若者を留まってもらうためにどうすればいいかが課題であることが分かった。とはいえ、広島市は「200万人広島都市圏構想」を掲げ、福岡市も他の市にない魅力を創出していることからわかるように、課題解決に向けて動いている。ブログでこれまで考えてきた、自治体の組織運営や自治体支援のありかたの問題とも照らし合わせても考えたい。

参考引用文献


河合 雅司(2019). 『未来の地図帳―人口減少日本で各地に起きること』講談社現代新書

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