見出し画像

デジタル・シティズンシップに取り組む久喜市立久喜小学校の事例に学ぶ〜SAJ「ワクワクする学びの場創造研究会」第4回レポート

一般社団法人ソフトウェア協会(SAJ)の「ワクワクする学びの場創造研究会」第4回会合が、2023年3月8日(水)にオンラインで実施されました。3ヶ月に1度開かれる研究会では、メンバーとSAJ会員から自由に参加者が集って情報交換を行ってきました。今回が2022年度の最終回です。

久喜市立久喜小学校の先生方をゲストに

本研究会の活動目的は、「ワクワクする学びの場」について開かれた対話の場を創出することです。あえてゴールを定めずにエフェクチュエーションの考え方で交流をしてきたこれまでの会合の内容は、過去のレポートでご紹介しています。

[研究会レポート→第1回第2回第3回

今回は、埼玉県久喜市立久喜小学校でデジタル・シティズンシップ教育に取り組む先生方をゲストに招き、具体的な取り組みについて話を聞きました。同研究会メンバーのトレンドマイクロ株式会社 丸尾周平氏が久喜小学校の支援をしていたつながりで実現したものです。

<第3回研究会参加者(敬称略)>
中村⿓太(研究会主査/サイボウズ株式会社)、丸尾周平(研究会メンバー/トレンドマイクロ株式会社)、朝倉恵(研究会メンバー/さくらインターネット株式会社)、遠山紗矢香(静岡大学情報学部講師)、熊田洋子(株式会社Nex-E)、大庭成晴(株式会社Nex-E)、森田健一郎(株式会社Nex-E)、小林健一(株式会社豆蔵)

<ゲストスピーカー>
久喜市立久喜小学校 研究主任 太田我矩教諭
久喜市立久喜小学校 情報主任 竹下透教諭
久喜市立久喜小学校 3年生担任 中村仁美教諭

第4回参加者のみなさん。上段左から中村氏、遠山先生、中村先生、小林氏。中段左から熊田氏、太田先生、竹下先生、大庭氏。下段左から、森田氏、朝倉氏、丸尾氏

情報モラル教育からデジタル・シティズンシップ教育へ

久喜小学校からの発表では、まず太田先生がデジタル・シティズンシップ教育を導入した背景を説明しました。

久喜小学校は2019年度にそれまで150年近く続いた学校教育目標を「イノベーション力の育成」に大転換し、問題解決型の学習に取り組んできました。学びを学校内に閉じることなく、社会の問題を小学生なりの視点で解決していく探究活動が行われています。

そこへGIGAスクール構想で1人1台のChromebookが整備され、2021年度より本格的な活用がスタートしました。従来の情報モラル教育の「危険だから触らせない、大人が管理する」という意識では、道具として十分に使いこなすことはできないと判断し、新たに2022年度よりデジタル・シティズンシップ教育を柱に据えました。

デジタル・シティズンシップには「デジタル技術の利用を通じて、社会に積極的に関与し、参加する能力のこと」という定義があります。その考え方が、社会に参画していく学びを実践している同校にとって、とても親和性が高いというのが、デジタル・シティズンシップに取り組み始めた理由のひとつです。また、ICT活用を「インターネットで調べる」のような情報の“消費”手段と捉えるのではなく、情報の積極的な“発信”手段と捉えられるように意識を変革するメソッドとしても有効でした。

デジタル・シティズンシップは安全性の確保にも取り組みますが、大人が一方的に利用制限等をするわけではありません。太田先生は、「自分の理想をかなえていくためにデジタルを活用し、積極的に発信していくところの中に、自分を守る術も当然含まれるという、より大きなレイヤーとして捉えています」と説明しました。

太田先生の発表より

情報の「消費」から情報の「創造」へ〜3年生の実践

続いて中村先生より3年生の総合的な学習の時間で行った実践の報告がありました。まず3年生の子ども達が2年生にChromebook講習会を行うことからスタート。3年生は意欲的に操作の仕方を学んだ上で2年生に教えに行き、大変喜ばれて達成感を得ました。ただしこの段階では、子ども達の意識が操作方法というスキルばかりに向かっていたことに中村先生は気付きます。

そこで、他者意識を持てるように、丸尾氏がコーチとして、スライド制作のシーンを想定したトレーニングを実施。「子ども達が、操作の仕方だけでなく、この先自分が作ったものがどうなるのかな? と未来を考えたり、これを見た人はどんなことを思うのかな? と想像したりするようになり、少しずつ視野が広がってきました」と中村先生は振り返ります。

中村先生の発表より

その後、今度は交流のある高校の生徒に向けて、自分達が作ったメディアを発信するという活動をしました。「自分達の手元から離れるため、どうしたら伝えたいことが伝わるのかということや、写っている人の個人情報など、子ども達は色々なことを考えてまとめ、発信することができました」。

一連の取り組みは「SANDBOX プロジェクト」と名付けられ、学校をSANDBOX(砂場)に見立て、色々と試し、経験し、失敗し、教員も一緒に子どもに伴走するという姿勢で行われてきました。子ども達が、安心して失敗できる環境で、情報の発信者としての視点を徐々に獲得していく様子が伝わってきます。

教員や保護者の不安感を払拭するのが課題

最後に竹下先生が、デジタル・シティズンシップを推進する難しさにも触れながら、これまでの取り組みと今後の計画について紹介しました。

2022年度は校内、市内の先生向けに、日本デジタル・シティズンシップ教育研究会共同代表理事、国際大学GLOCOM准教授・主幹研究員の豊福晋平先生を招いて研修会を実施し、保護者向けの動画配信、3年生の授業公開などを実施しました。

推進の一方で声を集めてみると、現場の先生は、1人1台端末を使うのが精一杯の状態で「また新しいことをやらなければいけないのか」という戸惑いの声もあったそうです。また、保護者のICT活用に関する意見も肯定的なものばかりではなく、活用の実態がわからない不安が見えてきました。

「教師自身が、保護者自身が、ICTの活用に関してワクワクしている、使いたいな、使ってみたいなという思いを持つ、その実現こそがデジタル・シティズンシップではないかと考えて、来年度の計画を策定しました」と竹下先生は話します。

竹下先生の発表より

2023年度は、先生がICT活用やデジタル・シティズンシップ教育について気軽に相談できる体制づくり、ICTの活用例を失敗も含め共有する気軽な報告会、保護者向けのChromebookの体験会などを計画しています。また、先生自身が情報を発信する経験を積むために、Googleサイトにデジタル・シティズンシップへの取り組みをまとめるという取り組みをすでに始めているところです。

久喜小学校からの報告は、子どもの学びに貢献したいと考える企業関係者にとって、大変感銘を受ける内容で、参加メンバーからは質問や感想が相次ぎました。

来年度も活動を継続

2022度の活動は第4回会合で終わりですが、本研究会は来年度も活動を継続します。この日も参加者間でそれぞれの業務に関連する情報交換から、新しい取り組みや連携がうまれそうな雰囲気に。参加者それぞれに、新たな学びやつながりが得られる1年間の活動となりました。2023年度もSAJ会員から毎回参加者を募って会合を行われますので、ぜひご参加ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?