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25歳ゲイ、発展場定量分析リターンズ。

Abstract

This study aims to obtain a more accurate picture of the status quo of male homosexuals' use of a cruising spot than Saito (2023) by analyzing a larger data set. In this study, 1595 data were extracted by scraping postings on the bulletin board of the cruising spot. Data analysis indicates (1) that the most popular time for visits was from 6:00 p.m. to 7:00 p.m.; (2) that the visits are most frequent on Fridays, Saturdays, and Sundays; and (3) that the most popular time for visits tend to be at the earlier time as age increases.

はじめに

前回の記事、否、先行研究 (Saito 2023) であるが、実は着々と閲覧数を伸ばしつつあるらしい。Note のダッシュボードからアクセス状況を見ると、4記事の中で最も閲覧数が多いのです (投稿日現在) 。

暇を持て余したある夜、手慰みに始めたおふざけが閲覧数の上で他の記事を抑えているのは正直釈然としませんが、それなりに需要があるのかも……?

そういうわけで、また発展場分析を行います。しかも、今回は大規模調査(当社比)です。Saito (2023) で今後の課題として挙げられていた、より多くの標本から傾向を読み取るということについて、今回は再チャレンジしました。

日本を代表するゲイタウンにある発展場の掲示板から取得したデータを分析しました。標本数はなんと N=1,595。前回の30倍です。恐るべし。


閑話:「発展場」という用語

【注記】「発展場」という用語の由来に、特に関心のない向きは、この一節は読み飛ばして「目的」まで進んでいただきたい。

本題に入る前に、そもそも発展場ってなんで「発展場」って言うんでしょうか。前々から気になってはいたのですが。調べてみると Wikipedia にはこんなふうに書いてあります。

異性愛者の男性で、女性関係や酒場などでの交友関係が広く盛んな人を指して「発展家(はってんか)」と呼ぶが、「発展場」に使用される「発展(はってん)」の意味合いと共通点が指摘されている。ただし「発展場」という語が同性愛者たちに浸透していく年代と、この「発展家」という語が広く使用されていった年代が重なるため、どちらが先に使われたかは不明である。なぜ「発展」が当てられたのかについても定かでない。

Wikipedia, 「発展場」のページ(強調筆者)

なるほど。それでは「発展家」を、本邦が誇る日本最大の国語辞典『日本国語大辞典』(俗に「ニッコク」と呼ぶ)で引いてみましょう。

ちなみに、この辞書にさほど詳しくはない向きに付け加えると、この辞書はすごいヤツなのです。その単語がある特定の意味で使われた例として最も古いものがいつ使われたのかも記載されています。

はってん‐か 【発展家】
解説・用例
〔名〕
手広く活動する人。特に、酒色などに耽ってあちこちと交際を広げてゆく人。
*忘却の河〔1963〕〈福永武彦〉二「あたしは香代ちゃんみたいに発展家じゃないし」

『日本国語大辞典』「発展家」

これを見ると「発展家」は1963年が初出のようです。 高度経済成長期とか学生運動とかの時代ですかね。

ん? でも「発展場」にせよ「発展家」にせよ、形態素は2つに分かれるのでは?(「発展+場」とか「発展+家」とか)

そもそも「発展」がこの意味で使われたのはいつぐらいなんだろう。調べてみましょう。

はっ‐てん 【発展】
解説・用例
〔名〕
(2)異性関係や酒などに耽って遊び歩くこと。
*現代新語辞典〔1919〕「発展(ハッテン) 俗に『遊ぶ』といふ意味に同じ。花柳の巷に足繁く出入すること」
*つゆのあとさき〔1931〕〈永井荷風〉一「男はいざとなると薄情ねえ。わたしもいい経験をしたのよ。だから今度は大に発展してやらうと思ってるのよ」
*故旧忘れ得べき〔1935~36〕〈高見順〉七「君が神楽坂まで発展してゐるとは知らなかったと言った」
*金色青春譜〔1936〕〈獅子文六〉ガッチリ・太郎立志記「御卒業の時ですが、あの時はだいぶ御発展(ごハッテン)で」

『日本国語大辞典』「発展家」
時代研究会(編)(1919)『現代新語辞典』耕文堂
(国立国会図書館デジタルコレクションより。下段に「発展」が立項されている)

この意味での「発展」初出は1919年。あれだ、ベルサイユ条約とかワイマール憲法とかの年でしょ。第一次世界大戦後って感じ。どうやら「発展場」も「発展家」も、この「発展」の意味から来ているのではないでしょうか(雑)。

異性愛者の間では(たぶん)使われなくなった「発展」の意味が、同性愛者間の会話では令和の今になってもまだ生き残っているのが面白い。

閑話休題それはさておき


目的

Saito (2023) 同様、本研究に目的なんてありません。暇つぶしです。でもこの暇つぶし、最高に知的好奇心を刺激することに気づいてしまった。めちゃくちゃ楽しい。

対象・手法

対象は上述の通り、日本を代表するゲイタウンの発展場の掲示板から取得したデータです。このデータを、Excelをゴリゴリ地道に使いながら分析していきます。基本はピボットテーブルとピボットグラフを使いながらまとめる方針です。

