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FXを「車の運転」に例えてみる

僕は現在、「エフプロ」というFX(外国為替証拠金取引)のメディアを編集しているのですが、皆様は「FX」というものに対してどんな印象があるでしょうか。

ネットのニュースなどで、FXが危ないものだと訴える記事・解説文を読んだことがある人もいることでしょう。そういった記事の影響もあってか、残念ながら世間では「怖い」とか「失敗すると大金を失う」といったマイナスイメージの方が強いのではないかと思います。

もちろん、FXはやり方によっては危険になることもあります。

しかしながら、そういった記事・解説文の中に「これは明らかにFXの仕組みを理解してないな」というものが含まれていることもあるのです。

ライターが顔や名前を出し、もっともらしい文体で書いてあるため説得力があるように見えてしまうのですが、実際にFXをやっている人間が見ると「それは違う」「ずいぶん的外れな説明だな」「この人はFXを知らないな」と感じる。そういった文章がネットの世界に出回ることは、実は珍しいことではありません。

そこで今日は、FXにまつわるさまざまな誤解を解きたく、一本書いてみることにしました。


まずは一つ、たとえ話をしましょう。
以下の文章を読んでみてください。


車は非常に危険な乗り物です。なぜなら車は時速200kmという猛スピードを出せる構造になっているからです。
もしも時速200kmを出しているときに急ハンドルを切ったら、重大な事故になります。死亡する可能性もありますし、そのときにシートベルトをしていなければ、死亡する確率は飛躍的に高まります。

だから、車に乗るのは止めた方がいいでしょう。


…いかがでしょうか。

まず、この文章が「事実か虚偽か」でいうと、まぁ「虚偽ではない」とはいえるでしょう。確かに、一部の車は時速200km以上を出すことも可能ですし、そのときに急ハンドルを切ろうものなら重大事故を起こすでしょう。決して、間違ったことを言っているわけではないと思います。

ただし、そういう説明によって導き出している結論が「論理的かどうか」で考えたらどうでしょうか。これに対しては、「論理的ではない」といえるのではないでしょうか。
なぜなら、上記で挙げている内容はすべて「そういう選択をしなければ、そうはならない」ことばかりだからです。

・時速200kmで走る
・急ハンドルを切る
・シートベルトをせず運転する

これらは、「強制的にその状態に置かれる」わけではありませんよね。スピードを出すか出さないかは運転者しだい。安全な速度で走ることも可能ですし、もちろん急ハンドルなどの危険な操作をしないようにもできます。
シートベルトはそもそも装着が義務づけられていますし、装着するのが当たり前です。

もしも、世の中にあるすべての車が、安全運転をしたくてもできない構造(勝手に時速200km出てしまうとか、勝手に急ハンドルになってしまうとか、シートベルトをしたくてもできないとか)だったとしたら「車に乗るのはやめておけ!」というのも筋が通っていると思います。

しかし、まるで運転する人全員がそうなってしまうかのような説明で「だから車に乗るのは止めておけ」と結論付けるのは、的外れですよね。


ところが。

世の中に出回る「FXについての説明文」には、こういったロジックがけっこう多いのです。

例えば、以下は実際にとあるメディアに掲載されていた解説文です。

FXは24時間取引が可能ですが、業務中や睡眠中などレートを確認できない時間帯に大きな損益が発生するリスクがあります。

これは確かに事実かもしれませんが、防ぐ方法がちゃんとあるのです。あらかじめ「損切り」の注文を入れておけば、そのレートになった時点で自動的に損切りの決済が行われます。

損切り注文は何も特別な技術ではなく、FXをやるうえでは基本中の基本。「FXの始め方」等のハウツー本に必ず書いてあることです。
「損切り注文を入れずに寝てしまう」なんていうのは、車の例でいえば、シートベルトをせずに運転をするようなもの。もしくは文字通り「居眠り運転」に相当する行為かもしれません。

そういう危険運転を「誰しもそうなる」かのように説明するのは、フェアではありません。


また、FXならではの「レバレッジ(証拠金以上の額面で取引できる仕組み)」も、完全に誤解したまま批判されているケースが多々あります。

日本では、証拠金に対して25倍までのレバレッジをかけた取引ができるのですが、この仕組みを解説する際に「25倍のレバレッジをかけると、利益も損失も25倍になる」という説明を見ることが非常に多いのです。

そして「25倍」というのをルーレットの倍率のような概念だと誤認してしまっているケースが多々あります。

これは実際にFXをやってみないと実感するのがなかなか難しいのですが、利益と損失は「取引する量」によって変化し、レバレッジによって変化するものではありません。
レバレッジ1倍で1万通貨(要は1万ドル)を取引した場合と、レバレッジ25倍で1万通貨を取引した場合の損益額は同じです。どちらも、1円の値動きがあれば1万円の損益になります。

厳密に言うとレバレッジ25倍のときは含み損に耐えられないため1万円も損失が出るずっと手前で強制的に決済されるのですが、このあたりの解説を本格的にやろうとするとかなり長文になってしまうため、ここでは「レバレッジという概念には誤解が多い」ことを理解していただければ幸いです。

レバレッジの「~倍」という言葉を見て、ルーレットの倍率のようなものだと誤解してしまうのは「FXあるある」の一つといっていいでしょう。


そして「FXは失敗すると大金を失う」というのも誤解に基づいているケースが多々あります。損益額を低く抑える方法がちゃんとあるのに、それには触れず、さも「すべての人が大金を失う可能性がある」かのように説明しているのもフェアではないといえるでしょう。

例えば、米ドル/円で1,000通貨(要は1,000ドル)の取引をしていたとしましょう。このとき、1円の値動きがあったときの損益は1,000円です。2円動けば2,000円。5円なら5,000円です。

たとえ10円というとんでもない値幅で失敗をしたとしても、損失は1万円。さらにその倍、20円幅でも損失は2万円です。もちろん痛い出費ではありますが「人生を狂わせるような損失額」とはいえないでしょう。

つまり、損益額は取引量によって決まるので、少ない取引をしていれば損益も少なく済むのです。もちろん数百万~数千万の世界でトレードしている人たちもいますが、1,000通貨であれば1日の損益額は数百円程度でしょう。

「やった、今日のランチ代500円ゲットできた」
「あー、失敗しちゃったかぁ。まあでも、喫茶店でコーヒー飲んだと思えばいいか」

FXにはそんな世界もあるのですが、「FXは危険」と説明される際にはなぜかそこには触れられません。数百万~数千万の資金でトレードする世界だけが引き合いに出されてしまいます。

車の例で言うなら、サーキットで0コンマ何秒を争うレースの世界を引き合いに出して「だから車の運転は危険」と言っているようなもの。車は、買い物や休日のドライブという使い方もできるのに、なぜかそれを紹介せず「車には乗るな」というのは、やっぱりどうにもフェアじゃない気がしてならないのです。


車が、危険な乗り物であることは事実でしょう。その事実から目を背けてはいけないと思います。
一方で車は、多くの地域で生活必需品であり、人生を充実させるための道具でもあります。車を「すばらしい道具」にしていくためには、安全運転をしっかりと勉強し、実践することが大切ですよね。

世の中すべてに言えることですが、何かを理解しようとするときには「正しく知ること」が重要です。誤解や偏見をベースに「理解したつもり」になっている状態がもっとも危険です。

FXに対する「正しい理解」を世の中に浸透させることは、メディアに課せられた使命。

その道のりは、はるか地平線の先まで続いているように感じられますが「千里の道も一歩から」という思いで、メディアを運営しています。

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