「資本主義は人間を隷属させ、肥大化していく神である」というマルクスの思想は、今の時代、もう少し注目されても良いかもしれない。

 AIが出てきた昨今、マルクスの思想を調べ直したいと思い、手始めに白井聡「マルクス 生を呑み込む資本主義」を読み出した。
 びっくりするくらいわかりやすい。
 自分もちゃんと勉強したことはないので、色々なものからの聞きかじりを、自分の頭をまとめがてら話したい。(正確なことを知りたいかたは、ご自分で調べて下さい)
 マルクスは、資本主義を人間に制御不能なシステムだと考えていた。
 資本主義は人間を労働力という商品にし、その商品として生きることを強いる。そして労働力として生きることを強いながら、「自分自身でその生き方を選んでいる」と思わせる。
 資本主義は全てのものを商品化し、すべてのものを合理化する方向へ進む。生産性を上げ続けることをシステム内部に要求し、自律的に肥大化していく。
 資本主義社会の中では、人間が自由意思で技術を革新し、生活を豊かにしているのではない。資本主義というシステムにより技術の革新を迫られ、その変化に人間が合わせることを求められる。

 このシステムを崩壊させることは外圧では不可能で、システム内部の矛盾が飽和するしかない。
 資本主義内部の矛盾とは、商品化された労働者である。そのため労働者(プロレタリアート)の怒りが頂点に達して爆発した時のみ、資本主義は崩壊する。
 資本主義が崩壊した後に、社会主義が起こり、その後に共産主義社会がやって来る。

 たぶんこんな感じ。
 改めて読むと厄介なものを残していったなと思う。
 自分は(前から言っているけど)社会システムと人間の内面のシステムをリンクさせて考える思想には反対だ。
 ニュートラルな認識を持っている人間がいないのだから、指摘することに(社会的には)意味がない。
「何かの影響の集合体だとしても、総体としてのその人の認識はその人独自のものとする」
 そういう前提を持たないと、必ず「他人の内面の正しさを(自分が)判断することができる」という方向に行く。
 この点で社会主義の国(なり団体)は失敗を繰り返している。

 なので、マルクスの思想も何だかなという斜めな目で見ていた。
 ただ共産主義社会が理想社会という考えにはまったく賛成できないにしても、資本主義社会がどういうものかという分析は確かになと思うことが多い。
「現状分析」は的確なのに、その後の展望や解決策になると急に「え?」と思う話になる、ということはけっこうある。
 マルクスも現状分析の鋭さから、その後の展望もきっと的確なのだろうと思った人が大勢いたから一世を風靡したのだろう。
「共産主義社会で平等を実現すれば人が人らしく生きられる」という展望が今のところとてもそうは思えないとしても、それを根拠に「資本主義社会はどういう問題と矛盾を抱えているのか?」という分析も意味をなさない、とは言えない。
「タイパ」と言って余暇でさえ合理化されていく現状を見ると、効率よく商品を消費していくのが人間に残された役割ということになりかねないかもと思う。
 進む方向はこれでいいのかと、もう少し考えられてもいい。
 マルクスが言うように、資本主義というシステムは破壊しない限り止まらないなら、考えても無駄なのかなとちょっと暗い気持ちにもなるけれど。

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