鎌倉のセンセの思い出 3 思いやりの人
センセは思いやりの人だった。誰にでも分け隔てなく、情けをかけた。
相手をよく観察し、良いところも悪いところも承知のうえで、伸び悩む部下には、成長の機会を与えた。経済的な支援をそっと差し伸べてやることもあった。助言も惜しまなかった。
ところが、私たちのような若造には温情が理解できない。なかには刃向かうような不心得者もいた。八方美人と批判する者もいた。
センセはそんなことは百も承知で、笑い飛ばしていた。「蓮は泥の中から茎を伸ばして花を咲かせるんだよ」。少し寂しそうに、笑っていた。
表向きは美しく、聖なる世界だと思っていると、実態はまったく逆で、ドロドロした、陰湿きわまる、穢らわしい魔界だということもある。それが人間の世界というものだ。
「罪を憎んで、人を憎まず」。センセはそんな神道人としての生き方を貫いた。私も少しは見習おうと思ったが、足元にも及ばなかった。
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