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本屋じゃないけど本屋のはなし

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本屋はやめちゃったけど本屋が好きな人の本についての雑談。
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2019年8月の記事一覧

本屋にいったい何ができる

そこに一軒の本屋があったとして。例えばそこで働いていたとして。 私に一体何が出来るのだろう。 どんな手段を使ってでも明日が来るのを阻止したい人がいたとして。希望という言葉を忘れてしまった人がいたとして。言葉にできない感情を「口にしてごらん」と言われて途方にくれた人がいたとして。行き場を探してたまたま辿り着いた人がいたとして。 本屋に一体何が出来るのだろう。 例えば、歴史を築いた人の本を置く。困難を乗り越えながら生きた人の本を置く。現実では絶対に起きないような壮大な物語

イントロからエンジン全開でもいいじゃない

書店で本を選ぶとき、あなたはどこを見るだろう?外側だったらタイトル、表紙、帯、中身、文庫の裏のあらすじ。内側だったら目次、冒頭、あとがき、解説。いろいろあるに違いない。 ちなみに私は小説においては冒頭と終わりを読む。なぜ終わりまで、という風に思うかも知れないが、終わり方が自分の好みに合うかをなんとなく見る程度なのでネタバレ的な危険性はない、と私は思っている。それに実際読み始めると最後にどんなことが書いてあったかなど忘れてしまうものだ。ついでに白状すると、よくある「ラスト一行

予定のない休日はノンストップで読みたい小説と共に

「徹夜必至」「電車乗り過ごし注意」「ページを捲る手が止まらない」「一気に読んじゃいました」 どれもこれも本屋でよく目にする文句だ。あまり目にしすぎると「ほんとかよ」と思ってしまうかもしれない。「んなわけないだろ、徹夜はさすがに無理だよ」「気をつけて電車に乗らなきゃだめだよ」と思うかもしれない。あるいは「いやいや、そう言っときゃ買うと思って、まったくもう」とか。 たしかに冒頭の売り文句は使い古されてきた感がある。出版社の皆々様にはぜひもっとクリエイティブな文言を生み出してほ

この暑い夏に読みたい本の話をしよう

寒い夜だから明日を待ちわびて。寒い夜の過ごし方を教えてくれたのは小室哲哉だけれど、それなら暑い夜には何をしようか。なんて、あちーなー、と思う度に「寒い夜だから…」という歌声が頭の中に流れるのはこの狂ったような暑さのせいなのか。暑さが一周してついに寒さについてしか考えられなくなってしまったのか。まあそんなことはどうでもよくて、とにかく毎日暑いのだ。そんな時こそ涼しい部屋で優雅に読書なんてどうだろう。ということで暑い日々に読みたい本を5冊集めた。 ◆高野秀行『世にも奇妙なマラソ

言葉はいつだって不完全で曖昧だ

8月1日発売のBRUTUSの特集は「ことば、の答え。」だ。 BRUTUSの本や映画の特集はなるべくチェックするようにしているが、今回はついに言葉だ。 詩、リリック、台詞、回文、対談、小説の書き出し。少しずつだけどたくさんの方向から「ことば」をみる。 個人的には、表紙のスマホ画面が割れているところと、祖父江慎の「ことばとは?」に対する答えが好きだ。詩って、なんとなく日常とは離れたところにいるような気がするけれど、それが「画面の割れたスマホ」っていう実生活のなかにある、って

本屋じゃないけど本屋の話がしたいのだ

紙の本がヤバいという。本屋がヤバいという。 確かに、娯楽は多様化しているし、スマホになんでも入っちゃうからいちいち単行本や雑誌どころか文庫でさえ鞄に入れてなんかいられないし、そもそも鞄すら持ち歩かなくったってどうにかなるし。そりゃあ本は読まないよ。 わかっている。そんなことはもうだいぶ前からわかっているんだけど、それでも私は本と本屋の話がしたいのだ。 田舎で貧乏で親が不仲で友達少ない、という環境で育った私は、漫画雑誌にお小遣いをほぼ全投入し、あとは図書館で本を借りて読む