斎藤吉久
河野太郎・総裁候補の非「保守」的皇位継承論──天皇を論ずる資格がない
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河野太郎・総裁候補の非「保守」的皇位継承論──天皇を論ずる資格がない

斎藤吉久



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河野太郎・総裁候補の非「保守」的皇位継承論──天皇を論ずる資格がない
(令和3年9月12日、日曜日)
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10日に自民党総裁選立候補を表明した河野太郎・行政改革担当大臣が記者会見で、持論とする女性天皇・女系継承容認を封印したという。

「日本を日本たらしめているのは、長い歴史と文化に裏付けられた皇室と日本語だ。そういうものに何かを加えるのが保守主義だ」と語り、「保守主義」に基づいた政治を強調したと伝えられる。

持論は持論として、現実主義的な路線変更の姿勢を示すことで、党内の不安感を払拭し、支持を広げようという姑息な選挙戦術は明らかである。


▽1 「皇男子孫継承」を明記した明治人の英断

報道によれば、河野氏は2日前の8日には、安倍晋三・前総理と会談し、立候補の意向を伝えるとともに、「男系で続いてきているというのが、日本の天皇のひとつのあり方なんだと思う」と語った。さらには、青山繁晴参院議員ら党内保守派議員とも会談し、「自分は女系容認論者ではない」と述べ、不安解消に余念がない。

しかし、一年前の昨年8月、インターネット番組に出演した際には、当時は安倍政権の防衛大臣だったが、明確に女系継承容認論を展開していた。男系継承主義に疑問を投げかけ、「女性宮家」創設、「愛子さま天皇」待望論を開陳していた。

君子は豹変したのである。

持論とされる女性天皇・女系継承容認論の詳細は、河野氏の公式サイトに載っている。「皇室の危機を回避する」(ブログ「ごまめの歯ぎしり」2016年10月19日)がそれである。〈https://www.taro.org/2016/10/皇室の危機を回避する.php〉

河野氏は冒頭、「皇室はかつてない存続の危機に瀕している」と言い切っている。「天皇陛下より若い皇族男子は、皇太子殿下、秋篠宮文仁親王殿下、秋篠宮悠仁親王殿下の3人しかいらっしゃらない。将来、悠仁親王家に男子がお生まれにならなければ、男系の皇統が絶えることになる」というわけである。

しかし何度も書いてきたことだが、「存続の危機」はいまに限ったことではない。ほかならぬ女系派が「危ない綱渡りを繰り返してきた」(高橋紘・所功『皇位継承』)と述べているし、明治憲法制定当時こそ、女帝の認否は「火急の件」だった。明治天皇には皇男子はなく、皇族男子は遠系の4親王家にしかおられなかったからだ。

それでも明治人は「万世一系」「皇男子孫継承」を憲法に明記したのだ。河野氏は明治人の英断をどこまで理解しているだろうか。


▽2 なぜ男系継承が固持されてきたのか

河野氏はブログで、皇室の男系継承の歴史を認めている。その一方で「しかし、(今後)維持できるかどうか」と疑問を投げかけている。「現実は容易ではない」というのだ。

河野氏は男系維持のための3つの方法を取り上げ、検討し、そして男系主義を否定している。

ひとつは旧皇族男子の婿入りで、新宮家を創設し、男子が皇位を継承する方法だが、内親王、女王に結婚を強制できないし、旧宮家は「600年近く、現皇室との間に男系の繋がりはなく、その男系が皇室を継ぐことが国民的に受け入れられるだろうか」と疑問を投げかける。

しかし、皇室の歴史においては、しばしば「婿入り」はある。ただ、河野氏の「婿入り」と違うのは、光格天皇の例で明らかなように、先帝の崩御後、親王家から養子となり、皇位が継承された。そして先帝の内親王は中宮となった。

国民が受け入れるかどうかではなく、それが皇室のルールである。

ふたつ目は側室の復活、3つ目は人工授精など医学的方法を用いる方法だが、いずれも現実的でないと否定し、男系維持を主張するなら、国民に広く受け入れられる具体的な方法を提示せよ、と男系派をけしかけている。

しかし天皇は天皇であり、皇室は皇室である。皇室の皇位継承の鉄則は国民に受け入れやすいかどうかではない。むしろ河野氏は皇位が男系で維持されてきた理由を追究すべきではないのか。「綱渡りを繰り返して」さえ、古来、男系継承が固持されてきたのは何故なのか。

けれども河野氏は逆に、皇室の歴史と伝統を弊履のごとく捨て去り、「男系、女系に関わらず皇室の維持を図るべき」と論理を飛躍させている。明治人が「万世一系」と表現した「王朝の支配」の意味を忘れているのである。


▽3 女系継承容認どころか祭祀の変更をも要求

そして、あまつさえ、「皇統断絶」より「皇室のあり方を変えよ」と訴えている。皇位が男系主義で紡がれてきたこと、女帝は容認されても、夫があり、もしくは妊娠中もしくは子育て中の女帝が否定されてきたことの意味を理解しようとせず、典範改正、長子継承への変革を要求するのである。

しかし、その目的は何だろうか。男系主義を否定した皇位継承は皇位継承に値しないし、それでも「皇統」を強弁するのは何のためなのか。

さらに河野氏は「継承ルールの変更の議論を速やかに始めよ」と急かしている。そしてさらに、「長子継承なら、天皇家の祭祀の変更が必要かどうか、確認せよ」と迫っている。女性天皇には祭祀がお務めになれないなら祭祀を変えよとのご託宣である。

つまり、河野氏の皇位継承論とは革命論に等しいということだろう。世界の王室を見ても、それぞれに独自の王位継承法があるが、固有の歴史と伝統を無視して、根底からの変革を要求するのは下剋上にほかならない。

繰り返しになるが、歴史上、8人10代の女性天皇が確かに存在するとはいえ、夫があり、あるいは妊娠中・子育て中の女性天皇はおられない。その理由は、皇室がもっとも重視する「祭り主」天皇論に根拠があることは明らかである。「およそ禁中の作法は神事を先にす」(禁秘抄)である。

女系継承を容認し、祭祀の変更をも要求する河野氏の天皇論は、保守主義とは無縁のものである。

最後に河野氏は、「宮内庁の改組」に言及している。皇室の危機を放置してきた責任、宮中祭祀や陵墓等の情報公開に消極的だった宮内庁の責任を問いかけているのだが、荒唐無稽で論評に値しない。政府・宮内庁が25年も前に女系継承容認に舵を切ったことが今日の混乱の原因であることなど知らないのだろう。皇位論を論ずる資格がないのではないか。お調子者の素人論議である。


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斎藤吉久
昭和31年、崇峻天皇の后・小手姫が養蚕と機織りを教えたと伝えられる福島県・小手郷に生まれる。弘前大学、学習院大学を卒業後、雑誌編集記者、宗教紙編集長代行などを経て、現在フリー。著書に『天皇の祭りはなぜ簡略化されたか』など。「戦後唯一の神道思想家」葦津珍彦の「没後の門人」といわれる