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阿蘇のあか牛・草原牛プロジェクト

赤身肉がブームといえども霜降り肉もなんだかんだで売れている。シェフの好みが赤身肉でもお客様が霜降り肉を求めればそれを売るのが商売でありお客様のため。ストライクゾーンの狭い商売をしているなら我を通せばいいけど不特定多数を相手にしているとそう言うわけにもいかないだろう。

銀座の某レストラン。シェフは赤身肉が好きだという。でも、お客様は霜降り肉をリクエストする方が多い。場所柄なのか。この場合、僕が選ぶのはサシが適度にあり香りと味のバランスが優れている肉であること。近江牛のA3あたりがちょうどいい。A5だと僕の手当ては必要ないので僕から仕入れなくてもいいんじゃないかなと思ったり。

ちなみに、問屋の仕事と精肉店の仕事はまったく違います。そして、一般的な精肉店と僕がやってる仕事もまた違うのです。

さて、霜降り肉を作るには、牛を過度に太らせたりビタミンをコントロールさせる必要があると言われているのはご存知(の方も多い)と思う。しかしだ、情報が古すぎて更新されていない。その古い情報を自慢げに話す素人がいるからタチが悪い。

生産者が黒毛和牛の肥育で重要視していることがいくつかあります。そのうちのひとつが血統です。子牛の買い付けでも血統を参考にします。サシが入りやすい血統もあればそうじゃない血統もある。血統の話は別の機会に書くとして、知ってほしいのは、ビタミンコントロールが悪ではなく、過度な行為が牛の健康を害する結果になるということ。なんでもそうだが「〜すぎる」はよくない。

もうひとつ。霜降り肉を作るのに重要なのがエサです。人間と同じく食べたものが骨となり肉となり内臓や脂を作ります。和牛はトウモロコシや大豆粕といった濃厚飼料で育てるのでサシが入りやすいのです。

さて、ここからが本題です。対して、牧野で育ち、草だけを食べて育ったのが草原プロジェクトのあか牛です。脂身は少なく肉質はやや硬め。どちらが正しい育て方とかではなく、品種によって、また、生産者の考え方によっても育て方が異なるのです。最終ランナーは食べる人なのだから、好きなものを食べればいいと思うのですが、どの情報を信じるのか、だれの情報を信じるのか。情報はスマホからではなく自分の足で確認することが重要じゃないかな。

僕があか牛を扱う理由はいくつかあります。草原プロジェクトの橋村さんの「牛は本来、野山で草を食べて育つ生きものです」という考え方のもとに実践されている姿にロマンを感じます。それは橋村さんの人間性を知っているからなおさらかも知れません。

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広い野山に牛を放ち、草だけを食べさせる本来の育て方は、日本全国どこでもできることではありません。それは一年を通じて牛を養うだけの草を蓄える、阿蘇の草原だからできることです。草原を有効に活用し、日本の食の未来を明るいものにしていきたい。そんな思いから、「阿蘇のあか牛・草原牛プロジェクト」は生まれました。サスティナブルな畜産ってこういうことじゃないかな。

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あか牛は赤身肉だと思っている方がほとんどだと思いますが、実はそうじゃない。サシがたくさん入ったあか牛もいます。霜降り肉が高値で売れれば、生産者は牛にサシが入る育て方をします。ビジネスなら当たり前のことですが、このあたりも課題のはひとつなのです。実際、僕が熊本の生産者や問屋さんを訪ねたとき、あか牛もサシを入れる傾向にあると聞きました。外食でも、サシがたくさん入ったあか牛を見る機会も多いですしね。穀物主体でサシが入ったあか牛もいれば、草原プロジェクトや東海大学の取り組みのように、赤身が主体のあか牛もいます。だから、あか牛と言っても一括りにできないのです。

草原牛と他のあか牛と違うところは、畜舎で育てず、阿蘇の草原で一年中、草だけを食べて育てているところです。起伏のある野山を歩き回ることで牛は筋肉質になり人間でいうところのアスリート体型になります。また、畜舎で育てるのとは違い、糞尿の処理の手間が省けるなど、生産者にとってもたくさんのメリットがあります。

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「阿蘇のあか牛・草原牛プロジェクト」の牛肉は、一般的な方法で育てられた牛肉と比べると明らかに低脂肪であることが(写真)わかります。草だけを食べて育ったため、β-カロテンも豊富です。また、放牧によって一年中ほどよく運動をしているために機能性成分といわれるカルノシンや、うまみ成分と呼ばれる遊離アミノ酸などをたっぷりたくわえているのも特長です。

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濃厚飼料の国内自給率はわずか数%。ほとんどが輸入に頼っているのが現状ですが、夏も冬も草が育つ阿蘇の草原ならば、一年を通じて草だけで育てることができます。飼料自給率100%の国産和牛が育つことは、持続可能な日本の農業を考える上で意義のあるものです。また山間部草原のほか、耕作放棄地や使わなくなった果樹園なども放牧地として活用できるため、阿蘇の草原景観維持や農地の荒廃を防ぐ効果も期待できます。

先ごろ、土佐あか牛が独自の格付けで「赤身らしさ」を定義づける格付け制度を4月から実施すると発表がありました。従来の格付けは評価基準でありおいしさは関係ない、ということを理解している人が意外と少ないですが、土佐あか牛の格付け制度はそういった意味でも画期的であり、業界全体が少し立ち止まるきっかけになってくれればと期待しています。


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