「私説三国志 天の華・地の風」感想3 孔明の恋愛が自傷行為に見える、国政の描写が細かく読んでいて面白いなど。
「私説三国志 天の華・地の風」を三巻まで読んだ。
前回の感想。
国政の描写なども細かく描かれていて面白い。
2巻は、落鳳破で龐統が死んだところで話が終わった。
「天の華・地の風」は様々な独自解釈が入っていて、龐統は劉備に取り立てられた後も呉と通じている設定になっている。
自分が仕えていた周瑜を殺した孔明を許せず、劉備の養子の劉封を抱き込んで派閥を作る。
龐統は孔明の策略で殺されるが、劉封は龐統に丸め込まれているため、そのあとも孔明に反目する。
その劉封派をのちに法正が引き継ぎ、劉禅の後見である孔明と対立する。
劉封の末路とつなげていく展開が上手い。
孔明と龐統の仲が険悪という設定も、目新しく面白い。
内政面の描写もしっかりしていて、例えば法正の死後の黄元の叛乱については、
丞相、このうえ滇からの塩鉄の貢納が途絶えますれば、冗談抜きで我が国はたちゆきませぬぞ。黄金にしてもそうだ。
漢嘉の金山は益州最大。朱堤の銀、塩鉄の専売、そして、錦官の蜀錦、工官の漆。
これがわが漢の官業の全て。一刻も早く漢嘉を平らげ、賊の手より黄金を奪い返さねば、国家百年の計を誤ることになる。
(引用元:「私説三国志 天の華・地の風」3巻 江守備 復刊ドットコム/太字は引用者)
ここに出てくる「錦官の蜀錦」の工房の描写などの詳細な描写が出てくる。
駆け引きも魏や呉の思惑など出てくるので、読んでいて楽しい。
地名や人名の説明は相変わらず余り細かくなく、当然のようにポンポン出てくる。
さらに時系列がいったりきたりするので、「三国志」のベースは抑えておかないと入りこみづらいかもしれない。
三巻の冒頭がいきなり白帝城の劉備の死の直前で驚いた。
龐統の死からそこまですっ飛ばすのか、と思ったらその後に時系列が巻き戻った。
登場人物像の多くは演義ベースだけれど、一方で龐統のように従来のイメージと大きく違う人物もいる。
「天華」の龐統は容貌が醜く、孔明に対するコンプレックスをこじらせている。孔明には暗く嫉妬している反面、最初に仕えた周瑜に思い入れる純粋な一面もある。
この龐統像はかなり好きだったので、二巻で死んでしまって残念だ。
基本的には史実を独自解釈で描写しつつ、孔明の内面の描写や葛藤を混ぜ込んでいる。
孔明の恋愛?が自傷(自罰)行為に見えて仕方がない。
三巻を読んで「ちさ×ポン」を思い出した。
孔明の恋愛?のどこに嫌な感じを受けるのか、やっとわかった気がした。
性行為が自傷(自罰)行為に見えるのだ。
「ちさ×ポン」や「ラヴァーズ・キスの里伽子編」のように、「尊厳を傷つけられたために、その尊厳を自ら貶めるような行為に走っている」のではいないか。
性的暴行を受けた棐妹をかつての自分と重ねる描写……さらに重ねているからこそ「ついに愛せなかった」し、ひどい扱いをしたのではないかと考え合わせてもそう感じる。
魏延との関係も脅されて始まっているのに、ひどい扱いをされればされるほど相手から離れられなくなっている。
深く傷ついているからこそ、その傷を繰り返しえぐり続ける。
棐妹や香蝉に対する扱いも、加虐に見えて自虐に見える。
自分に価値を見出して大切にしてくれる人間は遠ざけたくなり、自分を傷つける(罰する)人間の側にいると安心できる。
幼い頃受けた扱いと同じように自分を扱う相手と共依存に陥って、相手が少しでも自分の意に染まぬ言動を取ると内心で恨みを蓄積させる。
そういった無価値感と罪悪感のコラボレーションを見ていると、一方的な暴力で尊厳を踏みにじられる、ということは、ここまで深く人を傷つけるのかと暗い気持ちになる。
……この調子で自傷行為を延々とやり続けるのだろうか。
魏延との関係は、より陰惨な感じだし。
大丈夫かいな。
続き。五巻までの感想。
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