見出し画像

25歳ゲイ、雑記。

「わたし,やっぱり弱かったと思う。一匹狼で突っ張る強さを養うか,群れで生きる楽さを選ぶか……」
「その時々で決めたらどうですか。自分が楽に生きられる場所を求めたからといって,後ろめたく思う必要はありませんよ。サボテンは水の中に生える必要はないし,蓮の花は空中では咲かない。シロクマがハワイより北極で生きるほうを選んだからといって,だれがシロクマを責めますか」

梨木香歩『西の魔女が死んだ』

はじめに

今週末、卒業した大学に久しぶりに足を運んでみました。特に大学に行く理由があったわけではないのですが、ちょっと散歩がてら歩いてみようと思い立ったためです。そのときに思ったことを雑駁に書き連ねます。

蕎麦屋

最寄り駅の階段をのぼると、交通量の多い通りに出ます。小型店舗と学生マンションが立ち並ぶ、このちょっとごみごみした学生街っぽい雰囲気が好きなんですよね。通り沿いを歩いていると、大学1年生の頃によく行っていた蕎麦屋が見えました。ビルの合間にある、小さな蕎麦屋です。

天ぷら蕎麦

天ぷら蕎麦を頼みました。お金がなかった学生の頃は天ぷらなんてまず付けられなかったな。いや、そもそも学食以外で食べるには奮発するだけの勇気が必要だった。そう、その頃は金がなかった。

しかもまだ自分以外のゲイに会ったこともなかったっけ。18歳のさいとうくんは完全ノンケ生活を送っていました。こんな感じでした:

  • 自分が男が好きであることは自覚していた(小5〜)

  • 興味本位でゲイアプリのインストールと削除を繰り返す

  • 興味本位でゲイ掲示板を覗いてみる

  • ゲイバーや発展場なんてその存在すら知らなかった

今では社会人になり、躊躇いなく蕎麦に天ぷらをつけられるぐらいの収入はありますし、ゲイバーにも飲みに行くようになりました。発展場の掲示板からデータを吸い出すことだって朝飯前です。完全ノンケ生活時代の自分からはちょっと考えられないですね。ゲイデビューしてから早5年が経とうとしていますが、それでもこの店の蕎麦を食べると今でも変わらずほっこりします。過去の自分と現在の自分がちゃんと繋がっていることを再確認。

散策

大学付近を歩いてみると、角にあった珈琲屋は空きテナントになっているし、サークルでよく行っていたレストランはなくなっていて、跡地にはマンションが建っていました。もの寂しいですね。以前帰省したときにレストランが更地になっていたのを見たときは、思わず同期にLINEしてしまいました。そのときはまるで思い出ごと更地になったように感じたんですね。

そう、最早ここは自分の居場所ではありません。ここの学生でもなければ、親しい友人だって既に卒業しています。それでも、大学周辺に来ると安心するんですね。下手すると実家より落ち着くような気さえするのです。どうしてこんなに落ち着くんだろう? 考えてみると、ここがゲイとして自分の人生を謳歌しはじめた最初の場所であるということに思い至りました。

日記

この大学に通っている期間に、ゲイと遊ぶ楽しさも知りましたし、ようやく人間らしい恋愛ごっこもいくつかできました。大学時代の日記を引っ張ってみると、こんなことが書いてありました。

大学は最早4年目.(大学名)で学んだこの時間で少しは大人に近づけただろうか.いま振り返ってみて大きな転機になったのは,アルバイトをしてお金を稼ぐ経験を得たこと,コンタクトを買ったこと,(ゲイ・イベント名)に参加したことだろうか.

『さいとうにっき』(仮題)

いま読み返してみると「コンタクトを買うこと」と「大人に近づくこと」との間にいったい何の関係があるのかさっぱり分からないのですが、まあともかく嬉しかったんでしょう。

3つ目の「ゲイ・イベント」というのが、自分以外のゲイに初めて出会った機会でした。それは同時に、自分がゲイであることと正面から向き合った人生最初の時間にもなりました。20歳の誕生日を迎えたあと、大学2年の終わり頃でしたね。そのイベントは昼間のイベントで、ひとりで会場のドアを開けるときは心臓が破れそうになったのをよく覚えています。今では何の躊躇もなくゲイバーのドアをカランと開けちゃうのを思うと、自分も変わったなあとつくづく思うのですが。

そこからは人生が一気に拓けました。何があったでしょうか。


  • 偽りなく、自分の悩みや喜びを共有できるゲイの友人ができたこと。

  • 生まれて初めて男とキスしたこと。

  • 男の家で一緒に寝たこと。

  • 御開帳したら手術済で、心の底から世界を呪ったこと。

  • 初めてゲイを好きになったこと。

  • 寒空の大通駅で相手を待ち続けたこと。

  • 白石駅前からリアル相手の男の車に飛び乗ったこと。

  • ナイモンの初めてのメッセージで「お久しぶりです」と言われたこと。

  • 一緒に食べたご飯が美味しかったこと。

  • 横になって話しながら、他人の苦労話から人生の豊かさを学んだこと。

  • 記憶の中の顔はおぼろげで、名前なんてまして覚えていないけれど、どんな形だったかは今でもよくよく覚えていること。

  • リアル相手に「結構頑固なところあるよね」と言われたこと。

  • ナイモンでのやりとりにどことなく違和感を覚えたので、札駅の妙夢前で待ち合わせをしておきながら、ステラプレイスの上の階の吹き抜けから相手を観察してから会いに行ったこと。

  • リアル相手がバイト先の社員とすれ違ったらしく、挨拶をしていたのにガン無視を決め込まれていたこと。「こいつはやべえの拾っちまったな」と思いながらも「よく聞こえてなかったんじゃないですかね」とフォローにもならないフォローを施したこと。

  • 友人にナイモンの活用法のレクチャーを受けたこと。

  • 冬の夜、大学のキャンパスの芝生で静かにキスをしたこと。

  • 丁寧な暮らしをしている男の家に行き、丁寧な味がするサラダを食んだこと。

  • 年上のゲイに猫なで声でニャンニャン甘えられて、悪寒と嘔気を覚えたこと。

  • 別の男との経験の記憶との取り違えに、枕を交わしてから初めて気がついたこと。


主に日記から取り出したこれらの思い出は、間違いなく今の自分を形作っています。経験の起こす摩擦の中で、削られて歪になりながらも、少しは磨かれたのではないでしょうか。ゲイだからできないこともあったけれど、ゲイだからこそできたこともいっぱいありました。振り返ってみると、ゲイとして学生時代を送ることができて、本当に良かったと心底思います。

あー、女に生まれて、良かった!

ブルゾンちえみ(藤原しおり)

おわりに

この大学にも、きっと自分より若くて、ちょっと迷っているゲイがいるはずです。今日だって隣をすれ違っていたかもしれない。そんな後輩ゲイが幸せなゲイライフを送れるよう、心から願っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?