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「オウム病」の報道に、ギョッとしたあなたへ

数日前から、報道で「オウム病」を目にした方もいらっしゃると思います。
WHO(世界保健機関)が、欧州各国で「オウム病」が急増、死者も出ていると発表した、という報道です。

この報道を見て、あなたはどう感じましたか?

1.はじめに

ここで、少し自己紹介をさせてください。

私は、獣医師ですが、長年、国家公務員として働いてきました。
獣医師としての専門は、公衆衛生学(食品衛生、人獣共通感染症)や動物福祉です。
一方、行政官として、獣医師の専門知識を活かしながら、政策を考えることを仕事としてきました。

この仕事経験から、
・どうしたら、正確な情報を届けられるのか
・誤情報にまどわされないには、どうしたら良いのか
と長年考えてきました。

というのも、明らかに間違った情報や、誰かが想像で書いた内容が、SNSで拡散され、省庁批判につながる、ということを何度も経験したからです。

「それは、正しい情報ではありません」

そうお伝えしても、信じ込んでしまった方々には、なかなか公務員の言葉は伝わらないものです。

私自身、学生時代は、誰かの言葉をすぐに信じたり、ネットの情報を鵜呑みにして一喜一憂、こんな毎日を過ごしてきていたと思います。

このような経験から、正しい情報を得る必要性について、「オウム病」の報道をベースに書いてみようと思います。

2.オウム病とは

まずはじめに、オウム病について簡単に紹介します。

1)病原体

オウム病クラミジア Chlamydophila psittaci

2)感染動物

主に鳥類

3)感染経路

インコ、オウム、ハト等の糞に含まれる菌を吸い込んだり、口移しでエサを与えることによって感染

4)潜伏期

1~2週間

5)診断と治療

(1) 臨床症状:潜伏期後、突然の発熱で発病する。初期症状として悪寒を伴う高熱、頭痛、全身倦怠感、食欲不振、筋肉痛、関節痛などがみられる。呼吸器症状として咳、粘液性痰などがみられる。軽い場合は風邪程度の症状であるが、高齢者などでは重症になりやすい。胸部レントゲンで広範な肺病変はあるが、理学的所見は比較的軽度である。重症になると、呼吸困難、意識障害、DICなどがみられ、診断が遅れると死亡する場合もある。発症前にトリとの接触があったかどうかが診断のための参考となる。

(2) 診断:咽頭拭い液、喀痰、血液から病原体や病原体遺伝子の検出、血清から抗体の検出

(3) 治療: テトラサイクリン系薬が第一選択薬である。マクロライド系、ニューキノロン 系薬がこれに次ぐ。

6)予防

鳥との接触を避け、むやみに触らない。特に妊婦は注意しましょう。
鳥を飼うときは、ケージ内の羽や糞をこまめに掃除する。
鳥の世話をした後は、手洗い、うがいをする。

健康な鳥でも保菌している場合が有り、体調を崩すと糞便や唾液中に菌を排出し感染源となる場合があるので、鳥の健康管理に注意する。

口移しでエサを与えないなど、節度ある接し方をする。

【上記は、厚生労働省のサイトから引用】

3.WHO(世界保健機関)の発表

私がこのニュースを知ったのは、CNN.jpの報道記事でした。

見出しは、
「欧州各国で「オウム病」急増 5人死亡、多数が入院 WHO」

ここで、記事の元となった、WHOの発表を見てみましょう。

※以下、仮訳です。誤解を生じさせないよう、直訳です。

1)一目でわかる状況


2024年2月、オーストリア、デンマーク、ドイツ、スウェーデン、オランダは、2023年と2024年の初めに確認されたオウム病の症例が増加していること報告しました。特に2023年11月から12月にかけて顕著でした。また、5人の死亡も報告されました。ほとんどの症例で野鳥及び/または飼育されている鳥への曝露が報告されています。オウム病は、鳥類にしばしば感染する細菌であるChlamydophila psittaci (C. psittaci) によって引き起こされる呼吸器感染症です。ヒトへの感染は、主に感染した鳥の分泌物との接触によって起こり、主に、在来の鳥類間でC. psittaciが流行している地域で、ペットの鳥、家禽に関与する労働者、獣医師、ペットの鳥の飼い主、庭師に関連しています。関係国は、潜在的な暴露と症例のクラスターを特定するために疫学調査を実施しました。加えて、実施した対策としては、野鳥におけるC. psittaci の蔓延を検証するために、鳥インフルエンザ検査用に提出された、野鳥サンプルの分析が含まれます。 WHO(世界保健機関)は、引き続き状況を監視しており、入手可能な情報に基づき、この出来事によってもたらされるリスクは低いと評価しています。

<各国の状況説明の詳細は、省略>

2)公衆衛生上の対策

ヒトのオウム病は、関係国において届出が必要な疾病です。潜在的な曝露と症例のクラスターを特定するために疫学調査が実施されました。

国の監視システムは、鳥インフルエンザ検査に提出された野鳥のサンプルを実験室で分析して、野鳥の間で C. psittaci が蔓延していることを確認するなど、状況を注意深く監視しています。