分析結果

年齢層

今回は身長体重年齢のデータをどう入力・処理するか悩みました。あるデータは「169-63-23 ウケ」とハイフンつなぎで記載されているのに対し、他のデータは「166.51.25 リバ」とピリオドつなぎになっていたりと、全く一定しないのです。さあ、どうするか。

なにせ標本数が1,000を優に超えているのです。とても手作業では処理できません。ここで考案したのが、身長体重年齢は(この発展場の入場規則に基づけば)7桁になるはずであるという点に着目して編み出した以下の方法です:

  1. 元データをテキストエディタに流してワイルドカード[!0-9]で置換を使い、数字以外の文字列を除去する。

  2. 7桁 (e.g. 1756027) になっているかチェックする。
    (1,000,000から9,999,999の範囲内に収まっているか確認する。調べてみると、体重が欠けていたり、なんとウケ二人で発展場に入っていくような不届き者がいたりして、少なくない数のデータがこの作業で弾かれた)

  3. Excel上で、LEFT関数、MID関数、RIGHT関数を使って、3桁2桁2桁に切り分ける。

  4. 50を基準にして、体重と年齢が逆になっていると思わしきデータを検索する。(ちなみに1件検出。チェックしてよかった)

簡便でなかなか良い方法を思いついたものです。作業の結果、利用者の年齢層はこんな感じであることがわかりました。

27-29 歳が多いね

ここでも、20代後半(27-29 歳)が多いです。標本数が多いときれいな分布になりますね。

ポジション

1594人のゲイ(ポジション不明1名)

ポジションはウケが多いですね。もし世界が100人の村だったら、100人のうち、40人がウケ、残りはタチとリバが30人ずつです。しかし、30人のリバは実質ウケです(ド偏見)。いま、この地球ではタチ不足が深刻化しています。

全然サステイナブルじゃない。話変わるけど SDGs って2030年おわったらどうなるの?

訪問時間帯

この処理も悩ましい。この掲示板は、訪問予定時刻を必ず書く仕様にはなっていないのです。一応、いくつか訪問予定時刻を載せている投稿もありますが、数は少ないですし、それを取り出そうとするとサーバーに相当の負荷をかけてしまうでしょう。

しかし、先行研究である Saito (2023) では「2時間30分前仮説」が提案されている。これは「外れ値を除くと、平均して発展場訪問時刻からさかのぼること約2時間30分前に発展場訪問予告の投稿が行われる」という事実に基づき「掲示板への投稿は、発展場到着の2時間30分前に行われている」ということを主張する仮説である。ここでは、この仮説を援用した。

美しすぎる分布。世界5分前仮説じゃないよ。

訪問時間帯のピークは18時台。先行研究で示された訪問時間よりも1時間早いですね。

訪問曜日・時間帯

金・土・日が同じぐらい人気

一番多いのは、僅差で日曜日18時台。こちらだと金・土・日で同じぐらいの人気感があります。金曜と土曜は15時〜22時ぐらいが人気で、日曜の19時以降はやや客入りが少ないですね。翌日月曜から仕事がある社会人の利用も多いでしょうから、そのことが原因となっているのでしょうか。

ちなみに、先行研究では金曜の夜が大人気でした。今回の結果とは少し差がありますね。やっぱり標本数が少なかったから偏りが出たのでしょうか。

年齢層と訪問時間帯

年齢が上がるにつれ、訪問時間のピークが早い時間になっている?

上の表は、年齢層と訪問時間帯の関係を表しています。それぞれの年齢層において、訪問者が最も多いと考えられる時間帯の行にあるセルの数字が、赤の太字で示されています。ここから、年齢が上がるにつれ、訪問時間のピークが早い時間になっている傾向が見られません?

みなさん、若ホモ狙うなら遅めの時間ですよ。(?)

でも、なんで年齢が上がるにつれ、訪問時間のピークが早い時間になるんでしょうか? 理由がよく分からない。しかも、33-36 歳の層では深夜に(も)ピークが来ているし……。どうなんでしょうか。今後の研究が俟たれます。

成果・課題

やっぱり規模が30倍になると、分布も傾向も色濃く出てきますね。やっていて楽しかった。

課題としては、データの分析を一通り終えたあと、強烈な虚無感に襲われることが挙げられます。

「仕事終わりに俺は何をしているんだろう……。」
「休日潰してやった意味って……。」

もうやらないかな!

まとめ

発展場分析は、楽しいけど、つらくなる。以上。
だれかやりたい人いたらやってくださいな。データも欲しかったらあげる。

謝辞

First and foremost, I would like to express my gratitude to Heisha, who has been with me on weekdays and weekends. Without the severe stress you have caused me, I would never have been able to write this s**t.

平日・休日を問わず、常にわたしと共にいてくれた弊社に対し、第一に感謝の意を表したい。弊社での過重労働がもたらす深刻なストレスなしには、このような品性下劣な論文を書き上げることは到底できなかったはずだからである。

参考文献

  • Saito, Anonymous (2023) "A Quantitative Analysis on a Gay Cruising Spot," The Cruising Spot Review 23, 141-150.

  • 時代研究会(編)(1919)『現代新語辞典』, 耕文堂.

  • 日本国語大辞典第二版編集委員会 (2001)『日本国語大辞典』, 第二版, 小学館.


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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