3)WHOのリスクアセスメント

全体として、WHO のヨーロッパ地域事務所に所属する5 か国で、C. psittaci の症例報告が異常かつ予想外に増加したと報告されました。報告された症例の中には、肺炎を発症して入院した例もあり、死亡例も報告されています。スウェーデンでは、2017年以降、オウム病の症例が全体的に増加していると報告されており、これはより高感度のPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)パネルの使用増加に関連している可能性があります(【補足:要するに、検査する方法の違いにより、感度がアップするか何かで、検出頻度がアップしているかも、ということです】)。すべての国で報告されているオウム病の症例数が増加していることについては、それが本当の症例数の増加なのか、それとも、より高感度の監視や診断技術による増加なのかを判断するためには、追加の調査が必要です。
この病気を媒介する鳥が国境を越える可能性はありますが、現時点ではこの病気が人間によって国内的にも国際的にも広がる兆候はありません。一般的に、オウム病の原因となる細菌を、人が他の人に広めることはないため、この病気がさらに人から人へ感染する可能性は低いです。正しく診断されるならば、この病原体は、抗生物質で治療可能です。
WHOは、引き続き状況を監視しており、入手可能な情報に基づいて、この出来事によってもたらされるリスクは低いと評価しています。

4)WHOのアドバイス

WHO はオウム病の予防と管理のために次の措置を推奨しています。

  • オウム病の疑いのある症例をRT-PCRで検査して診断するという臨床医の意識を高めましょう。

  • ケージに入れられた鳥やペットの鳥の飼い主、特にオウム目については、明らかな病気がなくても病原体が保菌される可能性があるという認識を高めましょう。

  • 新たに入手した鳥は隔離しましょう。鳥が病気の場合は、獣医師に連絡して検査と治療を受けてください。

  • 野鳥における C. psittaci の調査を実施しており、他の理由で収集された、既存の標本も含まれる可能性があります。

  • ペットの鳥を飼っている人へは、ケージを清潔に保ち、糞が鳥の間で広がらないようにケージを配置し、過密ケージを避けるよう奨励しましょう。

  • 鳥、その糞便、およびその環境を扱う際には、頻繁に手洗いすることを含め、良好な衛生状態を促しましょう。

  • 入院患者に対しては、標準的な感染管理措置と飛沫感染予防策を実施する必要があります。

(以上)

ここまで、WHOの発表を読んで、あなたはどう感じましたか?

4.WHOのメッセージは?

報道の大元となった、WHOの発表を知る前後で、受け取る印象はどう変わりましたか?

報道記事に掲載されていなかった内容も、WHOは強調しているように感じませんか?

WHOのメッセージとして、
・EU各国で、オウム病が増加しており、5人の死者、多数入院
は、もちろん強調されていますが、その他にも、
・症例数が本当に増加しているのか、診断方法等の理由での増加なのか、わからない
・引き続き、注視していくものの、現時点ではリスクはそれほど高くない
・オウム病を予防するうえで、基本的な対策が重要
という部分が強調されているように思います。

※誤解を与えないよう補足させていただきますが、オウム病をはじめ、感染症は、正しく知り、怖がることが大切です。日本国内でも発生しています。
今回は、WHOの発表を引用しましたが、「リスクが低いから問題ない」ということではなく、感染症の知識を知って、感染しないような行動をとることが非常に重要です。

5.情報ソースをたどる意味

報道記事の見出しは、当たり前ですが、注目を集める必要があります。

注目を集められなければ、ネット記事が主流の今、クリックしてもらうことすらできません。

どうしても、センセーショナルさが求められます。

今回の報道記事は、決して間違った内容ではありません。

一般的にはあまり知られていない「オウム病」についての情報を広く伝えてくれた、この報道には、とても社会的な意味があります。

そして、記事を見た時に感じた「ギョッとした」は、新しい情報を得る意味で、とても重要なことです。


情報ソースをたどる重要性については、皆さん周知のことだと思います。

新聞やネットニュースの情報ソースまでたどると、見えない世界が広がるかもしれません。

※繰り返しになりますが、感染症は知識を持って、ある程度怖がることが大切です。知った上で、感染しないためにできる限るの対策を取ることが大切です。
※「動物の愛護及び管理に関する法律」でも、飼い主の責務として、ペットの終生飼養が規定されています。今回の報道で、ペットとして飼われている鳥たちが遺棄等されないことを願います。

6.そうは言っても、めんどくさいあなたへ

報道から、情報ソースをたどる重要性は分かっている、でも正直、めんどくさいですよね。専門外の情報なら、なおさらです。

そんなときは、以下の2つだけでも、いかがでしょうか?

1)複数のメディアの比較

今回のオウム病のニュースで、他のメディアを見てみると、産経新聞では、以下の記載がありました。

関係国は発生源を特定する調査などを実施。WHOは現時点で深刻なリスクとして評価していないが、状況監視を続けるとしている。

同じニュースでも、印象が変わりませんか?

2)書き手を想像してみる

日々の忙しい日常では、情報を複数見るのも、ついつい忘れがちです。

そんなときは、ふと思い出してください。

「報道記事も、誰かが作っているもの」

この「誰か」の視点を通して、作られたものです。

どんな方でしょうか?年齢は?性別は?専門は何かな?この記事で強調したかったのは何だろう?・・・・

想像ひとつで、報道を見る目が変わってくるかもしれません。

7.おわりに

今回は、「オウム病」の報道をベースに、情報ソースをたどる意味について書きました。

記事を見て、ギョッとしたときこそ、情報源を探してみると新たな発見があるかもしれません。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

次回は、情報を流している人をどう見極めるか、について書いてみようと思います。


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